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2 余計なものを捨てましょう。

「なんか、つかれた。」

そう呟きながら日曜の朝、目覚めた。


そのことに酷く脱力する。

安だけ眠ったのに、朝起きて一番最初につぶやいた言葉が疲れただなんて。

今日は、眠り倒してやろうか。

目覚まし時計は午前10時30分を指していた。


おなか減ったなぁ。



あの後、八雲課長は業務管理の将悟に言い過ぎたと謝った。

もちろん、将悟は私たち営業部の人間に陳謝した。

そして、印鑑に関するミスが多すぎること。

業務管理部では基本的にどういう意図でそうしているのか、

判断できかねることが多いので、不備と分かっていても直さないように指導していることを伝えられた。


ただ、書類に関する効率化については後日他部署の人間も集めて検討することが決まった。


私は自分の部下である高木と加藤にも書類記入の徹底を伝えた。

高木はぶつくさ言っていたが、加藤は意外にすんなりと頷いた。

だが、やはり客商売なので、業務管理課にも折れてもらいたいという前提条件は付いていたが。


私は手帳サイズのチェックシートを作り、各々手帳に挟むように指示した。

また、iPhoneのアプリも利用して、三人で工夫しながら不備をなくす取り組みを始めた。


八雲課長はブースでの私たちのミーティングをのぞきに来て、

その案はとてもいいから営業部全体で共有しようと持ち上げてくれた。

高木は八雲課長にほめられたことでがぜんやる気を出していた。


こういう、マネージメントが八雲課長はすごく上手だと思う。


私のように、部下にお願をするでもなく、

将悟のように、部下に同調するでもなく上手にコントロールする。

私は彼のようになりたいと思う。


そんな新しい取り組みを始めながらの一週間。

書類記入があるたびに緊張が続いた。

なんでだろうか。色々なことがありすぎて非常に疲れた一週間だった。

おまけに、クライアントの関係で、土曜日の出勤も余儀なくされてさらに疲れが増した。


明日、月曜に代休を取るが。


30を過ぎたからだろうか。

こんなに疲れが抜けないのは。

私はパジャマのまま、カップラーメンに注ぐためのお湯を沸かす。


買い置きしているカップラーメンのパッケージを破り、

カヤクを入れてゴミを捨てようとしたところで、

たまりにたまったゴミ箱の中のゴミに嫌気がさす。


この時間だし、パジャマで捨てに行くのはめんどくさい。

今日はゴロゴロしたいし、明日でいいかなぁと思いながら、

ゴミをゴミの上に乗せる。


朝食代わりのカップラーメンをずるずるすすりながら、

いいとも増刊号を見るでもなくボーっと見る。

戦うサラリーマンにしか味わえない日曜日の至福の時間だ。


「断捨離ってのが流行っているらしいんだよ。」

タモさんがテレフォンショッピングでそんな話題を女優に振る。

女優もそれを実践しているという。

「私も、余計なものを捨てたら、いいことばっかりで。

本当に、いらないものが家には結構あるんですよね。

何かに使うかもって冷凍庫に入れてあった保冷剤が7個も出てきたとき、

何に使うんだろうって、本当に真剣に悩みました。」

そんなやり取りに観覧者が笑ったりうなずいたりしている。


私は突然思い出した。

物がところどころに置いてあって、露出が少ないフローリングをつま先歩きで戻ると、

別途サイドに投げ出してある本や資料をどけながら目的のものを探す。


『断捨離』と書かれたその本がそこにはあった。

将悟が以前くれたものだった。

今流行っているからやってみたらどうかと。

私は興味が無くって、そのまま放置してしまっていたものだった。


「あのころから、将悟、私に片づけをしてほしかったのかな。」


多分、部屋が汚いと指摘し難かったからこういった本を渡してきていたのだろう。

だらしないって言われてもしょうがないじゃないか。


私はカップラーメンの残りの汁をシンクに捨てると、

カップラーメンの容器も含め、使いっぱなしになっている食器も一緒に洗った。

時間が経ってしまい、カピカピになってしまったお皿が綺麗になるたびに、

変な達成感を味わっていた。

そして、部屋の中のゴミが気になって気になって仕方が無くなった。

私はパジャマからちょっとマシな部屋着に着替えてゴミをまとめ始める。

ゴミ箱のゴミで45ℓのゴミ袋は一ついっぱいになった。


私は、髪の毛をゴムでまとめると、ほとんど開けたことがないベッドサイドの窓を全開にする。

換気扇を回し、玄関もチェーンを掛けて開けた。


「やるぞ!」


気合いを入れて、季節外れの大掃除が始まった。


本に書いてあった通り、ミニキッチンの周りから片づけ始めた。

冷蔵庫の中の、賞味期限がとっくに過ぎた食品をどんどんゴミ袋にほおりこむ。

一回しか使わなかったバニラエッセンスが出てくる。

将悟にバレンタインでケーキを作った時のものだった。

そんな未練を残していてもしょうがないと自分を叱咤し、ゴミ袋にほおりこむ。


冷蔵庫に残ったのが、ビールとミネラルウォーターといつも

食べているフリカケだけになったことにがくぜんとした。

将悟に別れを切り出された時、たまには食事も作っているとどの口が言ったのか。

ため息しか出なかった。


それでも、捨てる作業は終わらない。


流しの下にある、ストック食材が酷かった。

まあ、カップラーメンとか、カップ焼きそばとか、カップラーメンとか。

これは日持ちがするし、食べれるから捨てるに捨てられない。

後でどうするか考えるために保留の段ボールに入れる。


読んでいないダイレクトメールとか、

買ったそばから何となく集めていたコンビニのビニール袋、

これまた、何かに使うかもしれないと取っておいた割り箸と楊枝のセットを捨てる。

溜まっていた新聞紙だとかをひとまとめにすると、キッチンがだいぶすっきりしてきた。


リビングに入ってうんざりとした。

ベッドの上に散乱した、雑誌、クッション、ぬいぐるみ、洋服。

それを端に寄せて、狭いスペースで寝ているのだ。

疲れが抜けないのは年のせいではなくて、明らかに環境のせいだった。


私はぬいぐるみをためらいなくゴミ箱に捨てた。

将悟と遊園地に行ったときに買ったぬいぐるみ。

なぜか、あの遊園地に行ってしまうと買ってしまう普段は絶対かぶれない帽子。

将悟に取ってもらったキーホルダー付きのぬいぐるみ。

将悟に。。。。。

私は涙が止まらなかった。

捨ててやる。捨ててやる。捨ててやる!!!


私はぬいぐるみを全部捨てるゴミ袋に詰めた。


洋服も、クローゼットから取り出すと、同じようなのがたくさんあった。

そして、太ってしまってからは全く来ていない入社同時のスーツまで。


「やせたら着よう、やせたら着ようって結局着ていないのよね。」


私は、入社当時にちょっと奮発して買ったそのスーツを捨てた。

他にも、バーゲンで買ったものとか、逆に着倒して色あせたTシャツとかも。


クローゼットの中身が3分の1ぐらいになった。


45リットルのゴミ袋を12袋使いきったところで、もうゴミ袋が無いことに気がついた。


私は、捨てない方に選んだジーンズとTシャツを着て、財布とiPhoneだけが入ったポーチを持つ。

ゴミ袋を両手に3袋づつ持つと、よろよろとゴミ置き場にたどり着く。

私のゴミだけで半分が埋まってしまったことに罪悪感を抱きながら、

新たなゴミ袋を買うためにコンビニに向かった。


いつもなら新商品のお菓子とか、カップラーメンのコーナーに顔を出してしまうのだが、

今日はそんなものに目もくれることもなく、45ℓのゴミ袋を2ケース買った。



「終わったぁぁぁ!」


私は驚くほど広くなった部屋で缶ビールを片手に祝杯をあげた。


信じられないことに、ゴミ袋21袋分のゴミを捨てた。

この狭い部屋からである。

本は先程段ボールにつめて古本屋に送った。


「こりゃ、将悟にだらしないって言われても仕方なかったよなぁ。」


厳選したものだけが残った部屋。

驚くほど居心地がよくなった。

そして、そんな居心地のいい部屋で、カップラーメンを食べている自分がかわいそうになった。


明日は料理でもしようかなぁとワクワクしながらiPhoneにクックパッドのアプリを落した。


私は久々にベッドで熟睡をした。


月曜日、ゴミの回収業者が来ていた。

私のぬいぐるみたちが、透明の袋越しにこちらを見ている。


私はたまらず、職員に声をかけていた。

「すいません、そのぬいぐるみ間違えて捨ててしまったんです。」


私はつっかけサンダルで階下に降りる。


業者はちょっとやな顔をしながらも、私がぬいぐるみを探り出すのを待ってくれた。


その中から、将悟に取ってもらったキーホルダー付きのぬいぐるみだけを取りだした。

後の子たちにはごめんねと謝ってから業者に引き渡した。


-余計なものは捨てましょう。

 でも、少しでも心が引かれたり、

 必要としているものは取っておいても構わないのです。


私にはまだ、このぬいぐるみが必要だった。



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