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橋場英男の場合 15


 第十節


「お姉さん…大丈夫ですか?」


 どう見てもゴリラみたいだった大男を軽く「のし」た橋場は、理不尽に殴られていた様に見えたお姉さんに声を掛けた。

 濃い化粧に、露出の多いドレスと水商売らしい外見はしていたが、とにかく造形の美しい人だった。

 別に美人専門で助けようとした訳ではないんだけど、こうなったら勢いだ。

「…ありがとう」

 美人のお姉さんは差し出した手を取らず、そのまま立ち上がった。危機一髪を脱したはずなのだが表情は浮かなかった。

「大丈夫…ですか?」

 お姉さんは薄幸そうな笑みで失笑した。

「大丈夫…とは言えないわね。助かったけど」

 鈴の様に美しい声だったが、底流に低音が流れており、とても聞きやすかった。

「どういうことです?」

「歩きながら話しましょ。すぐそこにあたしのお店があるから」

 お姉さんが躊躇った理由が分かった気がした。看板にはモロに謳ってはいなかったのだが、そこはゲイバーだったのだ。



(続く)


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