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せっかく授かったラッキースケベが思ってたのと違う〜授かった瞬間に裏切られた〜  作者: 那須 儒一
七章 罪と罰編

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寄す処②

リョウカたちをデュナンの結婚式に見送って、しばらくが経った。


王都にてアグリアスは一年ぶりに自身の部屋を掃除していた。


カサンドラが好きな金木犀の花を部屋に飾る。


「町の賑わいは変わらないのに、仲間がいないとこうも静かなのだな……」

一人になると自然と独り言がこぼれる。


アグリアスとカサンドラは孤児院で育った。

アグリアスは剣士としての腕を買われ、

カサンドラは回復魔法の才能を見出され、

ホーン家の養女に迎え入れられた。


二人は小さな頃から常に一緒だった。

カサンドラはアグリアスを慕い。

アグリアスもカサンドラを本当の妹のように可愛がった。


アグリアスは未だに、

カサンドラが、リョウカを殺そうとしたことを消化しきれずにいた。


自分のためだということは分かっていたが、

なによりも相談されなかったこと、頼られなかったことにショックを受けていた。


「家族というのは一緒にいるだけでは駄目なのだな……」


一人になると、ついあれこれ考えてしまう。


引き続き掃除に専念していると、玄関から木戸を叩く音が聞こえる。


すぐに玄関を開けると――リョウカが立っていた。

手には退魔の剣とカサンドラが身に着けていた鎧。


それで、アグリアスは全てを察した。


リョウカが何かを話しているが、アグリアスの耳には一切届いていなかった。

目の前が真っ白になり、それ以降、周囲の音すら聞こえなくなった。


気付けばベッドの上に寝かされていた。

アグリアスの手にリョウカの手の温もりを感じる。


横を向くとリョウカがベッドの横でアグリアスの手を握りうたた寝をしていた。


「あ……アグリアス、起きたのか……」


今度はリョウカの声が聞こえる。


彼は不安そうな、今にも壊れそうな表情を浮かべる。


「ごめん……カサンドラを守れなかった」


彼はそのまま泣き崩れた。


アグリアスは、何故か涙が出なかった。

嫌がるカサンドラを無理やり送り出したことだけが悔やまれた。


騎士団長になってからの毎日は忙しかった。

国境の警備から反乱分子への警戒。

魔物への対応や民の苦情相談。

部下の指導に騎士団のお金の管理。

確認すべきことが多かった。


だが、それは言い訳だと、アグリアス自身が分かっていた。


もう少し、言葉を重ねてたら、

もう少し、一緒にいてやれたら、

カサンドラは血冠の徒に身を投じるなんて選択はしなかったかもしれない。


セピアには仲間が戦死したとき、あんなに偉そうなことを言ったのに、自分がこの様では…とアグリアスの口から何故か笑みがこぼれる。


泣きじゃくるリョウカの頭をそっと撫でる。


リョウカはいつも仲間のために駆け回った。

繋ぎ止めようと必死だった。

だからこそ、彼の元に人は集まったし、仲間も応えてきた。


カサンドラは最後は仲間として死を迎えられたのだろうか。


「リョウカ……カサンドラの最後の言葉を聞かせてくれ……」


彼は呼吸を整え、ありのままを話してくれた。


「あなたのこと……

もしかしたら、少しだけ、

好きだったのかもしれません」


「お姉様。

これくらいは、許してくれますよね……」


カサンドラの気持ちと言葉。

その二つをリョウカは受け取っていたのだ。



「ふふ……そうか、最後にそんなことを、

まったく……不器用な妹だよ」


アグリアスの頬が自然と緩む。


アグリアスはリョウカの顎をそっと持ち、

――唇を重ねた。


彼は状況が飲み込めないといった様子でキョトンとしている。


「これでおあいこだ」


「だから、カサンドラ……お前もこの不甲斐ない姉を許してくれ……」


アグリアスの涙と共に、時間は過ぎていく。

七章をここまでお読みいただきありがとうございました。

暗い話が続きましたが、これで七章は一区切りとなります。

この章のテーマは「罪と罰」です。

誰かを救えなかったこと。

守れなかったこと。

選ばなかったこと、選んでしまったこと。

それぞれの登場人物が背負った“罪”は、

必ずしも正義や悪で割り切れるものではありません。

それでも、選択の結果として何かを失い、

その重さを引き受けて生きていく――

そんな姿を描きたい章でした。

戦争の最中では、立ち止まって悼むことすら許されません。

だからこそ、最後に「寄す処」として、

静かにカサンドラを悼む時間を書きました。

彼女の死が英雄譚として消費されるのではなく、

誰かの心に確かに残り、

その後も生き続ける傷として存在してほしかったのです。

重い展開が続きましたが、

ここまで付き合ってくださった読者の皆さまには、

心から感謝しています。

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