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ガンソード・マギア ~序列最下位、銃剣魔法使いの英雄譚~  作者: 瀬里@ピッコマ連載中


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9.オスカーの婚約者

公爵邸にほど近い場所に巨大なモンスターが現れたことで、本邸は大騒ぎだった。

巨大モンスターは、普段は領の端の境界地域にしか現れない。

特に公爵邸や領都近郊には騎士団が手厚く配置され、人々の生活が脅かされないよう気が配られているからだ。

今回の事態で、ファルケハイン公爵家の面目は正直丸つぶれだった。

さらに、モンスターを討伐したのが、公爵家の騎士団ではなく、試しの儀の見学に来た隣領の公爵令嬢だったのだ。

ファルケハイン公爵家では、騎士団への非難をかわすために、この令嬢を称えることに作戦を変更したらしい。


「ねえねえ、アルトナー公爵家の姫君ってまだ十歳なんでしょう? すごいわよね」

「ああ、その若さでロッド・マギアを授かってるんだぜ。才能が違う」

「試しの儀の見学って言ってるけど、あれでしょ、オスカー様のご婚約者なんでしょう?」

「そんな才能あふれる姫君なんてオスカー様にぴったりだ。これでファルケハインも安泰だ」


アルトナーの赤毛の姫君の評価はうなぎのぼりだ。

ちなみに、公爵邸近郊を守ってたのは、いとこのワルサーとグンターの兄ギルターだと言う。

兄をかばうために兄弟そろって必死に噂を流している。姑息なことこの上ない。


「ふうん、あいつ、結構すげえんだな。都合がよかった」


少女は、ファルケハインと同じく建国の八家であるアルトナー家の錫杖魔法の使い手だったらしい。

建国時、八家には古代魔法武具アーティファクトが与えられたが、その数は、各家二十ずつ。必然、その二十を与えられるのは、各家選りすぐりの優秀な者たちである。

少女は、第七の錫杖<雷>の使い手らしい。

少女の実力がそれなりにあったので、周りもすんなり納得してくれて助かった。


『魔法の痕跡がもろバレじゃったからな。よい囮になったのう』


ディルクの使った魔法が、彼女の得意魔法と同じ雷だったというのも幸いだった。


「ああ、きっと覚えてねえだろうしな」


姿を見せず、声だけで話しかけてくるアデリアに、ディルクも答える。

少女がすぐに気を失ってしまってしっかり口止めできていないのが気になったが、何せ、十歳の少女のことだし、あまり心配するほどでもないだろう。

それに、回帰前の人生で、アルトナーの娘がオスカーの婚約者になって、ファルケハインに嫁いでくるなんてこともなかった。

ここで口をつぐんでおけば、この先彼女との接点は皆無だ。


「お兄ちゃん、早く。次はこっちの手伝い。テーブルの位置をずらすんだって。重くて大変なの」

「ああ、わかった」


ディルクは、ラウラと一緒に、式典会場の整備に駆り出されている。二人の使用人扱いは相変わらずだ。

二日後に行われる試しの儀の準備で、ファルケハイン家は大わらわなのだ。

試しの儀に参加するのは、ファルケハインの本家、分家の十歳以上の若者、そして現役の銃剣魔法使いたちだ。学院に通っている学生もこのときばかりは呼び戻される。

さらに、その前後に行われる式典や宴会にはその家族や、付き合いのある近隣の有力貴族らも招待される。

五年に一度しか行われないこのイベントは、ファルケハイン一族と近隣貴族との顔合わせでもあり、有用な社交の場だった。

試しの儀にはもちろんディルクも参加しなければならないのだが、妾の子であるディルクが宴会に呼ばれることはなかった。


ディルクは、回帰前にも試しの儀に参加したが、その時は魔力がなく、ガンソード・マギアを契約することができなかった。

だが、今回は違う──。




ディルクが黙々と椅子を運ぶ作業を手伝っている時だった。

式典会場の入口が突如騒がしくなり、パタパタと小さな足音が駆け込む音がする。

入口近くでの場を取りまとめていた使用人頭の戸惑いの声がする。


「お嬢様、こちらへは、どういったご用事で」

「オスカー様! ここにいたのね」


入口の方から聞きたくもない名前が聞こえてくる。

集中していたせいか、ディルクはオスカーがこの会場にいることにも気づかなかったらしい。

ディルクは、とりあえず無視して作業を続ける。


「あの時は助けてもらったのに名乗れなくてごめんなさい」


ずいぶん間近までやってきた少女は、ディルクのそばで会話を続ける。

さすがに立ち去ろうと顔を上げたディルクは、その少女と真正面から顔を見合わせた。

鮮やかな緋色の髪で、ディルクはその少女が先日のアルトナーの少女だと知る。

少女は、ディルクに話しかけていたのだ。


「私は、フィーネ・アルトナー。あなたの婚約者よ。オスカー様」


そして、あろうことか、ディルクをオスカーと勘違いしている。


(むかつく)


「俺はオスカーじゃない」

「え? でも、ファルケハインの子どもたちの中ではオスカー様が一番の使い手だって聞いたわ」

「俺はオスカーじゃないし、使い手でもない。見間違いじゃないのか? 俺はお前のことなんか知らない。熱でもあるんだろ。顔が赤いし」


頬を赤く染めて、上目遣いにディルクを見つめるその様子は、熱でもあるみたいだ。

ディルクは、子どもの見間違いで押し切ることにする。


「そうだね、きっと見間違いだよ。そいつはファルケハインのまがい物だ。フィーネ嬢、君が口をきく価値もない」

「あなたは?」

「オスカー・ファルケハイン。君の婚約者になる男だよ。フィーネ嬢」


入口から響いてきたその声は聞き間違えようもない。

緩い金の巻き毛に、ほんの少し垂れた碧眼の甘いマスク。十五歳になったオスカーは、整った容姿に磨きがかかっていた。

ディルクを殺したあの時の姿により近くなっている。その姿に加速しそうになる憎しみを押し殺し、ディルクは無言を貫く。


「え、あなたがオスカー様?」

「アルトナーの姫君が、俺を探していると知らせを受けたのでね、君を探しに来たんだ。さあ、行こうか。正式に挨拶をしたいな」


オスカーがエスコートに差し出した手を、けれど、フィーネはとらない。


「じゃあ、私は間違えたのね。ごめんなさい。私が探していたのはオスカー様じゃなかったわ。……ねえ、あなたの名前は?」

「フィーネ嬢、彼は君が口をきく価値もない男だ」


オスカーは、フィーネの言葉を遮ると、憎しみに満ちたまなざしでディルクを見下ろした。


「それを俺が証明して見せよう」




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