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第十一話

翌日の昼休み。

 購買へ爽葵が大久保と共に昼食の菓子パンを買いに歩いていた。

 購買のパンと言えば焼きそばパンやらメンチカツパンやら学校特製のパンといった超人気のパンをゲットするために授業終了と同時にダッシュしてまで手に入れたいものがある。今校内の廊下を走り抜けている生徒の多くはまさに購買部へと向かっているのだろう。

 だが、爽葵と大久保は全く急ぐ素振りを見せずにいつものペースで歩き、購買部へと向かうと思いきや下駄箱で靴に履き替えて外へと出て行った。

 本来登校中に外へ出ることは禁止されているのだが、暗黙の了解で授業開始までに戻ればお咎めはない。

 なので、ごった返している上に品物が少なくなった校内の購買部へと昼食を買いに行くよりも、学校前にあるコンビニへと向かったほうが選ぶ量もあり効率がいいのである。

 コンビニでお目当てのメロンパンやらチョココルネやらと一緒にペットボトルの紅茶を購入し、爽葵は校舎へと来た道を戻り始めた。

「ん?」

 大久保と先日発売された漫画のこれから起こる展開を熱く予想しながら歩いていると、校門に誰かが背を預けて立っていた。

 髪形は見事にワックスで七三に分かれており、中肉中背で別段顔に特徴もなく、人ごみに紛れていたら全く探しようのない男子生徒。寝ているのかカッコつけているのか腕を組みながら俯いて目を瞑っている。

 弁当を忘れて母親に届けてもらうのを待っているのか、と結論付けて男子生徒の前を素通りする。

「――やあ」

 何やら話しかけられたような気もした爽葵だったが、大久保との話に夢中でほとんど聞き取れなかった。

「絶対次であのモブキャラ退場しちゃうって。だってフラグ立ってたじゃん」

「いやいや、爽葵。読みが甘いぜ。あのモブキャラと見せかけて主人公にくっついてるヒロインっぽいのを退場させると僕は読んだ」

「まぁ、待ちたまえよ」

「大久保だってあいつやばいかもって言ってたじゃん」

「よくよく考えるとありきたりだなって。だったら意表をついてヒロイン級の退場でヒロイン交代くらいだろ」

 またもや声をかけられたような気がした爽葵だったが、わざわざ会話中に話しかけてくることはないだろうと結論付けた。それに、校舎前には部活の昼連をやっている生徒や、ピクニック気分で昼食を摂っている生徒の姿がまばらに窺える。

「だから待ちたまえと言っているだろう爽葵君」

「……うわっ!」

 爽葵が驚いて肩を跳ね上がらせる。

 だが、それは真横から校門に立っていた男子生徒に声をかけられたからではない。男子生徒が校門前に立っていた姿と全く同じ腕を組みながら俯いて目を瞑っている状態で横歩きしていたことに関して驚いたのだ。

「その態勢をわざわざ保つ必要皆無だろ!」

「こっちのほうが僕の魅力を三割増しで表現できるからね。ほら皆も僕が魅力過ぎて見ているだろう?」

「やっぱりただのナルシストか! アンタの歩き方が変で見てるだけだよ!」

「もしくは爽葵の魅力に引きつけられて見ているかだな」

「大久保余計なこと言うな!」

 その煽るような一言でこのナルシストがさらに調子に乗ってしまう不安と、不本意な事実を他人から改めて突き付けられる悲しさが合わさった制止。

「君が男子にモテることは重々承知しているよ。けど、女子にモテなければ意味がないだろう?」

「アンタに言われたくねえよ! 見てみろ、あそこで昼食ってる女子たちがこっちに横目で視線送りながら凄いヒソヒソ話してるぞ!」

「何? ふ……、僕の魅力に取りつかれてしまったようだね。どれ、放課後のリザーブを決め込むとしよう。少し待っていてくれたまえ」

 意味不明な言動を残しながらナルシストな男子生徒は、爽葵が指定した女子生徒二人に魅力を三割増しに出来るらしい謎の格好のまま近づいていく。すると昼食を摂っていた女子生徒二人は近づいてくる不審者を見て、食べ途中の弁当箱を早々に片し始める。

 このまま放っておいて教室に戻ろうかとも考えたが、自分が指定した女子が危険に合う可能性と、逃げれば教室にやって来てあのナルシストと知り合いだとクラスメイトに知られることが嫌だった。

 とりあえず様子を観察しながら爽葵と大久保は、休み時間を無駄にしないためにもコンビニ袋からパンを一つ取り出してかじり始める。

「あ、女の子たち逃げた」

 大久保の呟いた通り、弁当箱を片し終えた女子生徒はナルシスト男子が話しかける前に立ち上がってその場を後に――しようとしたのだが、ナルシスト男子が辿り着くのが一歩早く肩を掴まれた。

 しかし、その瞬間肩を掴まれた女子生徒が危険を知らせる悲鳴を上げながら弁当箱を放り投げ、回転と同時にナルシスト男子の顔面へ見事なアッパーカットを食らわせる。

 足元を見ていた顔がものの見事にお天道様を仰ぐように上へと跳ね上がり、反動でそのまま後ろへと倒れた。

「安いコントか……」

 変人に付き合えばロクなことが起こらないのは既に人生経験済み。現に放課後の部活動ではロクなことが起きていない。

 それにここで彼に付き合っていれば貴重な昼休みを無駄に消費するだけ。大久保にも迷惑をかける。

(仮に教室に来られても最悪教師に襲われてるとか適当言って助けを求めれば事足りるか)

 などと、中々にヒドイ結論をつけた。

「悪いな、変なやつにつき合わせちゃって。んじゃ戻ろう」

「いやー、爽葵といると毎回コントが見られるからお得な気分だぜー」

「そりゃどうも……」

 心配とは余所に意外と変人との出会いを楽しんでいた大久保だった。

 メロンパンを食べ終えた爽葵が空になった袋をコンビニ袋へと入れながら、大久保を伴って教室へ戻ろうと足を進め出す。

「ふ……、さすが歴戦の戦士は違うな」

「うわぁ、なんか喋り始めたし」

爽葵が去りかけたことを察したのかナルシスト男子は倒れながらもよく分からないことを呟きだした。

「クラスメイトにあのような力を秘めた者がいるとは……」

「クラスメイトなの?! アンタ、どんだけ嫌われてんだよ! つか、何したんだよ……」

 だが、先程のダメージが大きいのか、それとも倒れたままの方がカッコイイと思っているのか、立ち上がってくる気配はない。

「今日のところはこの辺で勘弁しておいてやる」

「いや、そもそもアンタキモイポーズ見せびらかしてただけじゃねえか。つかキモイから嫌われてんじゃねえの?」

「次会いまみえた時は必ず君も僕の魅力の虜にして……勝負に……ガクッ」

「今自分でガクッっつたな?! やられてるからな! 全然カッコよくないからな!」

 意味深なセリフを残してナルシスト男子は名前すら名乗らず嘘か本当か、気を失った。数秒見つめていたが、死んだようにピクリとも動く気配はない。もしかするとあの擬音も最後の力を振り絞って発言したのかもしれない。

「さて、教室戻るか」

「いやー、今日も中々面白かったぜ」

「勘弁してくれよ……」

 しかし、爽葵はそんなもの全く気にすることもなくナルシスト男子を放置して教室へと戻る。その途中、爽葵のポケットで携帯電話が振動した。

 携帯を取り出し、新着メールと書かれたボタンをクリックする。送信者は登録していない番号のようでアドレスのみが表示されていた。

 本文を見た爽葵は「ふぅー……」と長い溜息をつく。

 横から大久保が爽葵の様子を見て興味ありげに覗いてくる。

「お、ラブメールじゃん。行ってやれよ。昨日の件も話したいんだろ」

「……行けばいいんだろ行けば」

 メール本文には一文「今日も放課後部室で待ってます」と書かれていた。


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