骸?
――激戦が一段落した頃、
仲間全員が合流した。
ジェーンは赤い星を破壊した際、
衝撃波をもろに食らいしばらく気絶していたそうだ。
一呼吸おいて、躊躇いながらも、
――皆にカサンドラの戦死を伝える。
嘘偽りなく、ありのままの全てを伝えた。
彼女の生き様を嘘で穢したくなかったから。
「姉さん……私のために……」
セピアが膝から崩れ落ちる。
俺は、言葉を選びながら続けた。
「カサンドラはもう長くはなかった。
だから、セピア……彼女は未来に懸けたんだ……」
今ならカサンドラの気持ちが……わかる気がする。
「みんな、まだ戦争は続いてるのよ!
前線に行かないと!」
ミザリアの叱咤に仲間全員が顔を上げる。
「ハルカはここで町の人たちの救助を頼む!」
「はい!」
彼女は快諾して、引き続き救助に専念する。
――カサンドラの死を悼む間もなく、
俺たちはクリステラの前線へと向かう。
アイツの予想通りの展開になったな。
これを使うのは癪だけど。
――ポケットに入れていた犬笛を吹く。
無音が戦場を駆ける。
「ミザリアさん。損な役回りをさせてしまったね」
背後でデュナンがミザリアに謝っている。
「ふふ。いいのよ。こういう役回りには慣れてるから……」
ミザリアは無理をして笑っているようだった。
熱帯雨林に向かうと、金属同士がぶつかる音や爆音が耳に届く。
――なんだよこれ。
熱帯雨林に遮られ、視界は悪い。
そんな中、クリステラ兵たちが赤黒い骸骨と戦っている。
「なるほど…死霊術ね、中々趣味が悪い。
……たぶん、あれを倒しても意味がないわ。
術者を探しましょう」
ミザリアからの指示が飛ぶ。
「なんだよこれ」
クリステラ兵が骸骨に殺されると、血肉はどこかへ吸い込まれ、骸骨の兵士に成り代わる。
「これは、死体が増えれば増えるほど、
ねずみ算式に敵が増えていくぞ……!」
「木々が邪魔で視界が悪いですね……」
ネコショウが溜め息を漏らす。
確かにこれじゃあ術者を探せないな。
「ステラ……ライアン公へ伝令を頼む。進軍を止めさせるんだ!」
「なにか策があるのね!」
「ああ! 許可が下りたら合図をくれ!」
――数分後、戦場が硬直したかと思うと、
正面上空に風の渦が爆ぜた。
「リョウカくん。ステラからの合図だよ!」
「おう! みんな、全力で目の前の木々をなぎ倒し更地に変えてやれ」
俺の合図で、仲間たちは一斉に範囲技を打ち始める。
――デュナンは風魔法で木々を蹴散らし。
――ミザリアは前方に熱魔法を放ち広範囲を焼き尽くす。
――ジェーンは正拳突きだけで、広範囲の大地を抉っていった。
この骸骨たち、大した数だが、機動力は俺よりも無い。それに遠距離攻撃も無いから、見かけ倒しだ。
次第に骸骨たちの数も減っていき後退し始める。
「たぶん、術者も下がりながら戦ってるわ」
「ミザリア、ここで畳み掛けよう」
俺たちは進軍のペースを速める。
熱帯雨林の端まで来たところで、貴族服のようなマッシュヘアーの金髪の男性がこちらへ歩み寄る。
ケツアゴが特徴的で、涙を流しながら両手を仰々しく広げる。
「貴君ら。よくも我が民を……」
彼が手をかざすと巨大な骸骨が地面から這い出てくる。
ネコショウの化け猫モードと同じくらいの大きさか?
「私は血冠の徒、第八位、赤兵のデルボロ。我が民の無念、ここで晴らさん」
「デルボロ……民、まさか、フェルナン教国との小競り合いに巻き込まれ、滅ぼされた小国の王子?」
デュナンは彼について、何かを知っているようだ。
「知ったところで拳が鈍るだけでしょ!」
ジェーンは巨大な骸骨に飛び込み、拳を見舞う。
文字通り一撃で粉砕した。
「相変わらず無茶苦茶だな」
「ノーン! クソッ、ならば最終奥義!
地面から赤い骨が突き出てデルボロの体に吸い付いていく」
骨は綿密に重なり合い、赤い甲冑と剣を形成して、デルボロは装着する。
「これこそが我が最終奥義、赤兵!
その真価を味わうがいい!」
「えい!」
ネコショウが退魔の剣を尻尾で振るい、
デルボロを斬り裂く。
骨の鎧と剣は崩れ去りデルボロは軽い切傷を負う。
デュナンから聞いてたけど、
退魔の剣ってめちゃくちゃぶっ壊れ武器だ。
マナとの結合自体を断ち切るため、マナ由来の攻撃や防御全般を無効化する。反魔の剣。
俺の加護も断ち切れるぐらいだ。
防御貫通みたいなもんだ。
「ふふっ、なかなかやりますね! 今日のところはこれくらいで……」
デルボロが傷口の血を拭い、地面に垂らすと無数の骸骨が這い出てくる。
「まったく、きりがないね……」
デュナンが溜め息を漏らす。
「ははは、では諸君、また会おう!」
デルボロが軽快に手を振り立ち去ろうとした時、
「グルルルル……」
彼の背後から無数の黒狼が喰らいつく。
「ギャァァァ!」
彼は断末魔と共に狼の群れに食いつくされる。
骸骨の崩壊がデルボロの死を告げていた。
「ほっほっほっ、私の助けなどなくても余裕でしたね」
赤い痩身の人狼……捕食者か。
「お前っ!」
ジェーンは捕食者を見た瞬間、拳を握り歩み出る。
「ジェーン待てっ! 今回は味方だ!」
俺が羽交い締めにするが、ジェーンは止まらない。
「お祖父ちゃんの仇!」
「いやはや、これだから、理性の無い者は……いただけませんな。これではどちらが獣か分からない」
捕食者は溜め息をつきながら、ジェーンを挑発する。
「きさまっ!」
「ジェーン落ち着けって!」
俺が、十人いてもジェーンを抑えられないんじゃないか?
こうなったら最終手段だ!
俺は彼女の前に回り込み両手を握る。
「ほら? キミの苦手なリョウカだよ」
「う……うっぷ……」
彼女は俺の存在をようやく認識して、吐き気を催す。
「ははは。相変わらず面白いパーティーですね。それではお暇させていただきます」
捕食者は丁寧にお辞儀する。
「……ま、待て……」
ジェーンは吐き気をこらえながら捕食者に手を伸ばす。
「今回の件、これでも感謝はしているんですよ。
リョウカ殿。我らの助けが必要な時はまたお呼びください。我々は契約を破るようなことはしませんので……」
そう言って捕食者は密林に消えていった。
意外と律儀な奴なのか?
――ともかく、これで戦いは終わった。
友の結婚式が最悪の形でぶち壊された。




