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ガンソード・マギア ~序列最下位、銃剣魔法使いの英雄譚~  作者: 瀬里@ピッコマ連載中


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6.取り戻した魔力

クリームヒルトの宝物庫襲撃事件は、偶然本邸に滞在中だった義弟カール・ファルケハインが未然に防いだため、何も盗まれず未遂に終わった。付近のごろつきの犯行ということで数名が逮捕され幕を閉じた。

被害はむしろカールにより半壊した宝物庫自体の方で、そのせいでクリームヒルトとカールの仲は悪化したというおまけつきだ。

ディルクの母は、ディルクが単独で本邸に侵入し、魔力を取り戻したことをひどく喜び、怒った。

二度と危険なことはしないでと言われたが、約束はできない。

その代わり「母さんを心配させないくらい強くなるから」といったら泣かれてしまった。


(やっと、俺は魔力を、この手に取り戻したんだ)


──オスカーに復讐するための力を。




魔力を取り戻してからは、母について魔力を使う訓練を始めた。

普通のファルケハインの子どもなら、もっと幼い頃から始めて試しの儀に備えるものだが、ディルクは当然のように受けていない。


試しの儀とは、十歳以上のファルケハインの本家、傍系の男女が一堂に会し、二十位までの序列をつける儀式だ。五年に一度行われる。

序列の基準は魔力のみ。

試しの石で魔力を測り、その順に序列がつけられるのだ。

そして、その後、建国時に王家より賜った古代魔法武具アーティファクト、ガンソード・マギア二十振りの契約式が行われる。

序列二十位に入った者だけが、ガンソード・マギアの契約者となる──すなわち、銃剣魔法使いとなれるのだ。


オスカーに対抗しうる力を手に入れるためには、序列二十位に入る必要がある。そのためにディルクは、魔力のコントロールに日々励んでいる。


ひとつ、ディルクが魔力を取り戻したことでうれしい誤算があった。

魔力はある程度移管ができるのだ。

ディルクが母へ魔力を移管をすることで、オスカーに行っていた魔力拡張による負担がだいぶ減ったのだ。

オスカーに魔力拡張の施術を行っていた母の衰弱が、目に見えて落ち着いた。


(これで、母さんは、死なずに済む)


これがなかったら新たな方策を考えなければならなかったので、非常に助かった。




だが、問題は全て解決したわけではない。


「おい、立てよ」

「ぐうっぅ」


転がった体の腹を蹴られて、ディルクはうめき声をあげる。

みぞおちはダメージが大きいので、うまく避けた。


ふらふらと立ち上がると、ディルクを取り囲んでいた三人は、武器を構えた。


練武場でディルクを囲むのは、オスカーとその一つ下の双子のいとこ、ワルサーとグンターだ。

三人は、普段は王都の王立学院に通っているが夏休みの間だけこの邸に滞在する。その期間、訓練と称して毎日のようにディルクに暴行を加えたのだ。

先日の「稽古」でカールの邪魔によりうまくけがをすることができなかったため、この夏、ディルクは彼らの遊び相手に任命されてしまった。

これは前世と変わらない。


オスカーは、訓練用の水の弾丸をガンソード・マギア<影>に装てんし、ワルサーとグンターは訓練用の銃に塗料弾を入れて構える。いとこの二人はまだ試しの儀を受けていないので、ガンソード・マギアを貸与されていないのだ。

ディルクは走り出し、練武場にある障害物の裏に逃げ込む。


「卑怯者、出てこい!」


(自分たちだけ銃で追い詰めているくせに、どっちが卑怯者だ)


ディルクの手にあるのは古びた木剣のみだ。


(めんっどくせえ)


「うわあああ」


ディルクはワルサーとグンターに向かって大声を上げて突進する。


(適当に当たってやんないといけないし、地味に痛いし)


二人は喜んでディルクに塗料弾を撃ち込んでくる。

いつもなら、魔力で弾が当たる部分を強化してダメージを減らす。

しかし、今日はそれができない。

めちゃくちゃなふりをして適当に剣ではじくのも、今日はやめておく。


振りかぶった剣を振り下ろすと、グンターは銃身でディルクの剣を受けた。

その隙にワルサーがディルクの腹を銃床で殴りつける。


「ぐっ」


とっさに強化の魔法をかけようとして止め、当たる瞬間に自分から後ろにとんで衝撃を殺す。


「こいつ、すっげー吹っ飛んだぜ!」

「ワルサー、お前、パワー上がったんじゃないか!」


(こいつらがバカで助かった)


吹っ飛んだディルクは、背後の壁に体を打ち付けた。


「っつう」


壁に背を預けたまま気を失ってふりをして休んでいるとそばに影が落ちる。


「おい、これで終わりじゃないだろ?」


<影>の銃口でうつむいたディルクの顎を持ち上げるのは、オスカーだ。

弱者を見下し、いたぶることを心から楽しんでいるその醜悪な笑いは吐き気がするほどだ。


(終わりなわけねえだろ。お前をぶっ殺すまでは!)


オスカーは、この夏、四回もディルクの母から魔力拡張の施術を受けて、邸に戻ってきた時よりも大幅に魔力が上がっている。

魔力感知力の上がった今のディルクならばはっきりとわかる。


(母さんの命を削ってるってのになんの自覚もなく、のうのうとしやがって!)


ディルクは木剣を薙ぎ払い<影>を弾き飛ばした。


「きっさまあ! よくも俺の<影>をっ」


(ヤバいっ)


怒りに任せてオスカーへの対応を間違えてしまった。

オスカーは怒りで顔を真っ赤にすると、壁を背にして座り込むディルクの腹をけり上げる。

腕だけでガードするがはじかれて、今度は膝げりだ。


横目で見ると、ディルクが気にしていた「人物」はいなくなっていた。

ディルクはほっとする。


(≪身体強化ブースト≫)


そばには、ワルサーとグンターも来て、ディルクへの暴行に加わった。

ちょうどよかった。

彼らの蹴りに合わせて≪身体強化≫のポイントをとっさにずらす。

魔法をかけて止めて、範囲を広げて狭めてを繰り返すと、効率のよい魔力消費の練習にもなる。


そして、いつしか地面に転がったまま動かなくなってしまったディルクを前に、三人は気が済んだのか、言い放つ。


「明日もこの時間だ。お前がこなかったら妹を代わりにするからな」


そう言うと、練武場から去っていった。


「つっ、あいつら遠慮なく殴る蹴るしやがって」

『そなたが頑丈なのがばれてしまったからではないか』

「あいつら、ぜってえぶっ殺してやる」


一人になったディルクに話しかけてきたのは、邪妖精アデリアだった。

先日、宝物庫でわざとリュートを落としディルクをピンチに陥れたかのように見えたアデリアだったがあの時は事情があったということがわかり和解した。

呪いの媒体が入っていたガラスケースには特殊な魔法がかえられていてディルクが触れると痕跡が残ってしまうところだったのだ。


『あの男が早々に去ってくれて助かったな』

「ああ。お前が気づいてくれて助かった」


以来、なにくれとなくディルクを助けては、自分が邪妖精ではないと証明してくるのだ。


『ふふ、我とそなたは契約を交わした仲だ。そなたが死んでしまったら契約が無効になってしまうではないか』

「契約」

『ふふ、覚えておらぬのか。まあ、おいそれと口に出してはいけぬものゆえ、思い出すまで待つとしよう。しかし、我は朱の女神、そなたらの与える復讐と享楽の感情はまたとない供物よな。よって、死なぬ範囲で楽しませてもらうのは、仕方ないと心得よ』

「おいっ!」


そう言い残して消えてしまった。

これだから完全には信じきれないのだが、ディルクが死んでしまうと困ると言うのは本当だと信じるしかない。


ディルクは、魔力を取り戻し、強くなりつつある。

けれど、母と妹の安全確保にはほど遠い。

自分一人が強くなるだけでは、母と妹は守れないのだ。

母の言葉を思い出し、ディルクは目をつぶる。




『ディルク、逃げましょう。ラウラと私と三人で。あなたの魔力も取り戻したし、他の領へ逃げ込めばきっとどうにかなるわ』

『母さん、それじゃあ、解決にならない。俺とラウラはあいつの血を引いてる。簡単に政略の駒にできるし、そうする正当な理由を誰も否定できない。それにオスカーとあいつの母親は魔力拡張に味を占めてるから、魔力のある母さんとラウラを簡単に手放さないよ。俺たちは、どうあがいても逃げ続けることはできないんだ』

『そんな、それじゃ、どうすれば』


ディルクは母の瞳をまっすぐに見据えた。


『俺が、戦う。誰にも負けない力を身につけて、──俺が、当主になる』


その言葉は、決意をもって、するりとディルクの口から転がり出てきた。


『ディルク……』


うろたえていた母の瞳も、次第に落ち着きを取り戻した。


『わかったわ。本気なのね。ならば、私もあなたを応援するわ』


母の決意も心強かった。


けれど、ディルクは、当主になる方法については、母にあえて語らなかった。今後も語るつもりはない。

ディルクが考えている方法を話せば反対されることがわかっていたからだ。

ディルクが当主になる一番早い方法は、ファルケハイン家の継承順位の高い人間を「全て消す」ことだ。


当主テオドール・ファルケハインと、その弟カール・ファルケハイン。

彼らは、ディルクが十四歳の時に発生するモンスターウェイブで死亡する。

──ディルクは、彼らを見殺しにする。


長男オスカー・ファルケハイン。

モンスターウェイブの中、彼は生き残る。

──ディルクは、モンスターウェイブの中で、彼を暗殺する。


(それを可能とするだけの力を、身につけなければならない)




ディルクは当主になるために戦う決意をした。

けれど、今はまだ準備をしている段階だ。

それまでは磨いた牙と爪を隠し、無害な弱者を装わなければならない。


ディルクは、アデリアが忠告してくれたあの男──カールが去っていった練武場を見下ろす崖の上に目を向けた。



◇◇◇◇◇◇◇



「うわあ、気づかれちゃったなあ。なかなかぼろをだしてくれないなあ。残念」


カール・ファルケハインは遠目に眺めていた練武場にあきらめて背を向ける。


「っていうか、あんな小さな襲撃者、だれだか気づかないわけないだろう。……見ない振りをしたのでなければね。まあ、しばらく放っておくか。その方が面白くなりそうだし」


カールの声は、もちろんディルクには届くことはなかった。



◇◇◇◇◇◇◇



そして二年がたった。

五年に一度の、ファルケハイン家における試しの儀が、行われる──。


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