橋場英男の場合 31
第二十七節
「…もしかしてセーラーの事言ってるの?」
ちょい、と小首を傾げてスカートを左手だけ持ち上げるお姉さん。
可愛い。
「ええ…まあ」
「女が女の格好して何が悪いのよ。平気平気。それにあたし童顔だったから違和感ないわ。セーラーだってしょっちゅう着てたのよ」
これまでこういうことを語れる人を性転換させた経験が無いので戸惑うことしきりだ。
「本当にもういいんですか?」
「ええ。持てる荷物は全部持ったわ。元々大したモノ置いてないし。男時代の服やら下着なんかはサイズも合わないと思うからいらない。いらないの」
「男時代」ったってあの通りの美女だった訳だが。
「そんなことよりあなたこそ忘れ物無いの?もう二度とここには戻れないわよ?」
「ええまあ」
「OK。じゃあちょっとだけ待ってね。顔を整えるから。でも急がないともうショーの時間が迫ってるわ。そうなれば探される。引きとめられちゃうから急ぐわよ」
この人もあのニューハーフショーとかで舞台でダンス踊ってたんだ…と当たり前のことを思う橋場。
「お姉さん急ぐんですよね?」
「まあね」
「メイク直しですか?」
「ええ。女としては必要よ」
恐らく言いたかったであろうことを言うお姉さん。
(続く)