選択?
ネコショウは化け猫モードになり、
地上へ落下するミザリアとハルカを、尻尾で巻き取って助けた。
ネコショウは必死だった。
考える余裕なんて、どこにもない。
「ネコショウちゃん。ありがとう」
ミザリアが高所の回廊を見上げると、木々の上から雨のように人が振ってきた。
デュナンの魔法で落下速度は低下しているものの、各所で悲鳴が上がる。
「皆さんを助けましょう!」
ハルカは率先して動き、落下してきた人々の手当てを始める。
「リョウカさんたちは無事でしょうか……」
「ネコショウちゃん! 今は救助を優先しましょう!」
ミザリアの掛け声で、ネコショウも美少女モードで救助に参加する。
ネコショウの目に映る光景は、あまりにも混乱していた。
「兵たちよ!
白狼に跨り、湿原へ迎え撃て!
クリステラ前方に敵の大群が迫ってる!」
ステラの父、ライアン公が白狼に跨りクリステラの前方へ兵を連れ駆け出す。
「正面からも敵が攻めてきてるみたいですね。
ミザリアさん、私たちも向かいますか?」
ネコショウはミザリアに指示を仰ぐ。
「いえ、今はみんなとの合流と救助を優先しましょう。敵は内部にも紛れ込んでいるはず。
まずは中の敵を倒して守りを固めましょう」
ミザリアの指示に従い、ネコショウは救助を続ける。
――ズンッ!
息つく暇もなく、空から赤い鬼が振ってきた。
ネコショウは即座に化け猫モードになり、必殺の猫パンチを振るう。
「うにゃあん!」
「ふんっ!」
赤黒い金棒と猫パンチが衝突してネコショウが吹き飛ばされる。
「うにゃあん!」
「熱魔法・火達磨!」
ミザリアが深紅の杖を振るうと赤鬼が炎上する。
「なんだ? 熱魔法か……効かんな」
赤鬼はミザリアに近付いた。
「く……」
ミザリアはじりじりと後ずさる。
「ほう……お前、べっぴんさんだな。
バルフォネア兵に殺された妻にそっくりだ……」
ミザリアを見る赤鬼の目が一瞬和らぐ。
「うにゃあん!」
その隙を逃さず、ネコショウが赤鬼に飛びかかる。
「うるせえ猫だな!」
赤鬼はものともせずに金棒を振るいネコショウを吹き飛ばす。
「お前さん、名前は?」
赤鬼はミザリアに興味を示す。
「私は……ミザリアよ」
「フルネームは?」
「ミザリア・ダークアイよ……」
「ダークアイ……なるほどな。
ならお前もさぞ、辛い思いをしただろう?」
「ええ……そうね。
でも、私はそちら側を選ばなかった……」
「そうだな。……まあ、長生きしろや」
そう言って赤鬼は弱って美少女モードに戻ったネコショウへ詰め寄る。
「お前……魔族か?
つくづく変なパーティーだな。
……ま、死ねば全て関係なくなるが……」
赤鬼は瀕死のネコショウへと金棒を振り上げる。
ザンッ!
直後、金棒を持つ赤鬼の右腕がぶった斬られる。
「ぐぁぁぁあ!」
赤鬼は悲鳴を上げ、傷口を抑える。
「リョウカ様……」
ネコショウの目の前に、虚ろな瞳のリョウカが退魔の剣を携えて立っていた。
「てめぇ!」
赤鬼は左手に金棒を持ち変えて振るう。
金棒がリョウカの左腕を吹き飛ばす。
「ハハハ、まさか自分で持っている退魔の剣のせいで、加護が打ち消されているとは!
バカなヤツ――なにっ!?」
吹き飛ばされたはずのリョウカの左腕が、血管のように脈打つ赤い雷と共に再生する。
それと同時にリョウカの右腕の腕輪が赤黒く輝く。
リョウカは躊躇いなく、驚く赤鬼の左腕を切り飛ばす。
赤鬼は腕輪を失ったことで、鬼の体が本来の人の姿へと戻る。
「待ちなさい! リョウカ! もう勝負はついているわ!」
ミザリアの声は届かず――リョウカは退魔の剣で赤鬼の首を薙ぐ。
赤鬼は血肉となりリョウカの腕輪に吸い込まれていった。
異様な雰囲気のリョウカにミザリアは後ずさる。
「リョウカ……様。リョウカ……様」
ネコショウが縋るようにリョウカの名前を呼ぶ。
リョウカは、斬り伏せた相手を見ることもなく、
ゆっくりと視線を巡らせた。
次の敵を探すように。
「……リョウカ様?」
ネコショウの声に反応はない。
リョウカの目は虚ろなままで、赤い腕輪が輝いている。
ネコショウは、一歩も近づけなかった。
いつもの背中なのに。
そこから感じる気配が、まるで別物だったからだ。
このままでは、また誰かを斬る。
そう確信して、ネコショウは飛び込んだ。
「リョウカ様!」
ネコショウはリョウカから退魔の剣を奪い取る。
「……あれ、俺……」
リョウカが小さく呟いた。
「リョウカ様……!」
ネコショウは退魔の剣を捨てリョウカに抱きつく。
「ネコショウ……」
リョウカはわけもわからないままネコショウの頭を撫でる。
ネコショウは、リョウカの背中から
ようやく力が抜けていくのを感じていた。
――今度は、間に合った。
ネコショウは安堵の溜め息と共にリョウカを力強く抱きしめる。




