03 主人の依頼
「おーい、帰ったぞ。誰かおらんのか!」
「いけない、ご主人様だわ!」
ゆりは、慌てて玄関の方に走っていった。
さやも、小走りでついていく。
玄関に着くと、五十代ぐらいの、長身の男が立っていた。
顔には髭が生えており、眉間にしわを寄せていた。
男は、明らかに機嫌が悪かった。
ゆりは急いで正座し、頭を下げる。
「ご主人様、おかえりなさいませ!」
「まったく、遅いではないか」
「申し訳ございません……」
「おい、その女は誰だ?」
「あっ、こちらの方はお客様です」
「客?」
主人は、さやをじっと見つめる。
「はじめまして、私は通りすがりの払い屋です」
「払い屋だと?」
警戒する主人に、さやは微笑む。
隣では、ゆりが少し戸惑っていた。
だが、さやは気にせず続ける。
「ここには、ただならぬ妖気が渦巻いています」
「……」
「なので、少し話を聞かせてもらえませんか?」
普通の人なら、ここで怒鳴って追い出すだろう。
しかし、ここの主人は違った。
突然笑顔になり、さやの手を握った。
「おぉ、それは奇遇だ!」
「奇遇ですか?」
「実は私も、お払いを頼もうと思っていたところだよ」
主人の発言に、さやは呆気にとられてしまった。
「さぁさぁ、早く私の部屋にどうぞ」
「あっ、ありがとうございます……」
「おい、早く案内せぬか!」
「はっ、はい!」
それからゆりの案内で、主人の部屋に通された。
そして、さやは主人と向かい合って座る。
ゆりは廊下で待つため、そこに座ろうとした。
だが、主人に睨まれ、慌ててその場を離れた。
やがて、主人はひとつ咳払いをすると、膝を叩いた。
「では、率直に聞こう。ここには、なにがいる?」
「いえ、まだ調査中でございます」
「なんだ、まだわかっておらんのか」
「なぜ、ご主人様はなにかいると思ったので?」
「最近、女中や使用人たちが、行方をくらませているんだよ」
「ほぉ……」
「それに、この屋敷に化け猫が出る、という噂が流れておってな」
「化け猫、ですか……」
「あぁ、そうだ。早いところ払ってほしいんだが、出来るか?」
「お任せください。あと……」
話を聞いていたさやは、少し片手を上げる。
「さくらという女性を、ご存じですか?」
さくらの名前を出した途端、主人の顔から笑顔が消えた。
さやは、それを見逃さなかった。
「その娘も、行方がわからなくてな」
「そうですか」
「まぁ、この屋敷を勝手に出ていったのかもしれん」
「なるほど……」
さやは目線をそらし、あごに手を当てる。
少し考えてから、主人に微笑んだ。
「では、私は調査を続けますので、失礼します」
「あぁ、頼んだぞ」
主人に一礼し、さやは部屋を出ていく。
残された主人は、ずっと一点を見つめていた。
★★★
「はぁ……疲れた」
一旦部屋に戻ったさやは、畳の上に寝転んだ。
そして、大きくため息をついた。
「やはり、あの主人はなにか隠している……」
小さく呟いたさやは、ゆっくり体を起こした。
「青竜、九尾戻っているか?」
さやに呼ばれ、再び青竜と九尾が姿を現した。
「なにか、わかったことはあるかい?」
「それはね……」
「俺から話そう」
九尾の言葉を遮り、青竜が口を開いた。
「俺が調べたのは、この部屋の邪気についてだ」
「ほぉ、それでわかったのかい?」
「あぁ、邪気の正体は、この部屋の真下にある」
「真下?」
首を傾げるさやに、青竜は頷いた。
そして、下を指さす。
「なにかの動物の骨と、たくさんの人間の骨があった」
「うわぁ、そんな所に通されて、さやかわいそう!」
「九尾、絶対面白がっているだろ」
「あっ、わかっちゃった?」
九尾は、とても楽しそうだった。
その様子に、青竜はため息をつく。
「じゃぁ、次は俺ね!」
「九尾は、なにを調べてくれたんだい?」
「俺は、さくらって子のことを調べたよ」
「あぁ、あの娘か」
「そしたら、すごいことがわかっちゃったんだよねぇ」
お面をしていてもわかるぐらい、九尾は得意気だった。
「厠の近くで、年老いた女と、猫背の男が話しててさ」
「ゆりの話からだと、それは主人のおばと、庭師の三郎だな」
「たぶん、そうだろうね」
「それで、なにを話していたんだ?」
「おばの方が、『払い屋が来ているから、あんたは逃げなさい!』って言っていたよ」
「その三郎という男に、話を聞くしかないな」
頷いたさやは、行動をおこすため腰を上げる。
「きゃぁーっ!」
すると、どこからか悲鳴が聞こえてきた。
「今のは、ゆりという女の声だな」
「どうやら、勝手口の方からみたいだね」
「ゆりになにかあったのかもしれない。急ぐぞ!」
さやは急いで、声のした方に向かった。
青竜と九尾は、頷いて姿を消した。
「ゆり、大丈夫か!」
「さや様……」
さやが駆けつけると、ゆりが震えて座りこんでいた。
「今の悲鳴は、なんなのです!」
「払い屋、うちの女中になにをしている!」
「なにもしていませんよ。私も今来たところなのです」
主人の勘違いに、さやはため息をつく。
そして、ずっと震えているゆりの肩に、手を置いた。
「ゆり、どうしたんだい?」
「あっ、あれ……」
ゆりは、勝手口の近くにある、裏門を指さした。
全員が指さされた方を向くと、そこにいたのは……




