変人陸上部
うちの高校の陸上部はレベルが高い。
それも、県大会で毎年優勝するほどに。
そんなうちの陸上部の秘密は、全員が変人であることだ。
初めての練習のときに顧問の先生が言った。
「いいか、陸上は才能じゃない。変わることは誰にでもできる」
初めは誰でも速くなれるという意味での言葉だと思っていた。
いや、その意味も正しいのだが。
真なる意味はもっと単純。
変人になることは誰にでもできる、という意味だった。
先生によると変人になれば速くなれるらしい。
その話を聞いたときはまったく意味がわからなかったが、すぐに意味を理解することになった。
最初に会った部長は、スタートのたびに「よーい……ドン!」を自分で言う人だった。
「誰よりも早くドンを聞けるからな」
一応、理論は通っている気がした。
短距離エースは走る前に靴へ話しかけていた。
「今日は西風だから右足から頼む」
なんとなく、靴もうなずいている気がする。
長距離の先輩は、校庭を走らない。
校庭が自分の周りを回るまで待っている。
「地球は動いてるから」
七時間後に一周したことになっていた。
こんな部活で三年間を過ごしてきた。
変わり者ばかりのこの部活は、想像の何倍も楽しかった。
卒業式の日。
先生が最後の言葉をくれた。
「社会に出ても走れ」
「夢にですか?」
「いや、変な奴に向かってだ」
それ以来、街で妙な人を見ると、私はクラウチングスタートの姿勢を取るようになった。
しかし、一度たりとも追いつけたことはない。
変人は、私よりも速いのだ。




