02 式神
『そんな怖い顔をするなよ、青竜』
今度は、少し高い男の声が響いた。
姿を現したのは、狐の面をつけた男だった。
それに、狐の耳と、ふわふわのしっぽが生えている。
男は宙に浮かんで、横になっていた。
すると、軽く面を持ち上げる。
その口元は、いたずらな笑みを浮かべていた。
「気軽に話しかけるな、九尾」
青竜は眉間にしわを寄せ、九尾を睨みつける。
九尾も、さやの式神である。
「つれないねぇ、一緒に見てまわればいいのに」
「うるさい、引っ付くな!」
まとわりついてくる九尾を、青竜は引きはがす。
そして、さやを指さした。
「俺は、こいつに用があるんだ」
「私に?」
首を傾げるさやに、青竜はため息をついた。
「お前、ここの主人と関りがないよな」
「そうだね。ここには初めて来たよ」
「なら、依頼もされるわけがない」
「……なにが言いたいんだい?」
「あの娘たちに言ったのは、嘘だな」
そこまで言われ、さやは大きく肩を落とした。
「あぁ、わかっちゃったか」
するとさやは、腕を組んで首を傾けた。
「そうなんだよなぁ、今その言い訳を考えていたところだよ」
「それなら、お前がすべて悪い」
「そこまで言うか!」
「ちゃんと叱られることだな」
「もう、青竜冷たくない?」
「九尾、お前は黙ってろ」
「嫌だね。ちょっとは、協力してあげてもいいんじゃない?」
「えーい、俺に触れるな!」
肩を撫でる九尾を、青竜は振り払った。
そして、外へと歩きだす。
「時間が惜しい、さっさと行くぞ」
「はいはーい、了解しましたよ」
そう言って、二人とも部屋から出ていった。
残されたさやは、唸り始めた。
先ほど言っていた、言い訳を考えているのだ。
「さて、どうしたものか……」
さやは一時考えたが、なにも案は浮かばなかった。
そして、軽く膝を叩く。
「とりあえず、私も近くを探ってみるか」
一旦部屋を出たさやは、辺りを見回した。
すると、一匹の黒猫が前を横切る。
そして、さやの方を向くと、「にゃー」と鳴いた。
「おや、可愛い猫じゃないか」
さやが触ろうとすると、小走りで逃げていった。
「なんだ、触らせてくれてもいいだろうに」
すねていたさやだが、猫が逃げた方を見つめる。
「しかし、あの猫はここで飼われているのか?」
さやが考えを巡らせていると、ゆりがやってきた。
「さや様、どうかされましたか?」
「いや、さっき黒猫がいたんだが」
「黒猫?」
「あぁ、ここで飼われているのか?」
「いえ、ご主人様は猫が嫌いなので、いるはずがないのですが……」
「そうか……」
屋敷の主人は、猫嫌い。
またひとつ、さやの中に疑問が生まれた。
ふと横を見ると、ゆりが首を傾げていた。
さやは手を振り、質問を続ける。
「あと、ここでおかしな事件などはなかったか?」
「事件、ですか?」
「先ほど、さくらという女中にも聞いたんだが、知らないと言われてな」
「えっ……」
さくらの名前を出した途端、ゆりの顔がこわばった。
「何故さや様が、姉の名前を知っているのですか?」
「なんだと?」
ゆりの話では、この屋敷でさくらは働いていたという。
だが、最近になって便りがこなくなったのだ。
「だから、私も女中になって、調べていたんです」
「それで、なにかわかったのかい?」
「いえ、なにも……あっ、でも!」
ゆりは、なにかを思いだしたように手を叩いた。
「おかしなことと言えば、噂なんですけど……」
「いいよ、言ってみて」
「近頃、数人の使用人が行方不明になっているらしくて」
「行方不明?」
「姉のこともあるので、心配で……」
「わかった、ありがとう」
微笑んださやは、俯くゆりの頭を撫でた。
「さくらのことも気になるが、行方不明ともなれば、騒ぎになってもいいはず」
さやは辺りを見回すが、屋敷は静かなものだった。
「ふむ……そちらも調べてみるか」
「あの、私にもなにか手伝わせてください!」
「手伝う?」
「姉になにがあったのか、私も知りたいんです!」
「なら、今ここにいる女中は、ゆりだけか?」
さやの問いに、ゆりは小さく頷いた。
「あとは、ご主人様のおば様と、庭師の三郎という男の人がいます」
「ふむ……」
ゆりの説明に、さやはあごに手を当て考える。
「ならば、主人が戻ってから、話を聞くとするか」
さやは背を向け、歩きだそうとした。
すると、ゆりがその手を掴む。
「あの、なんで姉を知っていたんですか?」
「実は、この屋敷の前で会ったんだよ」
「えっ」
「買い物帰りだったらしくて、袋を持っていたよ」
「なら、姉はまだこの屋敷に?」
「それは、まだわからないな」
「そうですか……」
「だが、私の理由を聞いたら、中に入れてくれてね」
そこまで言うと、さやはため息をついた。
「だけど、すぐにいなくなってしまった」
「いなくなる?」
「まぁ、それは主人との話でわかってくるだろうさ」
二人が話していると、玄関の方から声が聞こえてきた。




