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どうやら、いじめられっ子の魔王が俺と世界征服したいそうです。new  作者: 水面
ロリっ子魔王咲耶、はじめての学園!
11/21

十一、信じていたのに。

常に味方とは限らない

「この様子じゃ玖珂の面倒は東條に任せるとしよう。瀬川、席移動してもらってもいいか?」

「も、もちろんですよ」


 うなずいた瀬川さんは、テキパキと荷物をまとめ始める。


「ありがとう瀬川さん。ほら、咲耶もお礼を言いなさい」

「う、うん。あ、あり、ありが……とぉ」

「ごめんね瀬川さん。咲耶はちょっと内気な性格で――」

「ううん、いいの、ぜんぜん気にしてないよ、じゃ」


 早口で言う彼女。

 優しい子だ。


 そう信弥が思った彼女の去り際の、あの……、汚い物を見るような目は、彼の人生の一ページにしっかりと刻み込まれた。


「これで話は終わりだ。お前ら、あまり玖珂をいじめるなよ」


 HRが終わってからの咲耶は大人気だった。

 咲耶のまわりには人が押し寄せ、矢継ぎ早に質問を浴びせる。


 隣に座る信弥との間には見えない境界線がある。

 そこからは誰もはみ出さない徹底振りだった。

 人だかりからは、「大丈夫?」とか「何かされたりしてない?」とか、咲耶はすごく心配されていた。

 ロリコンという言葉が頻繁に飛び交い、虐待とか、犯罪って単語も聞こえてくる。

 そ、そんなんじゃ、ないのに……。信弥が心の中でつぶやく。彼らが本気で言ってるわけではないと信じたかった。

 そんな騒動の中心に居る咲耶は隣の信弥が見えなくなる程にクラスメイトに取り囲まれているので、助けを求めることが出来ない。

 背筋を伸ばしたまま固り、ときおり何かを喋りたそうにしては、また下を向いてしまう。

 一言も発せずに居たので、信弥への疑惑はさらに深まるばかりだ。

 そんな感じで、一限の授業開始まで過ごした。

 

 かくして、信弥の一年間のあだ名は決まった。


 ――「ロリコン」だ。


 耳を澄ませば聞こえてくることはあるかもしれないが、面と向かって言う人はいないだろう。

 彼が居ない間に、「あのロリコンは、あのロリコンが」と、言われ続けるのだ。


 ちょっと変なあだ名が付くだけなら我慢できた。


 昨日まで親しく話し合っていた吉川君に前原君。

 クラスの中でも可愛い笹本さんとも仲良くなることが出来て、「よっしゃ!」と思ってた彼に……。

 その誰も、目線すら合わせてくれない。

 去年同じクラスで一緒につるんでた恭介まで態度がよそよそしい。


 さすがの彼も、これには心の中で泣いてしまった。

 クラスメイトの誤解は徐々に解いていくしかないだろう。

 


 そして信弥にはもうひとつ気になる事が。

 咲耶の正体を知っていた彼女だ。


 だがその疑問は、さっそく一限目の授業で明らかとなった。

 数学の教師が彼女を指名したのだ。


「じゃこの問題を……。秦宮、やってみろ」

「はい」


 そう短く答えた彼女。

 信弥に群がる人垣を崩したときとは別に、すこし控え目な印象だった。

 長い髪をなびかせながら黒板に出て、問題を解いてゆく。


 どうやら天は二物を与えたらしい。

 先ほど例題をやっただけの応用問題を簡単に解いてしまった。


 秦宮詩織はたみやしおり。それが彼女の名前だった。


 魔王云々を信弥に教えてくれた、秦宮真理子先生と同じ苗字だ。


 真理子先生は学年副主任で担任は持っておらず、二学年の英語の授業を受け持っていた。

 さらに、学園で男子に最も人気のある、大人の魅力あふれるセクシーな先生だ。


 先生と同じ苗字なら姉妹か、あるいはお子さんか。

 あんな若さと美貌で自分と同じ年齢のお子さんがいる。なんて、信弥には信じられない。

 だが彼の隣には、先ほどのHR後の尋問からずっと固まっている魔王さくやがいる。ありえないことなど、なにひとつとしてなかった。


 もしかすると、秦宮先生自身が魔物って可能性も。

 美しいという点においてなら、ありえなくも無い話だった。

 でも、さすがにそれは考えすぎたろう。仮にそうだとするならば、秦宮詩織も魔物ということになるではないか。

 昨日の口ぶりからするに、先生は人間であると思う。


 信弥のその推測は後に正しいと知ることになるのだが、それは別の話だ。



 昼休みに携帯で呼び出されていた信弥は、桜の大樹のさらに奥、林に囲まれた、普段は人がここまでは来ない、こじんまりと開けた場所で美弥と落ち合った。


 信弥は四限が終わると同時に、放心する咲耶の腕をここまで引っ張ってきた。

 しゃんと歩かない咲耶のせいで、彼は途中からは半分抱きかかえるような形でつれてきたのだった。


「兄さんが『二股している』とか、『幼女を家につれこんでいる』とか、『美女をはべらせてる』とか。すごい尾ひれがついている噂が、一年生の教室まで来ていましたよ。おそらくこの分だと学校中に……」


 信弥は、ある程度は仕方ないと思っていたが、これではあまりにもひどい。

 彼は藁にもすがる思いで妹に問いかける。


「美弥はお兄ちゃんのこと、信じてるよな?」

「はい、もちろんです」


 妹はいつもの笑顔で答えてくれた。

 目もちゃんと笑っている。

 昨日の夜のことは、美弥の中では無かったことにしてもらえたらしい。


「ちゃんと説明してくれた?」

「それは……、わたしも新しい学園で、大事な時期ですので、それで、あの、その……」

「…………」


 信弥は、昨晩咲耶に「あ~~ん」したときの、彼女と同じような顔をしていた。


 よく出来た妹は肩に下げていた鞄より、袋を三つとりだした。


「さぁ咲耶さんお腹がすいているでしょう? お弁当を作ってきましたので、みんなでいただきましょうか」

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