04 警告
「さっ、三郎?!」
おばの声は裏返り、顔は青ざめていた。
なぜなら、三郎が血だらけで倒れていたからである。
そこには、血だまりもできていた。
臆せずさやは近づき、三郎の首に手を当てる。
「残念だが、もう死んでいる……」
「そんな!」
「なんてこと……もしかしたら、次は私かもしれないわ」
小さな声で、おばが呟いた。
それを聞き逃さなかったさやは、足早におばに近づいた。
「『次は私』とは、どういうことですか?」
「なっ、なんでもないわ!」
「私も、部屋に戻らねば……」
おばは焦ったように、その場を後にした。
主人も、目をそらしたまま行ってしまう。
「冷たいな。使用人がひとり亡くなっているというのに」
さやはため息をつき、三郎の死体に目をやる。
すると、ゆりが震える声で聞いてきた。
「あの、三郎さんは……」
「このままにしておけないから、大きめの布を持ってきてくれるかい?」
「はっ、はい!」
それから、ゆりが持ってきた布を、三郎の死体にかける。
さやは目を閉じ、お経を唱え始めた。
ゆりも、静かに手を合わせている。
やがてお経が終わり、さやは錫杖を鳴らした。
すると、ゆりが小さく呟いた。
「なんで、こんなことに……」
「これは、警告なのかもしれないな」
「警告?」
「目的は、この屋敷にいる者たちの始末だ」
「そんな……」
「彼女の憎しみは、相当なものらしい」
「彼女って……」
ゆりが首を傾げていると、さやはもう一度錫杖を鳴らした。
「それは、本人に聞いてみようか!」
さやが空を見上げると、黒い雲が広がっていく。
「邪気が強くなっているな……」
「えっ、空が……」
「どうやら、親玉のおでましみたいだね」
錫杖を構え、さやは空を睨みつける。
やがて、ゴロゴロと雷が鳴り始めた。
そして、その音とともに、巨大な化け猫が降りてくる。
「シャーっ!」
化け猫は威嚇するように、さやたちを睨みつけた。
「なっ、なんですかあれ!」
「あれは『あやかし』だよ。怪異とでも言うのかな」
「怪異?」
「三郎殿の体には、いくつも切り裂かれた跡があった」
「それって、もしかして……」
「恐らく、あの化け猫にやられたんだろうね」
「なっ、なんだあの生物は!」
二人が話していると、主人が慌てて出てきた。
「突然暗くなったと思ったら、何事ですか!」
「おば上、あれを!」
「っ?!」
おばも出てきたが、化け猫に驚き口を押える。
すると、主人はさやに駆け寄ってきた。
「払い屋、早く退治してくれ!」
主人は血相を変え、さやに怒鳴った。
しかし、さやは冷たく、主人を見つめていた。
「あなたはまだ、私に伝えていないことがありますね」
「なに?」
「それを話してもらわないと、私も退治できません」
「私は、なにも隠してなどいない!」
「さくらのことですよ」
「姉のこと?」
わけがわからず、ゆりは首を傾げていた。
しかし、主人は違った。
明らかに、顔が引きつっていたのだ。
「あなたはさくらと、なにかあったのではないですか?」
「しっ、知らん!」
首を振る主人に、さやはため息をついた。
そして、化け猫を指さす。
「あれは、さくらの怨念です」
「なっ……!」
「姉の怨念?!」
さやの発言に、その場にいた全員が驚いた。
すると、主人が頭を抱えてうずくまる。
「さくらが悪いんだ、私の求婚を拒んだから……」
「……」
「私は、なにも悪くない!」
「あぁ、もう終わりね……」
わめく主人に、おばは大きく肩を落とした。
その様子を、さやは無表情で見つめる。
「あなたは、ご主人から相談されたんですね」
「えぇ……」
「そして、三郎殿と共謀して、さくらの命を奪った」
「……私はやっていないわよ」
「そうですね。実際手を下したのは、三郎殿でしょう」
「あの女がいけないのよ……すべて、あの女が!」
おばは怒鳴ったが、さやは動じなかった。
ゆりは、真実を受け入れられずにいた。
だが、涙があふれ、その場に膝をついた。
さやは主人に近づき、冷たく見下ろす。
「あなた方のしたことは、許されることではありません」
「うぅ……」
「あとで、裁きを受けてもらいます」
さやは錫杖をひとつ鳴らし、化け猫の前に立つ。
「ここからは、私の仕事です」
「さや様……」
「ゆり、そこの二人を連れて、少し離れていなさい」
「はっ、はい!」
ゆりたちが離れたのを見届け、さやは化け猫を睨みつける。
『憎い……』
突然、女の声が響いた。
そして、化け猫の前に、さくらが現れる。
しかし、その顔は怒りに満ちていた。
『憎い、すべてが憎い!』
「かわいそうに……今、楽にしてやるから」
さやは錫杖をひとつ鳴らし、それをさくらと化け猫に向けた。
「私は、さや。今からお前たちを払う者だ!」




