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どうやら、いじめられっ子の魔王が俺と世界征服したいそうです。new  作者: 水面
ロリっ子魔王咲耶、はじめての学園!
18/21

十八、咲耶と共に

美弥が、見つけてくれたのじゃ

 信弥は泣きながら走り出した咲耶を追って桜の広場へ。


 やぶの中を邪魔な草木を押し分けて進んだ先。


 そこには誰も居なかった。

 いいや、消えたというべきなのか。


 確かにもうすぐ昼休みには終わる。

 終わるが……、これは異様だ。


 無人の校舎に寄り添うようにして咲く巨大な桜。

 『魔王』が封印されていたその桜。


 嫌でも思い出される。

 咲耶の言った『みんな居なくなれ』。

 その通りになってしまった。

 誰も居なくなった。


 風に舞う花びらだけが、信弥のまわりをしつこく纏わり付いてくる。


 美弥、は……?


 彼は考えるより先に走り出していた。

 ただがむしゃらに走った。


 元いた桜の広場の林の奥。

 先ほどまで妹達と弁当を食べていたあの場所へ。


 あそこに行けば美弥が「どうかしましたか兄さん?」と、いつもの微笑で彼を迎えてくれるに違いない。

 遥香も変に慌てた彼に対して遠慮の無い一言を浴びせてくれるはずだ。


 林を抜け、息を切らした信弥が辿り着いた時、そこに、二人の姿は無かった。


 敷いてあったレジャーシートに押しつぶされた草の跡だけが、二人がつい先程までここに、この場所に、居た証拠だった。


 信弥はその場に立ち尽くしたまま、しばらく動けなかった。

 なぜだ?

 美弥が、遥香が、学校のみんなが、そして咲耶まで。彼だけが、この世界に取り残されてしまった。


 信弥は何も考えることが出来ず、おぼつかない足取りで桜の広場まで戻った。


 無人の校舎からはその役目を果たさないチャイムが無機質に鳴り響いていた。

 散った邪魔な桜を踏んで歩く。


 ベンチまで行って座り込んだ。

 大きく広がった見事な枝が、桜の花をいくらでも咲かせていた。

 大樹はその満開の桜を、贅沢にも彼だけに見せているのだ。


 信弥は今まで半信半疑だった。

 いきなり現れた少女が魔王だなんて言われて。

 咲耶は可愛くて放って置けない感じで……。どうしてなんだ咲耶? お前は何をしたんだ……。


 もしかすると、校舎の中にまだ人が残っているかもしれない。

 むなしい希望を抱いて、彼は静まり返る一階の教室へ。


 一年生が使うその教室の扉を開ける。

 居ない。


 次の教室の扉を乱暴に開け放つ。

 扉がぶつかる音が、廊下で響き渡った。

 居ない。


 次の扉を、その次の、次の……。


 こんなことをしても意味は無いのだろう。


 階段がある。

 信弥は救いを求めるように上へ。


 一人だけで使うには広すぎる幅の階段。

 手すりに掴まって一歩、また一歩。


 足を動かすにつれ、何が起こったのかを理解していく。

 一段高くなるたびに、皆が消えてしまったという事実が、彼の心に重くのしかかる。 


 何で俺は手すりなんて使ってるんだろうな。

 今までこんな物は誰が使うのか判らず邪魔なだけだと思っていた。

 なんだ、結構役に立つじゃないか。


 十段そこら上がった踊り場で、信弥はヒザを付いていた。



 信弥はどうにかして三階の自分の教室に来ていた。


 開いたままの窓からは風が吹き込み、薄っぺらなベージュ色のカーテンを弄んでいる。


 その窓から身を乗り出せば、あの桜が見えるはずだ。

 信弥の目には何も変わらない桜が、遠目に一部分だけ見える。


 三階の教室。

 このまま下に落ちてしまえばどうなるんだろう。

 信弥の心には、暗く自虐的な思考が見え隠れしてしまう。


 そんな事をしてもみんながもどってくる訳もなく、おとなしく自分の席に座り、腕を枕にして机に突っ伏した。


 魔王の御技によって、みんな居なくなってしまったのだろうか。


 焦燥、落胆、虚脱、放心、悲嘆、拒絶、後悔、自責、孤独、不安、恐怖、懇願、そして承伏。

 目を閉じて、そのまま意識を手放した。



 信弥に咲耶。美弥が、遥香が、詩織が。

 皆で傾いた長机を囲み、笑い合っている。


 ふと咲耶が立ち上がり、あの嫌な音がする扉をうんしょっといった感じで開けると、飛び出していってしまう。


 信弥は後を追いかけた。


 しかし小柄な咲耶を何処まで追っても、その距離は縮まることはない。

 彼女は魔王で、信弥は人間なのだから。


 その後ろ姿がだんだんと小さくなっていく。

 暗闇の中を闇雲に彷徨う。


 虚空に一人取り残された彼に、何も知らない奴らの不気味な冷笑が聞こえてくる。


 〈うふふ、くすくす、あははははははっ〉


 不快で耳にこびりつくような笑い声が彼の神経を逆なでする。


 ヤメロ……。

 お前達は消えたんじゃないのか。だとしたら、残った俺を連れて行こうとでもいうのか。


 忌々しい声が、彼の意識をゆっくりと覚醒に導いていった。



 信弥は目を覚ますと、眉間にシワを寄せたひどい剣幕の先生に見下ろされていた。

 遠巻き見守るクラスメイト。廊下には無駄話をした生徒が行きかっている。


「あ、……。えぇ?!」 


 先生の拳骨が俺の頭をしたたかに打ち抜いて、彼はようやく目が覚めた。


「お前何やってんだ。昨日に全校集会だとあれだけ言ってあっただろう。サボるとはいいご身分じゃないか。……罰として、今日は一人で教室掃除な」


 そうなのだ。


 昨日の先生の話を右から左に聞き逃していた。

 詩織さんが今朝に注意を呼びかけていた。

 真理子先生も釘を刺していた。

 美弥も確認してくれていたのに。


 どうやら信弥が悪かったみたいだ。


 広場の奥に戻っても美弥たちが居なかったのは、集会のために急ぎ体育館へ向かったから。

 広場でまごついていた彼は、生徒達が移動する波に完全に遅れてしまっていた。


 一度思い込んだことを自ら変えることは難しい。

 何かしらの事態が起こらない限り変わることは無いのだ。


 他の生徒から守るように詩織に抱きかかえられた咲耶が、心配そうな顔をして信弥を見ていた。

 彼が話を聞く限り、どうやら行き違いになったらしい。


 その後の罰掃除は咲耶も手伝った。

 余計に時間がかかったと思うのは気のせいだろう。

残念! ミスリードでした。気づいていたアナタはすごい!

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