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橋場英男の場合 25


 第二十節


「…ごめんなさい。なかなか効かないみたいです」

「…」

 お姉さんは無言だった。これまで何だかんだと結構喋ってくれていたのに。

「…どうしてよ」

「あの…」

 地の底から響き渡る様なドスの効いた声だった。

「なんで?…なんであたしを女にしてくれないの!?あの借金取りのクソ男はしてくれたじゃない!どうして!どうしてよ!」

 髪を振り乱して立ち上がったお姉さん。

「お、落ち着いてください!違うんです!ちょっと調子が悪くて…」

「…やっぱり嘘だったんでしょ?期待させて実は全部トリックだったってオチなんでしょ?ねえ…」

 目が座っている。振り乱した髪を直そうともしない。かなり危険な兆候だった。

「うるさい!」

 次の瞬間には突き倒されていた。

 瞬く間に馬乗りされた。後頭部を強打しなかったのは柔道の授業で受け身を習った直後だったからに過ぎない。

「ぐ…ああ…」

 遺伝子的には男性であっても、震い付きたくなる美女に上に乗られているのは悪い気がしない…などと言っていられる状況ではない。お姉さんは両手で力いっぱい橋場の首を絞めていたからだ。

「期待させてんじゃねえ!死ね!死ね!死ねええええええ!!」

「ぐ…ああ…」

 掴まれた両手に自分の指をくいこませて必死に抵抗する橋場。



(続く)


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