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四、新たなる旅立ち

「いいですか咲耶さん。もう桜の木の前でやったように、宇宙げんせの法則を捻じ曲げてはいけませんよ」「えぇ~~~~」「えぇ~~じゃありません。それに咲耶さんは女の子なんですから、はしたないことをしてると、兄さんに嫌われてしまいますよ」「う~~ん、……わかった」「はい。咲耶さんはよい子です」

 東條兄妹は魔王を家に連れて帰った。


 道中、美弥と咲耶は、女同士の秘密の話をしていた。


 信弥が話の内容を美弥に聞くと、顔を赤らめて「兄さんは不潔です」などと言う。

 咲耶に聞いても、口止めされていたらしく教えてくれない。

 なんだか仲間はずれな気分だった。

 

 閑静な住宅街。


 純和風のお屋敷で、広い庭園とその中の池には鯉まで泳いでそうな豪邸は、……通過する。

 お隣さんとお向かいさん、それらと一見しても違いが分かりにくい木造住宅。……東條家だ。


 帰ると、親父殿が既に家にいた。


 話があると言われ、信弥たちはリビングの四人がけテーブルに並んで座った。


 美弥が気を利かせて麦茶を出してくれる。

 咲耶はその冷たい飲み物が珍しいらしく、目を輝かせていた。


「天白羽神玖珂院咲耶之姫あめのしらはのかみくがいんさくやのひめ様ですね。お初にお目にかかります」

「うむ、くるしゅうない。信弥のお父君であるな。我のことは、『咲耶』と呼ぶがよいぞ」


 二人は仰々しく挨拶を済ませる二人。


「おい親父、こんな時間に家にいて仕事はいいのかよ」

「うん、仕事は辞めてきた」

「はぁ?」


 親父殿もついに不況の波に呑まれてしまったのか。


「まあ聞きなさい。私もお前の爺さんから、勇者だの魔物だのとは聞いていた。だがそんなものとは縁もゆかりもない世界で、世間の荒波にもまれながら、社畜として一生懸命に働いてきたわけだ」


 しみじみと語っている。


「しかし今日、魔物を管理する団体から『咲耶様のお世話をする代わりに』と、多額のお金を頂いてな」

「はぁ?」


 訳の分らないことを言う親父殿。信弥はクビになったのがよほどショックだったのかといたく同情した。


「いくらもらったんだよ」


 余興に付き合う信弥の言葉に、親父殿は真っ黒な政治家が放っているであろうニヤニヤとした汚い笑みを浮かべる。


「ん~~、信弥にはお金の話はまだ早いかな~~? あえて言うなら、贅沢しても遊んで暮らせるくらいだ。そういうわけで、私と母さんは世界一周の旅に出かけてくる。いつ戻るかは分からん」

「はぁ? 現実逃避はそのくらいにしたほうがいいぞ」

「これが本当のことなんだな~~」


 親父殿は横に置いてある旅行用のキャリーケースをバンバン叩いた後に、見せ付けるためわざわざ事前にスタンバイしてあったのだろう預金通帳を懐から取り出し、信弥の目の前でぴらぴらさせた。

 正確な額面を見ることはできなかったが、見たことも無い桁まで0が並んでいたのは確かだった。


 通帳が引っ込められた後も、信弥は途方も無い金額を記したソレがあった場所をただ唖然として見ていた。


 親父殿が言っている事は、どうやら本当らしい。


「ほら、母さんには今まで苦労をかけたし、咲耶様もここに住むことになるんだ。五人だとこの家も手狭に感じてしまうだろ? それならいっそのこと、母さんの夢だった世界一周旅行にでも行こうかなって。ちょうど今は円高だし」


 なんということだろう。

 魔王の封印が解かれてまだ半日も経ってないのに。

 その行動力を他の所で生かすことができれば、もっと出世できたろうに。

 と、信弥はいたたまれない気持ちになった。


「生活費なんかは毎月ちゃんと振り込んで、ポストカードも送るから、そんなに寂しがるなよ」

「いや、そういう事じゃなくて……」

「飛行機の時間が近づいているし、あんまり母さんを待たせると悪いから。戸締りと火の元の確認だけはしっかりするように。美弥、信弥と咲耶様のこと……、よろしく頼んだよ」


 すがるような目で親父殿は言った。


「はい、お父さん。気をつけて行ってきてください」


 「じゃ!」と一言残して、親父殿は旅立ってしまった。


 よく出来た妹は何事にも動じない。

 一方の信弥といえば、呆然とその背中を見送る事しかできなかった。

 状況を飲み込めていない咲耶。

 麦茶の氷を口に入れて、目をギューッと閉じて身を縮こまらせながら冷たさに耐えていた。

旅立つのは主要キャラクターではなく、親だった。

という解り難いギャグです。


どうせ常世にでも旅立つんだろ?って毛ほどでも思った方は罰として最後まで読んでください。

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