始めて彼女と帰った日
「ぁ、あの……。」
遠慮がちに声をかけられる。
床に落としていた視界に、綺麗な脚と小さな上履きが映る。
俺は、凄い勢いで顔を上げた。
…だって、アイツの声だから。
「ぉ、おまたせ。」
顔を真っ赤にして、小さな声でそう言うコイツは、付き合って2日目の……俺の彼女。
俺も顔がバーーっと赤くなってしまって、
「ぃ、いや、そんなに待ってないしっ。」
なんて、何処ぞの少女マンガみたいな、ありきたりなセリフを言ってしまう。
掃除当番の彼女を、掃除が終わるまで待っていた訳だから、そのセリフはすっごくおかしいと思う。
…なんかめちゃくちゃ恥ずかしくなって、顔が見れない。
向こうも向こうで、恥ずかしいのか、照れてるのか、俯いてしまった。
なんともムズ痒い沈黙が流れる。
耐えられなくなった俺が、
「か、帰ろっか。」
と言って、俺らは校門を出た。
……再び沈黙が訪れた。
俺と彼女は、もともと趣味が合う訳じゃない。
遠くから見ていて我慢出来なくなった俺が、衝動的に告ってOKをもらったのが昨日。
…共通の話題があるのかさえ分からないのだ。
大人しいわけじゃないんだけど、超奥手で恋愛下手な彼女は、自分から積極的にグイグイとは来ない。
…まぁ、付き合うのが始めて同士なんだから、仕方が無いと言えば仕方が無いのだが。
それでも、この状況はどうにかしたい。
ただ、横に並んで無言で歩くだけなんて……きっと楽しくないし、疲れるだろう。
…俺は彼女の隣に彼氏として居られるだけで満足なんだけど。
俺がモヤモヤと彼女の顔も見れずに考えていると、ブレザーの裾がクイッと引っ張られた。
目を向ければ、彼女が真っ赤な顔して俺を見上げている。
「な、何?」
と促せば、真っ赤な顔を更に真っ赤にして、
「手、繋ぎたい…。」
と、言った。
…全身の血が全部顔に、頭に集まってくるような気がした。
俺は、右手で自分の鼻を摘み、左手を彼女に差し出した。
彼女は、戸惑い、ちょっと躊躇った後、照れ臭そうに俺の手を握った。
…小さくて柔らかくて少し冷たいその手を、俺はキュッと握った。
彼女の家に着くまでの間、彼女は恥ずかしそうにポツポツとだけれど、いろんな話をしてくれた。
彼女は手を繋いだ事で、少し落ち着いたようだった。
……俺は、手を繋ぐ事で余計緊張して、彼女の話に相槌を打つのと、鼻を押さえるのとで、精一杯だった。
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………
…
途中、彼女に
“なんで鼻を押さえてるの?”
と、聞かれたけれど、
“お前が可愛過ぎて鼻血がでたんだよ”
なんて、言える訳がなかった……。