橋場英男の場合 14
第九節
一度やってみたかった。
親の仕事の都合で、都内に引っ越した。
…仕事の都合ってのは半ば方便で、テロリストに襲撃された学校が縁起が悪かったからだ。前々から異動の話は出ていたらしく、渡りに船とばかりに一家で引っ越すことになった。
都会の真ん中の公立高校ともなると、引っ越しや編入くらいで騒がれることは無い。
それほど好かれる方ではないが、際立って嫌われる方でもない橋場は、無難に高校生活を過ごしていた。
実は「新入りへの順位付け」ではないが、絡んでくるグループめいたものはあった。
ただ、こちらの隠しても隠し切れない自信に満ちた目つきに気圧されたのか、いじめのターゲットになることは無かった。
まだ高校一年生だった橋場は、両親や学校のハッパとは裏腹に、大学受験のための勉強のモティベーションが上がらなかった。
とりたてて将来の夢がある訳でもないし。
そこで、治安がいいとされる日本でも非常に治安が悪いとされる新宿歌舞伎町に行き、そこで理不尽に殴られている人を助けようとしたのだ。
結論から言うと失敗だった。
橋場はそこである人と出会ったのだ。
(続く)