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橋場英男の場合 29

第二十四節


 遂にお姉さんはセーラー服の前を、ボタンが引きちぎれるかと思うほどの勢いで開けると、ブラの中に直接手を突っ込んでおっぱいを乱暴にもみほごした。


 橋場はこれほど自分の身体を乱暴に扱う女性を初めて観た。

 誰にも強制されずにだ。


 ひとしきりあちこちを触ったり引っ張ったりひっかいたりした後、その場にへたり込むお姉さん。いや、もう年上という雰囲気ではなくなっていた。心なしか…いや間違いなく先ほどよりも身長も若干小柄になっている。

 そして、その場に突っ伏すとおいおいと声を上げて泣き始めた。

 周囲のことがあるのか、それでも押し殺そうとする雰囲気はあったが、とにかくわんわん泣き続けて止まらない。

 こういうのを「号泣」と言うんだよな…と場違いなことを考える橋場だった。この頃のテレビバラエティは軽く涙が頬を伝った程度でもコマーシャル前に「号泣!」というあおりを付けるが、声を上げてわんわん泣くことを本来は「号泣」と言うべきだ。

 どれくらい続いただろうか。

 恐らく、生まれつきの男であったために、「本当に肉体が女になったならば」ということを只管ひたすら夢見続けて来たに違いないのだ。


第二十五節


 それが本当に適ってしまった。

 現実にはまずありえないととっくに諦めていたのに…。その嬉しいショックは並大抵ではないのだろう。

 女体への執着は、年頃の男の子である橋場にも当然あったが、このお姉さんはそれとは全く違うベクトルで余りにも強力に持ち続けていたに違いないのだ。

 体感時間で十分ほどは泣き続けたであろうか、ようやくお姉さんは顔を上げた。

 「涙でぐしゃぐしゃに」なった顔というのはこういう顔の事を言うのであろう。

 端正で流麗な顔は興奮と内出血で赤黒くまで染まっており、髪は振り乱れ、そして涙と鼻水の量が物凄く、バケツで水を被ったようだった。

 このままでは涙で脱水症状を起こして死ぬんじゃないかと心配になるほどだった。


 その後も十数分はお姉さんはまともに会話が出来なかった。

 余りにも嬉しすぎて、内側からこみあげる笑いが起こり、次の瞬間には涙にくれるのだった。



(続く)


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