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どうやら、いじめられっ子の魔王が俺と世界征服したいそうです。new  作者: 水面
ロリっ子魔王咲耶、はじめての学園!
13/21

十三、ボランティア部

体と心には、傷が残らないようにしたから

 魔王は美弥によるトラウマもあってか、ボランティアに何か変な幻想を抱かされていたらしく、どうあっても行きたいらしい。


「わらわはぼらんてぃあしたいのだ! 世界をせーふくするのだ!」


 そう言ってきかない。


 今まで帰宅部だった信弥は戸惑っていた。

 でも美弥が咲耶に付いていくというならば、彼も付いていかねばなるまい。  

 兄として。いや、勇者として!



 信弥は咲耶の手を引いて、美弥の先導でボランティア部を目指す。

 さすがよく出来た妹は下調べも万全だった。


 昇降口で靴を履きかえ、上履きを抱えて外に出る。

 正面玄関よりグランドに沿って桜の広場と逆の方向へと進み、校舎の陰に隠れるようにして建っている、この学園の特色のひとつでもある部室棟を見つけた。


 主に文科系の部室が入っているこの建物は何年か前に新しくなったらしい。

 広くゆったりとした部屋には教室にも付けられてないエアコンまで完備してある。


 部活をやっている者にとっては、狭い教室というコロシアムに押し込められて睡魔や抜き打ちテストで攻撃してくるクリーチャーならぬティーチャーとの戦いに勝ち続け、死の間際に放つ期末テストという名のメガ〇テに生き残った勇者だけがたどり着ける楽園なのである。


 当然HPが赤くなってしまった勇者は部活なんてやらせてもらえるわけが無く、放課後にティーチャーの攻撃に耐え続ける日々が待っているのだった。


 下駄箱がたくさん並んでいる正面玄関から入った。

 靴をはきかえてから、こぎれいな廊下を進む。


 立派なプレートが吊り下げられている部室を次々と横切り、蛇口が五つ並んでいるピカピカな水のみ場を過ぎて、明るく清潔感あふれるトイレを越えて。


 どんどん進んで、建物の一番奥にある非常口へとやってきた。


 〈ギュギッ!〉


 美弥が金属がこすれる嫌な音を響かせた錆びたステンレス製の扉をこじ開ける。

 出た先には、赤や緑や黒の、色の分だけ年代を重ねたトタン屋根がある渡り廊下があった。


 だんだんと雲行きが怪しくなってきた。


「まさか……、この半分朽ちたようなスノコの先に続いているプレハブ小屋が目的地なのか?」


 信弥は後ずさりながら言った。咲耶はその足にしがみついてる。


「はい。今日行われた部活のオリエンテーションンの資料には、そうあります」

「秘境の湧き湯へ行く時の感じに似ておる」


 咲耶の目にはちょっとだけ恐怖が浮かんでいた。


 黒ずんだ鉄骨と痛んだクリーム色の壁をしたプレハブ小屋が並ぶ深部。

 あんまり日のあたりがいいとはいえないその一角。

 電気はかろうじて通っているらしい。


「どうやらここみたいですね」


 こんな状況でも、美弥は微笑みながら一枚の扉を指差す。


 手書きで「ぼらんてぃあぶ♪」と書かれたプラスチックの白いプレートがぶら下げてある。

 強い風が吹いたら飛ばされそうな感じだ。


 世の為人の為になることをする前に、まず先にこの部室をどうにかしたほうがいいと思うぞ。

 そう思いながら、信弥は意を決して、この秘境の隠れ家の戸口を叩く。


 ノックをこんこん。

 すると、中から「どうぞ」と一声。 


 〈っギュ!〉


 これまた嫌な音を出すドアに信弥は顔をしかめつつ、中へとおじゃました。


 部室の中に座っていたのは、女の子だった。


 瞳は金属細工のように冷たく鋭利に感じられるが、芸術的な美しさも兼ね備えていた。

 物言わぬ目に架かっている眉は、彼女の感情を読む一つの手がかりとなるのかもしれない。


 しなやかに伸びた細いそれはゆるやかな弧を描き、内面に隠された静かでいて、ためらいのない矢をつがえているようだ。

 しかし、それも突然の来客に対して動くことはなく、彼女の性格そのものを体現していた。


 髪型は肩ほどまである髪をかんたんに縛っているポニーテール。

 後ろに持っていけなかった髪を顔の横からそのまま下へ垂らしている。


 凛々しいお顔のおしゃれなフチ無しメガネは、知的なお姉さんといった雰囲気を醸し出している。

 左手には読みかけの本を掲げていた。


「ようこそ」


 顔を動かさず言った。おそらくは歓迎しているのかもしれない。


 部屋の中には、一見しただけでも傾いているのが分る茶色の長机が中央に鎮座しており、その周りを取り囲むようにパイプ椅子が並べられている。

 うっそうと茂る緑を眺めることができる窓と、できれば物を保管しておきたくないロッカーがあった。

 白い湯沸しポットくらいは置いてあるみたいだ。


「私は二年二、組橘遥香たちばなはるか。よろしく。……入部希望?」

「ああ。俺は同じ二年の東條信弥。こっちは妹で一年の美弥。そしてこの後ろに隠れてるのが、今日転校してきた玖珂咲耶くがさくや。よろしくたのむ、橘さん」

「お久しぶりです橘先輩」

「二人とも、遥香と呼んでくれてかまわない」


 なぜだか知り合いの二人。よく出来た妹は交友関係も広いのかもしれない。


「じゃ遥香。君が、部長なのか?」


 冷やかしではないと知ると、遥香は手に持った本を置いて話を続ける。


「ええそうよ、私がボランティア部の、部長。君が今学校で噂のロリ――。……いいえ、なんでもない」


 信弥は何て言われようとしたのか、凄く気になった。


「わざわざこんなメンドクサイ部活に入るなんて、Mなの?」

「エッ?」

「……冗談。歓迎するヨ。まさか本当に希望者が来るなんて。捨てないでおいて正解だった」


 包み隠さずストレートな意見をおっしゃる方だった。


 遥香は教室にあるものと同じタイプではあるが、多少歪んでいる机に身を屈めてごそごそと中を漁り出した。

 彼女は目的の物を見つけ、やっとといった感じで体を起こした。


「これ、入部希望書」


 ずいぶんと黄ばんだ紙を三枚さしだす。


「ここは去年までは部だったの。といっても、卒業した先輩方が横にある部室棟の部屋を使いたいがために作ったような部活らしかったけど」

「それであのプレートか……」


 あの文字には、そういう経緯があったのだ。 


「それで、その部活を私がもらったまではよかったのだけど、部屋が足りという理由であっちを追い出されてしまった」

「そうだったのか。ちなみに顧問の先生とかは居るのか?」

「秦宮真理子先生。二年の英語は全クラス担当してると思う」


 今まで黙っていた咲耶が突然割って入って、遥香に声をかけた。


「おぬしも勇者なのか?」

「そういうあなたは魔王」


 一瞬、鋭い視線が交錯する。

 咲耶は言うだけ言って、いつもの調子で信弥の制服をぐいぐいやり始めた。


 秦宮詩織といい橘遥香といい、情報化社会の現代において魔物は結構ポピュラーな存在だったりするのかと、信弥は邪推した。


「なぜ咲耶の正体を知ってるんだ? そもそもこの部活は何をするところなんだ」

「あなた達になら、言ってもいいかな」


 相も変わらす、抑揚の無い声で続けた。


「学園内外のゴミ拾いや行事に駆り出されたり。地域のお祭りのお手伝いとかの奉仕活動。いわゆるタダ働き。魔物退治なんかもたまに」

「へぇー。結構まともな活動をやってるんだな。……ん? 最後に妙な言葉を聞いたような」

「タダ働き? やっぱり労働の対価って必要だと私も思っ――」

「いや、そっちじゃなくて」


 信弥がツッコミを入れる。


「奉仕活動なんてものは自己満足型の方々にやらせておけばいいと思う。新しい部活発足の審査は結構厳しいらしくて、この部を乗っ取ったんだけど。もう少し考えればよかった」

「いや、ちがくて。てか、サラリと怖いこと言わないで……」

「確かにちょっと強引だったかもしれないけど、実際の活動が伴わないような部をおとしいれるのに、何のためらいも無かったわ」

「も、もうそれ以上聞いたら、戻れなくなりそう……」

「じゃあ、魔物退治?」


 信弥は首をこくこく上下に動かした。


「知性も持たないようなのが常世とこよから迷い込んでくることがある。それを退治する、というかそれが主な仕事、……になってほしい。意志がある魔物のほとんどは友好的だし、話したらちゃんと分ってくれる」 


 非常に衝撃的なことを聞かされてしまった信弥は、退治と聞いて思わず尻込みしてしまう。


「どうする? やっぱり入部、やめる?」


 なんとなく危険な香りが漂い始めた空気の中、恐れを知らぬ我らが魔王は、


「もちろん、ぼらんてぃあするのじゃ」


 そう声高らかに宣言するのであった。



「私はこれ、秦宮先生に出していくから、今日は帰ってもいいよ」


 上手く書こうとして逆に不揃いになってしまったものと、丸みを帯びながらもバランスよく丁寧に書かれているものと、ミミズがのた打ち回ったようなもの。

 遥香は三枚の入部希望書をひらひらさせながら言った。


「あとこれ。私の連絡先だから」


 そう言い残して、校舎へと消えていった。


 信弥が手渡された紙片。090から始まる番号とメールアドレスだった。

 三人は遥香の後姿が見えなくなるまで見届けてから、家路へと向かった。


「咲耶さん、学園は楽しかったですか?」

「うむ、たまにならこういうのも悪くないの」

「何言ってるんだ。明日から毎日行くんだぞ?」

「な、なぬ……?」


 目が点になってしまった咲耶だが、


「し、信弥と美弥が一緒ならば、考えてやらんこともない、かのぉ?」

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