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ガンソード・マギア ~序列最下位、銃剣魔法使いの英雄譚~  作者: 瀬里@ピッコマ連載中


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8.フィーネ、王子様に出会う

鮮やかな緋色の髪の少女は、いつもなら好奇心できらきらと輝く水色の瞳を曇らせて、馬車の中から空を見上げていた。

ガタガタと揺れる馬車にのったまま、もう三日だ。

初めての遠出に心躍らせて旅に出たのはいいが、いい加減飽きてきた。馬車の中で動かせない体は、むずむずして仕方がない。

でも、彼女の瞳を曇らせている最大の理由はそこではない。


(だまされたっ。お母様の嘘つきっ。ファルケハイン家の試しの儀を見せてもらうだけだって言ってたのに)


考えるだけで目の端に涙が浮かんでくる。


(婚約って何? 顔合わせって何? ファルケハインの人たちなんて、今まで会ったこともないのにっ!)




少女──フィーネ・アルトナーは、建国の八家、錫杖魔法ロッド・マギアのアルトナー公爵家の末娘だ。

今年十歳になる彼女は、天真爛漫を絵にかいたような性格に、愛らしい容姿。年の離れた末娘ということもあり、家族の誰からもかわいがられて育った。

アルトナー公爵領とファルケハイン公爵領とは隣り合っていることもあり、それなりに交流がある。過去に、両家で婚姻が結ばれたことがあるのも知っている。

だけど、自分の婚約や結婚となると話は別だ。

フィーネの両親は、学院で出会っての恋愛結婚だったし、兄も姉も恋愛結婚だ。

端的に言うと、フィーネは恋愛結婚に憧れていたのだ。

それも、十二歳から通うことになる、王都の王立学院での学園ラブロマンスに。


(王子様に憧れたっていいじゃないっ。なんで私だけお見合いなの⁉)


頬を膨らませたまま窓際でお行儀悪く頬杖をつく。

そんなフィーネを見かねて、馬車の向かいから声をかけてきたのは、侍女のマリヤだ。


「お嬢様、そろそろつきますよ。ファルケハイン公爵邸が見えてきましたから」

「うー、行きたくないー」

「まあまあ、まずはお会いしてから考えましょう。あまりに合わない方だったらお断りしてよいと奥様もおっしゃっていたじゃないですか。それに、お相手は、幼くしてガンソード・マギアを賜った才能あふれる方で、容姿も王子様のような素敵な方だとお噂じゃないですか」

「そうだけど」


そんな他愛もない会話も交わしていると、突如、ゴオオッと大きな音がして地面が大きく揺れた。


(なに⁉)


外から、馬のいななきや武具が打ち合わされる音がする。


「襲撃だ! モンスターだ!」

「馬車を守れっ」


同時に、フィーネの乗る馬車にドンっと大きな衝撃が走り、馬車が浮き上がった。


「お嬢様っ」


マリヤがフィーネを守るように抱きかかえるのと同時に、馬車は叩きつけられ横転する。

浮遊感と落下を何度か繰り返して、馬車はやっと動きを止めた。


「痛っ、マリヤ、マリヤッ!」


額から血を流したマリヤは動かない。けれど、胸が上下しているのを見て、フィーネは、ほっと息を吐いた。

助けを呼ぼうとして、割れた窓から身を乗り出したフィーネは、外の様子に息を止める。

一抱えもある丸太ほどの太さの白い蛇が、フィーネの馬車を護衛している兵たちと戦っているのだ。


シャーッ。


低い空気を震わせるような威嚇の声を上げながら、蛇はいとも簡単にフィーネの護衛を突き飛ばして、こちらに向かってくる。


(だめだっ、こんな状態で襲われたら、マリヤがっ)


白蛇の尾に薙ぎ払われた護衛騎士たちは、なかなか起き上がれない。

フィーネは、目をつぶって深呼吸した。

こんな時こそ落ち着かなければならない。

訓練を思い出さなければ。


「≪身体強化ブースト≫」


自分の体に呪文をかけると、馬車の窓から軽やかによじ登って、横転した馬車の上に立つ。

掲げた右手の先に集中する。


フィーネは、守られてるだけのただの貴族のお嬢様じゃない。

建国の八家、ロッド・マギアを冠するアルトナーの娘だ。


右手に顕現するのは、フィーネの身の丈よりも長い、中心に大きな緋色の宝玉を埋め込んだ黄銅色の錫杖だ。


(ここから引き離さなくちゃ──私ならできる)


何故なら、フィーネは、この中の誰よりも強い。

アルトナーのロッド・マギア、第七の錫杖<雷>の使い手なのだから。




「≪雷の鉄槌サンダーボルト≫」


雷が、蛇の鱗に落ち、表面を焼く。

フィーネは、白蛇のヘイトをとると、森の中へ駆け出した。


「≪身体強化ブースト≫」


自らに身体強化をかけ、かなりのスピードで駆け抜ける。

フィーネの雷は、ちゃんと蛇に当たっているのに、蛇はあまりダメージを感じていないらしい。


(この白蛇、なんて魔力耐性が高いの⁉)


内心焦りつつあったその時、フィーネは、向かいから走ってくるその少年に出会った。




その少年に、フィーネは、当初大して強さを感じなかった。

逃げろと言ったのに、逆に白蛇のヘイトをさらって囮になって引き付けていく少年の無謀さに、怒りすら感じた。

彼は、銃や剣で蛇に向かって行く。動きこそいいが、魔法のかけらも感じられない彼は、フィーネ以上に全くダメージを与えられていない。

一瞬、魔力が爆発的に膨れ上がったようにも感じられたが、すぐに消えてしまってよくわからなくなる。


(もしかしたら、騎士団と連携した囮なのかも)


あまりにも自信に満ちたその様子に、フィーネは、いったん様子を見ることにしようと立ち止まる。

が、すぐにそんなことも言っていられなくなった。


(あんなところに女の子がいる!)


フィーネは考えるより先に、白蛇に向かってロッド・マギアを振り上げ、遠距離の雷撃を放った。


「≪雷の鉄槌サンダーボルト≫」


蛇はこちらを向くと、即座に怒りに目を光らせて向かってくる。

フィーネはロッド・マギア<雷>を振り上げ、頭にイメージした魔法陣を中空に描き出す。

幾重にも描かれた魔法陣に重なっていく白光が、最大限に達する。


「≪雷撃の連鎖サンダーボルト・チェイン≫」


フィーネは、自身の持つ、最高火力の技を放つ。


バリバリバリッ! ドオオオン!


雷撃の連鎖は繰り返され続ける。

音が止んだ後も、辺りは白煙と土埃に包まれて周りが見えないくらいだった。


「これでどう?」


けれど、シュルルルッという音と共に、白煙と埃の向こうから、白蛇はその赤い瞳にさらに怒りをにじませて近づいてきた。

フィーネの魔法では、魔法耐性の高いこのモンスターを倒すことはできなかったのだ。


「≪身体……≫」


逃げなければならないのに、身体強化の魔法を使う魔力すら残っていない。

フィーネは判断を誤ったのだ。

足に力が入らなくて、ぺたりと地面にしりもちをつくように座り込んでしまった。


(怖い。私は、どうなっちゃうの)


蛇の両目が今度は、フィーネの両目を捕らえる。


そして。


恐怖におびえ動けなくなったフィーネの前に──その人は現れた。


「よくやった。あとは任せろ」


声変わりしきれていない、少年の声だった。

不敵で、不遜で、大胆で。自身に満ち溢れた、そんな声色の声だった。

座りこんだフィーネの前に、その少年は立つ。

その背中は、今までフィーネが見た誰よりも大きく感じた。


「≪アクア≫」


右手に水。


「≪ウィンド≫」


左手に風。


初歩の初歩、簡単な元素魔法だった。

フィーネは、魅入られたように、少年の手の内の魔法から目が離せない。

なぜならば。

その魔力量は、今までにフィーネが目にしたこともないほどの圧倒的な大きさだったからだ。

水からできた氷の粒や水滴が、風で激しく衝突し、分裂していく。

圧倒的な魔力の元で。


「≪サンダー≫」


そして、少年は、掲げた剣に、その魔力をまとわせた。


「お前はもう終わりだ」


少年は、雷をまとわせた剣を手に、白蛇の頭上高く、大きく跳躍する。

そのまま雷をまとう剣を蛇の目に突き立てた。


蛇は、のたうち、暴れ回り、そして徐々に力を失っていく。


ドウッという轟音と共に、白蛇は大地に倒れ伏す。

土煙の中、少年は、座り込んだフィーネの元へと歩んでくる。

安心したせいか、フィーネの意識が徐々に遠のいていく。


(見つけた。私の王子様だ)


薄れゆく意識の片隅で、彼は、ゆっくりとほほ笑んだ気がした。

フィーネは、赤銅色の髪の少年に、恋をしてしまったのだった。



◇◇◇◇◇◇◇



フィーネが目を覚ますと、そこは、見慣れたベッドではなかった。


「お嬢様! よかった。ご無事で!」

「マリヤ……」


見知った侍女の姿があることにほっとする。


「大丈夫なの?」

「はい、お嬢様が守って下さいましたから」


フィーネはほっとすると同時に、がばりと布団を跳ね上げた。


「マリヤ、あのね。私、王子様に会ったの。きっと、あの人が、私の婚約者のオスカー様だわ」


曇っていたフィーネの水色の瞳は、いつものように、きらきらとした輝きを取り戻していた。


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