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しかたなく英雄的最後を迎えた魔法使いの受難  作者: 伊簑木サイ


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     ブラッドの願い

 前方に大きな建物群が見えてきた。あれがぺリウィンクルの王都だろう。

 俺は見落とさないために、少し速度を落とした。そして、とうとう、岩場がちな場所で人が倒れているのを発見したのだった。

 何も言わなくても察したルシアンから魔力の供給が切られる。俺たちは手を離した。

 俺は人影の真上で止まって、風属性に傾いてしまった体の中の魔力を、本来あるべき姿に整えた。

 仰向けにされた姿は、どれもぴくりとも動かない。人影は四つ。ジスカールを筆頭に商隊を任せた人数と同じだ。だが、高度がまだありすぎるために、ここからでは造作までは見分けられなかった。

「罠だよ」

「わかってる」

 ルシアンの指摘に、俺も頷いた。

 連絡玉には血がついていた。なのに、血溜まりの跡が一つもないのはおかしい。恐らく、他から身を隠す場所の多いここへ運ばれたのだろう。

 それに、一晩も血の匂いのするものが外に転がされていて、鳥につつかれてもいなければ、獣に(はらわた)を食い荒らされてもいないなんてありえない。たぶん、なんらかの仕掛けが施されている。

 なんのために?

 俺を捕まえるために。いや、殺すために、か。

 そういえば、いろんなところから命を狙われていたんだっけと思い出す。この頃刺客に遭わなかったから、すっかり忘れていた。

 降りていけば、何らかの攻撃を受けるに違いない。まさか、あれだけの火炎を扱った魔法使い相手に、弓矢で仕掛けようなんて考えるわけがないから、魔法陣が順当か。

「ルシアン」

「黙って見てろなんて、聞かないよ」

 まだ何も言っていないのに、珍しく笑顔でごまかしもせず、ルシアンが主張した。

「うん。手伝ってくれ。攻撃に専念したいから、おまえに防御をお願いしたいんだ」

「あのさあ、わかってる? 俺の方が攻撃向きの能力だって」

 呆れ顔でルシアンは言った。

「わかってる。だけど、考えてもみろよ。ぺリウィンクルとは、いずれ本格的にやりあわなきゃならない。こんなところで、俺たちの本当の能力を見せてやる必要はないだろう?」

 しばらく俺を見ていたルシアンは、苛立たしげに目をそらして、盛大に溜息をついた。

「いっそ、あれごと焼き払っちゃえばいいんだよ。何の証拠も残らないように、塵一つ残さずにさ」

 その視線の先には、王都。

 やれないことは承知の上でのぼやきだ。そんなことをしたら、世界中から非難をくらうだろうし、無政府状態になったぺリウィンクルはもっと荒れてしまう。面倒事が増えるだけだ。

「まあ、それは、いつか、おまえがどうしてもって言うんなら、俺がやってやるよ」

 俺は苦笑して言った。

 ルシアンに人を殺させたくないのは、ただのよけいなお世話で、俺の我儘なのはわかってる。

 でも、どうしても、自分が何をしているのかも理解せずに、世界を切り捨てていってほしくない。

 口で言ってわかることじゃない。俺だって、言葉で説明できる自信がない。それに、ルシアンを俺の言うことをきく人形にしたいわけでもないんだ。

 ただ、俺たちには永遠にも近い時間があるから、きっといつか、ルシアンも世界に意味を見出す日が来ると信じたいだけだ。

 だから、それまでは、俺は俺の我儘を押し通す。

 俺が、そうしたいから。これだけは、誰の文句も受け付けない。

 ルシアンが驚いたように目を見開き、それからなぜか、へにゃりと情けなく笑み崩れた。

「ブラッドってさあ」

 溜息のように言って、黙り込む。いつまでたっても何も言わない。俺は焦れて聞いた。

「俺がなんだよ」

「……うん。兄さんには、敵わないなって」

「なんだそれ」

 俺は笑った。ルシアンはそれ以上言う気がないらしい。わけがわからないが、まあ、いいだろう。ルシアンの機嫌は悪くないから。

「だったら、お兄様の言うことをおとなしくきいてもらおうか」

 俺たちは示し合わせたわけでもなく、揃って下を見た。

「あいつらも守ってやってくれ」

「了解」

「それから、」

「誰も殺すな、でしょ。わかってるよ。全部、お兄様の(おー)せのままに」

 ルシアンは胸に手を当て、空の上で優雅に礼をした。

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