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第二十一話

便箋の中身は簡単に説明すると、勝負の日取りと勝負内容が書かれたものだった。

 開催日時はまさかの翌日放課後。勝負内容はお互いが考えた勝負方法を一試合ずつ交互に行うというもの。

 確かに四回戦行う上ではフェアな対戦方式である。

 だが、自分たちと相手が有利な勝負を仕掛けることが出来るとあれば、選出順やいかに相手の得意分野で勝つかを考えなければならない。それも一日で。

「これヤバイんじゃね?!」

「だからウチがさっきからずっと時間がないって言ってたじゃないか!!」

 爽葵の衝撃に気づいたツッコミに怒りの四つ角を額に浮かべた紗央莉が、指差し棒でホワイトボードを叩きながら叫ぶ。

「……そもそも綾音さんが調子に乗って生徒会へ宣戦布告なんてするからこういうことになるんですよ」

「そうだそうだ。あたしらは別に楽しく部活が出来てればそれでよかったんだ!」

「何この責任転嫁?! つか、アンタら当初の目的を否定すんなよ!」

 ギャーギャー三人が騒いでいる最中、紗央莉は何かを思いついたのか、黒いマーカーのキャップを外してホワイトボードの右端に文字を書き始めた。

 途中途中で敵の詳細や、勝負内容予測などが書かれていたので、真中にあまり大きなスペースはない。

 どうやら見る限りでは紗央莉は皆の名前と生徒会メンバーの名前を書いているようだった。

「勝手ながら対戦カードを決めさせてもらったよ。たぶん生徒会もこの順番で来るはず」

 意気揚々に叩かれたホワイトボードが音を立てて少し斜めに傾く。

 先鋒『上北香澄』対『奈留史須斗』。次鋒『瀬戸杏奈』対『小牧眞子』。副将『木枯紗央莉』対『美少女綾音日菜』。大将『綾音爽葵』対『掛下悠里』。と書かれていた。

 ただ、誰も日菜の前に書かれた文字についてはツッコまない。

 生徒会メンバーの選出順に関してはおそらく役職順といったところだろう。その予想にこちらのメンバーを当てはめたところか。

「あたしがキモイ奈留の野郎とやんのか?!」

「ヒロイン候補筆頭のわたしが、とりあえず出しておかないとフラグにならないから少し登場させました的な登場人物と戦うんですか?!」

「瀬戸の反対理由は毎度毎度おかしいだろ! とりあえず出しておいたキャラとか言わない!」

 爽葵は紗央莉の選出順に文句はなかったが、他二名には物申すことがあるらしく身を乗り出して抗議する。

 確かに男が苦手な奈留に香澄を当て、数学が苦手な杏奈を小牧と当てることは違和感を覚えた。

だが、それぞれ両者取っ組み合いをしたり、必ずしも数学の勝負をするとは限らないため別段問題が無いと言えば問題は無い。それでも負ける確率を減らすならば二人の選出を入れ替えるほうが安全パイだろう。

「二人の言いたいことは分かる。分かるけれども。別に杏奈ちゃんと香澄ちゃんを逆にしたところで――馬鹿なんだから何ら変わりないだろう?」

「「おっしゃる通りで」」

「だからアンタら少しは否定したら?!」

 悲しくも事実は誰が何を言おうと揺るぎない真実だった。

 自らを馬鹿だと認めても、杏奈と香澄は自分の対戦相手が嫌だと依然駄々をこねる。

 しかし、これは紗央莉に何か意図があって決めた選出。変更などそう簡単に出来るはずがない。

「さして意図もないし、変えてあげてもいいけどどうしようかなぁ」

「ないのかよ!」

「まぁまぁ、爽葵君落ち着いて。ないと言えば嘘になるけどね。杏奈ちゃんは数学の点数低いけど、ケアレスミスがほとんどだから。そこさえ無くせばある程度いけると思うよ」

 なるほど、と納得して頷く爽葵だったが、そこで重要な欠点に気が付く。

 普段は赤点。ケアレスミスさえ無ければある程度点数が取れる、ということは一体どれだけの割合がケアレスミスだというのか。そんなもの付け焼刃で直せるというのだろうか。

「大丈夫ですよ綾音さん。わたしだってやるときはやります。あれですね、とうとう本気を出す時が来たってことです。ま、香澄とは違うところをお見せしますよ」

「なっ……杏奈お前! 勘違いするなよ綾音。あたしだってやるときはやるんだからな! 奈留と戦う方法が勉強だったとしても本気出してやるから見てろよ」

「何のアピールだよ……。つか、普段のテストでその本気を見せてやれよ。木枯泣いちゃったじゃん!」

 あまりに二人の発言が馬鹿らしく、全く根拠のない自信でふんぞり返っている教え子を見て紗央莉は両手で顔を覆ってしゃがみ込んでいた。

「たのもー!! ここに瀬戸杏奈と綾音爽葵はいるか?!」

「今度は誰だ! 次から次へと!」

 この忙しい時に部室前に現れたのは指定の赤いジャージを着た男子生徒二人。片方は野球部にいそうな坊主頭でひょろっとした体型。もう一方は爽葵もよく知る大久保だった。イケメンはジャージを着ても尚イケメンオーラがある。

 その大久保は爽葵と目が合うなり手を合わせてスマンと頭を軽く下げてきた。

「瀬戸はわたしですが、どちら様ですか?」

 杏奈が部室の敷居を挟んで坊主頭の男子生徒の前に仁王立ちで構える。

 ずかずかとメタモリフォーゼ部の部室に乗り込んでこないところを見ると坊主頭の男子生徒は礼儀をしっかり心得ているようだった。

「俺は卓球部部長の――」

「声が大きいです」

 ピシャッ、と扉を閉めてシャットアウトする。

 運動部特有の気合を入れるような声に杏奈はイラっとしたらしい。

 相手が杏奈でなく普通の女子ならば、萎縮させてしまっていることだろう。それが狙いかもしれないが、杏奈にそんなものは通用しない。

 だが、逆にいえば運動部である卓球部部長にもこの失礼極まりない発言を遮る行為も意味を為さなかった。

 再度扉がゆっくり開き、意外にも先程と変わらない表情の卓球部二人の顔が現れる。

「おい、失礼だろう。人が自己紹介をしていると言うのに」

「いえ、特に必要ありませんので。ほら、他のどうでもいい人たちも名前聞いていないですし。卓球部部長という情報だけあれば十分です」

「……そうか? 女子からするとそういうものなのか大久保? おい、どうして笑ってる?」

 卓球部部長が後ろで手を口に当てて笑いを噛みしめている大久保に尋ねる。

 どうやら部長は天然なのか、純粋なのか、いずれにせよ女子との関わりが少ないらしい。

 だが、あまり笑い続けていると部長の機嫌が悪くなると察した大久保が必死に笑いを堪えながら「本題に入りましょう」と告げる。

「今から俺達卓球部はお前達……めた……ん? メタファクション部だったか……?」

横文字が苦手らしい卓球部部長が記憶の片隅にある言葉を引っ張り出したまではいいが、全く違う言葉だった。これにはまたもや大久保は笑いそうになったが、「メタモルフォーゼですメタモルフォーゼ」と後ろからフォローを入れる。

「……お前達メタモルフォーゼ部に勝負を申し込む」

 後輩に間違いを指摘されてか少し気恥ずかしそうにそう宣言した。

「今とても忙しいので謹んでお断りしたいのですがよろしいですか?」

「駄目だ」

 速攻で拒否を申し出た杏奈の発言はこれまた速攻で否定される。

「お前達この間卓球台を外に持ち出しただろう」

「そうですね。綾音さんがテニスココートまで持ってきてくれましたけど、あれはしっかりテニス部に許可を取っての持ち合出しだと窺いましたが?」

 チラっと杏奈が背後へ目をやると、間違いなく許可は取ったと爽葵が大久保を見つめながら頷いていた。

 だが、当の大久保は気まずそうに苦笑いを浮かべる。

「確かに話は大久保に聞いていたが、外に持ち出すとは聞いていない。それに返却された卓球台はキャスターが削れて平衡を保てないわ、ところどころ傷が入っていて球が変に弾むはで到底使い物にならない。その他諸々あるがここは割愛しておこう」

「……それならキャスターを取り換えて、台の傷を何かでコーティングすればいいのでは? 別に公式試合で使うわけでもあるまいし、練習くらいなら何の支障もないでしょう」

「キャスターを買うのも、傷修復の液体を買うのにも金がいる。それをこっちの部費で賄えと? そもそも傷に関してはコーティング出来るようなものじゃなかったんだがな」

 金の話が出ると、さっきまで毅然とした態度で対応していた杏奈も明後日の方向を見つめながら口笛を吹き始めた。

 子供じみた誤魔化し方をしていると、それこそ本当に中学生くらいに見えてくる。

 というよりもキャスターはともかく、傷修復の液体はある程度の金額がかかるかもしれないが、それよりも――

(この部活それすら買う部費もないのか……)

 口に出してツッコミたい爽葵だったが、さすがに空気を読んで心の中でツッコミを入れた。

「そもそもこの部は生徒会を通していない非公式な部なので部費は出ません」

(なのに部室とかあんのかよ。スゲエな……)

「褒めても何も出ませんよ。まぁ、そこはわたし達の手腕というかなんというか」

「――っていうか、どうして俺の心読んで会話出来んの?! 怖いわ!」

「決まってるじゃないですか、わたしと綾音さんの心の回線がいつもオープンなだけですよ。全てをさらけ出した関係ですからね」

「いや、一方的に俺の過去赤裸々にほじくり返してきただけだろ!」

「ちょっと綾音さん。そんなことないですよ。まだ、とっておきの中学三年生の卒業式の事はわたしの胸に仕舞ってありますから」

「今すぐ記憶を全て削除してくれ!!」

 まだ悠里作成、爽葵の黒歴史ノートは杏奈達の手にある。生徒会に勝てばそれを譲り受けると言う約束ではあるが、中身を読み返したり口に出したりはしないという約束はしていない。

 杏奈の性格から言いふらしたりすることはないだろうが、この少女に秘密を握られているという事実関係だけで恐怖である。

「もういいかお前達?」

 律儀に爽葵と杏奈の漫才染みたやり取りを待っていてくれた卓球部部長が口を開いた。大久保はこれまたいい夫婦漫才だと見ていたが、部長がそれを遮ったことで少し不満そうに口を尖らせている。

「こちらとの勝負にお前達が勝てばさっき言った修理費の話は無かったことにしてもいい。だが、こちらが勝てば卓球台一台を弁償してもらう」


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