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夜道を移動するというのは、かなり危険な行為である。
人程度の視界は殆ど、きくことがなく。休むにしても、近づく者がいないか警戒するだけで精神を磨り減らす。寝ている合間に襲われる可能性だって、十二分にある。このような点を踏まえれば、夜中に移動するということが、如何に愚かなのかがわかるであろう。
では夜中に移動するの者は、一体どのような理由があるのか?
命知らずか、腕に自信のある猛者か、または止むを得ない事情でもあるのかだろうか?
いや、もしくは、夜中に移動している愚者を狩る者達なのかもしれない。それは魔物であったり、外道に身を落とした盗人だったり。
さて、満月の優しい光で照らされた夜道をたった一人の少年が走っていた。
少年は息も切れ切れになりながらも懸命に足を前へ前へと運んでいた。
見ると少年の服は至る所が裂けており、そこからうっすらと血が滲んでいた。木々の棘にでも引っ掻かれたのだろう。小さくも痛々しさが伝わる傷が沢山とあった。
満身創痍、そう言葉にするが良いのかもしれない。普通ならもう走ることなど出来ないくらいの。
しかし、それでも少年は足を止めなかった。いや、違う。彼は足を止めることが出来なかったと言うべきか。
少年の後ろーー、無論、如何に月が照らしていたとしても夜道はほんの少し先までしか見えないのだが。そんな月光で辛うじて見える範囲よりさらに後ろ、闇に包まれたそこから確実に誰か、何かが彼の跡をついて来ていた。
まさか何の目的もなくついて来ている筈がない。そしてそれは彼にとってあまり良いことでないことは、明白であった。
故に肺が悲鳴をあげようとも、脳が休めと命令を下せど少年は走っているのだ。
だが悲しいかな、少年が気力でどれだけ走ったとしても、段々と追跡者との距離は縮まってゆく。
そして遂には、囲まれてしまった。今、少年の周囲は三人に囲まれていた。恐らく盗賊であろう。盗賊達はゆっくりと、しかし確実に近づいてくる。
少年は最初こそ顔面蒼白としていたものの、一つ呼吸を深く、深くすると、意を決した顔で懐から刃こぼれが激しいナイフを取り出した。
膝は震え、ナイフの切先も定まらない有様だったが、その態度はまことに、立派であった。
しかし、圧倒的な力の差はひっくり返ることは無い。
力の無きものは狩られる。それがこの世界の理である。
それはこの少年にも当てはまることであった。
しかし、そんな絶望的な状況において少年が掴んだ幸運は、凄まじいものであった。その幸運とはつまりーー
「おい、夜中に子供がこんな所で何してんだ。馬鹿か」
追いかけて来ていた者が気の良い奴だったということだ。
それは紛れもない幸運であった。
三日で一話更新です。
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駄文失礼しました