橋場英男の場合 23
第十八節
「あなた…本当に面白い子ねえ」
美人のお姉さんに褒められていい気もちになる橋場。例えそれが遺伝子的には男性だったとしてもだ。
「はあ…でも一応言っておかないと」
「いいわよ。セーラーは余り好きじゃないから少しだけ困るけどね」
ウィンクするお姉さん。言葉とは裏腹にとても楽しそうだ。
「あと…変化させるのは『女子高生にする』ってところなんで、年齢も多分十七歳くらいになります」
「…」
若干表情が険しくなるお姉さん。
「…馬鹿にするんじゃない…って言いたくなっちゃうけど…でも、あれを見せられたんじゃ納得するしかないわ。いいわよ」
『あれ』の辺りで軽くあごをしゃくるお姉さん。その方向にはやはり変わり果てた姿の女子高生。
「あ、ちょっと待って」
個室の楽屋の畳の上に正座するお姉さん。背筋を伸ばして大きく深呼吸する。ため息が出るほど美しい。
「大丈夫ですか?」
「ちょっとね。今のこの身体ともお別れだと思ってさ」
「…寂しいですか?」
「…色々あって…余りいい思い出ばかりじゃないわね。というより呪わしかった。でも、いざお別れとなるとちょっとだけ。でももう大丈夫、今十分にお別れの心構え出来たから」
男時代の事や女の子みたいとからかわれた少年時代のことなどを思い出していたのだろうか。いずれにしても、目を見開いてまっすぐ橋場を見据えるお姉さん。
「いいわ。やって」
(続く)