橋場英男の場合 24
第十九節
「では行きます」
…とはいえ、こうして改まってみるとちと困る。
いつもは特段に意識せずにやっているからだ。せいぜい、相手を認識して「女になれ!」と考えつつタッチするくらいだろうか。
そう、この能力は相手に直接触れることが絶対条件なのである。
触れさえすれば服の上からでも構わない。
橋場はイメージしながらお姉さんの左手の二の腕を右の掌でタッチした。
…しばし沈黙。
「…どうです?」
「良くわからないわ」
何かおかしい…と橋場は思った。いつもならもう相手は身体に違和感を覚え始めるはずだからだ。
正直、身体の変化と言う意味で言えば今までで最も変身前と変身後に差が無いケースだろう。
既に体型的には完全に女性のそれなのだ。乳房もあるし、臀部もある。ウェストだってくびれてるし、男性器も無い。…多分。
「ごめんなさい。もう一度」
何度もやってみた。
だが、変化が無い。変化が起こる気配も無い。
女性に対しては効かないのか?いや、この人は男性だからそんなことは無い。もしかして自称男性ってだけで実は女性?
…そんなことを名乗るメリットなんぞ無い。
変化が起こったのかどうか外見では確かに分からないが…あ、でもこの能力が発現して性転換したのなら、すぐに着ている服がセーラー服になるはずだ。
それが起こらないってことは…能力が効いてないってことか?
(続く)