橋場英男の場合 33
第二十九節
「そいつら通すんじゃねえぞお!テメエふざけんなよクソがあ!」
聞きたくも無い罵声、怒声が背中をつんざく。
やはりボスなのか、指令を守ろうと立ちふさがるバーテン。
だが、次の瞬間、お姉さんのキックがバーテンの股間…はっきり言うと男性器の当たりにヒットした。
「ぐあっ!」
その場に崩れ落ちるバーテン。
お姉さんは『空中で』それを押しのけると橋場の手を引いて店外に脱出する。
その後しばらく何が何だか分からないほど走って走って走り抜いた。
数分は怒声に追いかけられていたが、日本一の歓楽街である新宿で人ごみに紛れた人間を追いかけきるなど不可能に近い。
ましてや水商売スタイルで、ハイヒールで歩くことも困難なニューハーフの太った男の目立たないことか。
セーラー服の少女、学ランの少年はそのまま逃げ続け、東口からデパートに入った。
慣れた様子で適当に歩き続けると、個室のあるちょっとおしゃれなレストランに入っていくではないか。
「え?」
こんなところに入ったことはない。
「いいから!任せて!」
楽屋から持ち出したらしいカードを見せると執事みたいな男が傅いて通してくれる。
個室に落ち着く二人。男女でお揃いのスタイルの制服ということもあってお似合いのカップル然としている。
まだ呼吸が落ち着かないが、徐々に整ってきた。
「危なかったね」
笑顔が可愛らしいお姉さん。
この人はこちらが教えなくても女性らしい挙動を既に完璧なほど発揮し始めていた。
(続く)




