八、お風呂―Caution―
咲耶と一緒にお風呂に行ってくるぜ♪
「咲耶さん、そろそろお風呂に入りませんか?」
美弥が唐突に言い出してくれた。(gj)
「な、なんじゃ美弥よ。藪から棒に」
「だって咲耶さんあっちこっち汚れてしまっています。そんなことでは立派な魔王になることなんて出来ませんよ」
「わ、わらわのようなやんごとなき身分の者に、そ、そ、そのようなことは、か、関係ないのじゃ!」
おかしい……。
今日一日中落ちつきのない咲耶だったが、輪をかけて浮き足立っている。
これはナニかあるな。
「そんなことを言っていると、兄さんに嫌われてしまいますよ」
「――っ!」
その一言にぎくりと反応した彼女は、泣きそうな目でこちらを伺う。
「の、のぉ信弥よ……。そ、そ、そなたは、風呂に入らぬわらわは……、き、嫌いになると、申すか?」
俺は瞬時に思考を張り巡らせた!
(この様子から察するにずばり咲耶は風呂が嫌いなのだろう。魔物(咲耶は魔王だが)に風呂に入る習慣どころか獣のようなものを連想する魔物という言葉の響きから身嗜みなどという概念があるかさえ微妙だ。桜の前で出会った時もお世辞には綺麗とはいえなかったし。考えてみれば、大昔には風呂に毎日入るなんて習慣はなかったはずだ。さすがの魔王だけあってそれなりには小奇麗にしてたみたいだが。それを踏まえて、もしここで「そんな事は無い」と言った場合はどうだろう。直前の会話から鑑みるに、咲耶は俺の意見を重視するだろう。風呂が嫌いであろう彼女のことだから、俺が入らなくても気にしないと言えば恐らくは入らないだろう。しかしそのような事態になってはみすみすパラダイスを素通りすることになるだろう。 この答えはあえないな、論外だ。俺としても、一日中騒いで埃まみれの巫女服でべたべたたされるのはちょっと遠慮したい。まぁこんなことは解り切っていた事だろうし、今現在この箇条書きを目で追ってる読者様にも、そのような事を期待されている方は誰一人として居ない。と、俺は確信している。では、「気にする」といた場合だ。というか「気にする」と言います。そうでなくては始まりません。ではなにが問題かというと、俺が男で咲耶は女? である事だ。「?」なんて付けてはいるが、別に咲耶が女であることを疑っている訳ではない。ただ俺は、咲耶は人間ではなく魔王様であると言うことを表現したくて「?」を付けたのだ。敬虔である大変ありがたい読者様にはなにを今更と言われるかも知れないが、咲耶は美少女である。私の拙い表現力で出来るだけ精一杯に描写していたつもりである。何度も可愛い可愛いって言ってきた。しかもロリっ子なのである! しっかりロリっ子なのである! 大事なことなので二回言った。さらに、巫女装束で、リアルではありえない銀髪ロングで、二次元だからこそ許されるドジっ子と魔王、というテンプレ的属性を持つスーパーヒロインなのである。ここまで書いて作中での咲耶に対する好き好きオーラがちょっと足りない気がしてきたので次からは気をつけようと思う。なにが言いたかったかというと、――咲耶とお風呂に入りたい。……ちょっと興奮してしまったが話を元に戻そう。つまりだ、俺と咲耶は性別が違うワケ。それがなに? って思われるかもしれないが、とても致命的である。なんといっても我が家には、良く出来た万能妹が居る。そんな彼女がロリっ子とお風呂なんて許してくれると思うか? いいや、おれは思わないね。だから素直に「気にする」と言ってはダメなんだ。解ってくれたかな? さて、そこでどのようにしたら美弥を納得させて、ロリっ子と一緒にお風呂に入れるかという話に戻そう。ここで注目すべきは、咲耶は俺のことをすごく意識してるって事だ。これを上手に料理して美弥を納得させた上で、悠々自適にロリっ子とのお風呂を楽しむというのをベストな結果として考えていきたい。なんなら美弥と一緒に3Pでも俺はかまいませんよ? 話が飛んで申し訳ないが、どうしたら咲耶と、って事だったな。俺も今から考えるぞ。――――こういうのはどうだろう。咲耶から俺と入りたいと言わせるのは。これなら俺がしょーがないなーって言いながらキャッキャうふふできると思わないか? 俺から言い出せない以上そうするしかあるまい。じゃ具体的になんて言おうか。ここで咲耶の気持ちになって考えてみようじゃないか。咲耶は俺と一緒に入りたいはずだ。まちがいない。じゃ俺もそれを匂よわせるような発言をしたら、咲耶の方から誘ってくれるのではないか? 完璧じゃなイカ? よしこれでいこう。では具体的にこういうのはどうだろう。「やっぱり気にしちゃうかな……。咲耶の長くて綺麗な髪がもったいないよ。俺がお手入れしてあげたいくらいだ」ぶっつけ本番で考えた割にはけっこういい線をいってないか? 直接言う訳ではなく、それでいて咲耶と一緒に居たい。面倒を見させて欲しい。髪を洗いたい。お? お? じゃーこれで逝きます。)
俺のシナプスが嘗てないほどの脈動を見せ、次元の壁を突き破って一つの未来を導き出した。
それをここに提示しよう。
「やっぱり気にしちゃうかな……。咲耶の長くて綺麗な髪がもったいないよ。俺がお手入れしてあげたいくらいだ」
よし、言ってやった!
完璧。
後は二人がどう出るか……。
「う、うむ。わらわもこの長い髪は自慢なのじゃ。し、信弥がそのように思うてくれていたのは、なんだか恥ずかしいの」
「もう兄さんったら。でもその気持ちもわかります。咲耶さんの長くて艶のある綺麗な銀髪は女性の私から見ても憧れてしまいます」
美弥は咲耶の長い髪を手櫛で整える。彼女は上機嫌だ。
「な、なあ信弥よ。そんなにわらわの髪を気に入ったのなら……。い、いっしょに――」
キタ━━(゜◇゜)━━ !!!!
これで勝つる!
が、しかし、
「――ダメですよ咲耶さん」
「――ッ!」「――っ!」
俺は青い顔をして、咲耶は赤い顔をして。
この家の裁定者であり、執行者であり、断罪者である美弥の、次の御告げを待った。
「兄さんもです。二人でお風呂なんて言語道断です。見過ごす訳にはいきません」
なんということだ……。
でも薄々こうなるんだろうなとも思ってた。
桃源郷には誰もたどりつけないのである。
「しかしですね、咲耶さんが一人でお風呂というのは色々と心配ではあります」
……え?
断崖絶壁に取り残された俺に、一本のロープが吊るされたかのように――
「――ですので私が咲耶さんと入ります。さあ一緒にお風呂に行きましょう」
終わった。
まさにオワッタ。
俺の聖戦は終わりを告げたのだ。
無駄にキーボードを叩いただけだったのだ。
たたいただけだったのだ。
た、が多い。
おれはこうして戦いに敗れ去った。
視界が暗転する。
そう、俺の役目は終わったのだ。
みんなを理想郷に導くことが出来なかった、ふがいない俺を許してくれ。
後は…………。
「咲耶さんの巫女服は、なんというかすごいですね」
美弥は咲耶の着ている巫女装束を脱がしていく。
「これは手洗いしないといけませんね。生地の量も多いですし……。乾かしている間は申し訳ありませんが咲耶さんには私が昔着ていた服があったと思うので、そちらを着ていただくことになるかと思います」
脱がしている最中の咲耶は、まるで借りてきた猫のように大人しくしていた。
これから起こる苦行を想像しただけで身の毛がよだつ思いだろう。
実際、彼女のぷにぷにの肌には似つかわしくない鳥肌が、ぽつぽつと出来ている。
「もう咲耶さんそんなに緊張しないで下さい。私まで緊張して来てしまいます」
「し、し、し、しかしじゃな。わらわといえども、こ、こ、こ、このようなことは、なれておらぬゆえに――」
「私が一緒ですので大丈夫です」
どこが、とは言わないが、色々と貧相な魔王の生まれたままの姿を露にさせた美弥は、今度は自分の番とばかりに上着に手を掛け、一息に脱いだ。
どこが、とは言わないが、脱ぐ際に上に引っ張られたものが重力に従って落ちていく。
その反動で、自然の摂理に逆らい上へ、そして下へ、リズミカルにバウンドする。
位置エネルギーと運動エネルギーの交換が収束していく。
その一部始終を見上げていた咲耶の顔は敗北の色に染まっており、その揺れとまったく同じ軌道を描いていた。
前屈みになり、極端に布面積の少ない服を外すと、咲耶の自尊心はズタズタに切り裂かれた。
「咲耶さん、こちらをじっと見ていったいどうなさったんですか。恥ずかしいのであまり見ないでください」
美弥は腕を胸の前で組んで身をよじる。
咲耶は失格していた。
試合は始まってもいなかった。
諦める以前に、同じコートにすら立たせてもらえないのである。
なにが、とは言わないが、大きいほうがぺったんこの手を引いて、桃源郷へと足を踏み入れる。
勇者が探し求めた理想郷の地だ。
浴槽のふたを取ると、熱を孕む湿気があたりに立ち込める。
夜はまだ肌寒い季節。
お風呂場の二人の白い肌を心なしか暖めてくれた。
「まずは掛け湯をしなくてはいけません。こちらへどうぞ」
「う、うむ。そ、そっとじゃぞ。そっっとやるんじゃぞ。よいな?」
「ふふふ、分っていますよ」
つるん、とした体の、つるん、とした肌に、生暖かいものが掛けられていく。
「――はぁうん。あ、あ」
「はい我慢できましたね。次は反対側ですので、くるっと回ってください」
言われたとおり、薄い体を回れ右させるぺったんこ。
もちろんなにが、とは言わないが。
滝のような掛け湯が終わった。
今度は美弥の体にお湯が掛けられる。
天界の湖や、下界の林もなんのその。山を越え、谷を越え、冷えた体を温める。
「それでは入りましょう」
美弥は咲耶の小さな手をとり、大海へと優しく導く。
すらりと長い脚が片方だけ優しくそっと差し入れられる。
続いて短く細い脚がおっかなびっくり海に沈められるが、海底まで届かない。
波打ち際で尻餅をついてしまう咲耶。
美弥はそれに合わせる様にして海沿いに腰を下ろす。
その姿は、まるで鳥取砂丘と松島であった。
二つの全く違う大和風景が一つの海岸線に姿を見せたのだ!
松島には豊かな自然が広がり、たわわに実った果実がある。
そこでは桃やメロン、イチゴが実っている。
一方の鳥取砂丘には、――なんにも無い。
鳥取砂丘といわれている所は実はそんなに広くない。
小さいのだ。
さらにいうと砂丘というだけあって一応の起伏もちゃんとある。
よかったね。
もっといえば長芋なんかは有名な特産品だったりする。
砂丘の畑に行けば長芋が埋まっているんですよ。
長芋が――、砂丘に――、埋ま――。
松島は砂丘の手を取って、ゆっくりと湯船に浸かる。
目を閉じてじっと耐える咲耶を、美弥は両手で優しく包みこむ。
「咲耶さん、そんなに怖がらないでください。私がついていますよ」
素直に腕の中に抱かれた彼女は、ここに来てようやく落ちつけた気がした。
――全身を包む暖かな流れに身を任せる。
「うむ、風呂というのも存外悪くないの。美弥がどうしてもと言うなら、また入ってやらんでもないぞ」
「はい、その時はおねがいします」