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変人陸上部

作者: 鶴ヶ友護
掲載日:2026/08/30

 うちの高校の陸上部はレベルが高い。

 それも、県大会で毎年優勝するほどに。

 そんなうちの陸上部の秘密は、全員が変人であることだ。


 初めての練習のときに顧問の先生が言った。

「いいか、陸上は才能じゃない。変わることは誰にでもできる」

 初めは誰でも速くなれるという意味での言葉だと思っていた。

 いや、その意味も正しいのだが。

 真なる意味はもっと単純。

 変人になることは誰にでもできる、という意味だった。

 先生によると変人になれば速くなれるらしい。

 その話を聞いたときはまったく意味がわからなかったが、すぐに意味を理解することになった。


 最初に会った部長は、スタートのたびに「よーい……ドン!」を自分で言う人だった。

「誰よりも早くドンを聞けるからな」

 一応、理論は通っている気がした。


 短距離エースは走る前に靴へ話しかけていた。

「今日は西風だから右足から頼む」

 なんとなく、靴もうなずいている気がする。


 長距離の先輩は、校庭を走らない。

 校庭が自分の周りを回るまで待っている。

「地球は動いてるから」

 七時間後に一周したことになっていた。


 こんな部活で三年間を過ごしてきた。

 変わり者ばかりのこの部活は、想像の何倍も楽しかった。


 卒業式の日。

 先生が最後の言葉をくれた。

「社会に出ても走れ」

「夢にですか?」

「いや、変な奴に向かってだ」

 それ以来、街で妙な人を見ると、私はクラウチングスタートの姿勢を取るようになった。

 しかし、一度たりとも追いつけたことはない。

 変人は、私よりも速いのだ。

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