第十三話
「まさか生徒会がもう四天王である生徒会庶務、ナルさんを仕向けてくるとは意外でした」
「俺もビックリだよ。アイツが生徒会役員だったことも、アンタがあいつのことをあだ名で呼んでることも」
「あだ名? わたしがあだ名で呼ぶのはアヤネックスさんくらいですよ」
「人生で一度も呼ばれたことのないあだ名出て来ちゃった!」
「綾音さんの初めて……もらっちゃいました」
「意味深な言い方すんな! そして微妙に頬を赤らめるな! ついでに引いてんじゃねえ上北!」
紗央莉の肩を揉みほぐしていた香澄が手の動きを止めて、ゴミを見るような目を爽葵へと向けていた。
「お前、あのナルってやつレベルで気持ち悪いな」
「常々思ってたけど、俺のこと嫌いだろ上北」
「ああ、嫌いだね! 男なんて汚い生き物は大っ嫌いだ!」
「まさかの男全否定?!」
「でも、恋愛はしたいんですよね香澄」
「しー! しー!」
その一言で顔色をトマトのように真っ赤に染めた香澄は、すかざず杏奈の口を右手で塞ぎ、左手の人差し指を口に当てながら黙るように指示する。
どこまでも純情なヤンキーだった。そもそも純情という点を考慮するとヤンキーではなく、ただ口の悪い髪の毛を染めている現代のちょっと高校生デビューしちゃった普通の女子なのかもしれない。
「まぁ香澄ちゃんのことは置いといて、生徒会メンバーはナル・シストも含めてクセのある人たちばかりなんだよ」
「ん? まぁ、アイツはナルシストだけど、妙なところで切るなよ木枯」
「え? 妙なところで切っていないよ。苗字と名前に分けただけだし」
「……んん?」
意味が分からないと眉間に皺を寄せる爽葵を見て紗央莉も首を傾げる。
しばらく二人が見つめあったまま頭上にクエスチョンマークを浮かばせ続けていると、不意に紗央莉がポンと手を叩き、胸ポケットからシャープペンシルを取り出して紙に文字を書き始めた。
「漢字で書くと奈留史須斗って言うんだよ彼」
「まさかの名前だったのかよ! 名前が体を現し過ぎだろ!」
ナルシストの申し子、奈留史須斗とかもう受けを狙って名前を付けたとしか言いようがない。キラキラネームもいいところだった。もし仮にナルシストに育っていなかったら相当恥ずかしかっただろう。
「名前はともかく、意外と頭は良いのさ。成績も常に上位、生徒会での企てにも噛んでるらしいし」
「ナルシストなのに?」
「いや、そこ関係ないと思うよ……。けど事実、昨日は彼のせいでウチらと女子テニス部が勝負したわけだし」
「そうそう、どうして急に女子テニス部と勝負なんてことになったんだよ? いきなり上北が怒鳴ってきてビックリした」
「あれはお前が部活に来なかったせいだろ!」
爽葵が一昨日入部させられた時は、女子テニス部との勝負の話など一切出てこなかった。入部したての人間にいきなりアレやれコレやれと矢継ぎ早に物を言うことはないが、重要な事くらいは伝えるのが普通。部活の準備をしろと何か仄めかすことは言っていだが、はっきりした発言がなかったということはあの時点ではまだ女子テニス部との勝負は決まっていなかったということ。
ならば、皆が帰宅しようとする最中に女子テニス部とのいざこざがあったのだろう。それも生徒会役員である奈留史須斗が絡んだ複雑ないざこざが。
「いや、たまたま廊下をウチらと女子テニス部が歩いてたんだけど、そこに丁度現れた奈留史須斗がウチらと女子テニス部に絡んできて。お互いがお互いに押し付け合ったら確執が生まれちゃって、その流れで勝負することになったのよ」
「策略一切ないし! しかも勝負する理由、生徒会関係ないんじゃん!」
建前で用意した勝負を吹っかけた理由は単純に勘違いだったし、ただただお互いが奈留を嫌っていたこそ生まれた試合だったらしい。
そして、女子テニスとの勝負と言えば、爽葵には一つ気になっていたことがあった。
「そういえば、女子テニス部との勝負で賭けてた物って何だったんだ? 上北が生徒会との勝負に有効なものって呟いてたけど」
「え……?」「は……?」
爽葵の一言でいつの間にか拘束を解いていた杏奈と、いつになくマズそうな表情をする紗央莉の冷たく鋭い視線が香澄へと突き刺さる。
「いや、その、ほら、あれだ、別に、何も、なかったから、ほら」
まだまだ氷のようなジト目の視線は注がれ続ける。
香澄は皆の視線を一身に受け、唇をワナワナさせながら明後日の方角を向いて音のならない口笛を吹く。だが、沈黙の中で聞こえる息を吐く音しか出ないその口笛もどきは香澄の平常心に余計な負担を掛けたらしく、
「全部お前が悪いんだ!」
などと捨て台詞を吐いて脱兎の如く部室を飛び出して行った。
「あ、逃げた!」
「追いますよ綾音さん!」
「え、俺も……?」
何故か女子二人に手を引かれながら爽葵は、俊足で逃げ出した香澄の後を追わされるのだった。




