花嫁?
朦朧とする意識の中で、ステラはゆっくりと立ち上がった。
ステラの目の前にピンクのツインテールの少女が飛び跳ねている。跳ねる度に赤いゴスロリ服のフリルのスカートが揺れる。
「きゃははは☆」
笑っているのに、目だけは笑っていなかった。
「なにがそんなに面白い?」
ステラは短剣を抜き構える。
「きゃははは☆ あなた花嫁でしょ?
幸せな瞬間をぶち壊されるのってどう? どう?」
彼女は無邪気にあっかんべーをしてみせる。
「貴様っ! 風魔法・鎌鼬!」
ステラから無数の風の斬撃が放たれる。
ズンッ!
目の前に赤く半透明の結晶が出現し風の斬撃を防ぐ。
「私は血冠の徒。第四位の赤星のサタリナだよ! よろしく☆」
ふざけた様子の血徒が指を振り上げる。
「潰れた花嫁を見る、新郎の顔を想像したら――
たまんないっ☆」
直後、ステラの上から赤い星が振ってくる。
「風魔法・風精霊舞」
ステラは風を纏い間一髪、振り注ぐ星を回避する。
星は着弾した瞬間に爆ぜ、地面に巨大な穴を開ける。
「ふーん。つまんない……」
「私を殺しても新郎……デュナンは悲しまないぞ! これは政略結婚に過ぎないから……」
「でもでも、あなたは好きなんだよね?」
「……」
ステラの表情が一瞬、曇る。
言葉に詰まり無言で返す。
「なんだか可哀想になってきたわ。私は幸せな奴をぶち壊すのが好きなのに……あなたを潰してもつまんなそう」
「敵に同情される謂れはない!」
ステラは風を纏ったまま、サタリナに詰め寄る。
短剣を構えて強襲する。
しかし、サタリナは半身を翻し、ステラの剣閃を躱す。
その勢いでサタリナの回し蹴りが、ステラの腹を捉える。
「ぐっ……がはっ!」
ステラは勢いよく吹き飛ばされる。
「ふふふ、こう見えて、私って、体術もいけるのよ!」
「さてさて、そろそろ花嫁のミンチを作ろうかしらね☆」
サタリナが天に人差し指を掲げる。
ステラのドレスはボロボロで泥まみれだ。
――次の瞬間、風が舞う。
「きゃああ!」
サタリナが暴風に吹き飛ばされる。
風が、すべてを押し流した。
「――僕の妻に手を出さないでくれ」
颯爽と現れたデュナンが耳飾りを揺らしながら、
サタリナの前に立ちはだかる。
「きー! なによあんた! ムカつく!」
サタリナは立ち上がり、スカートの裾を整える。
「ムカつく! ムカつく! ムカつく!」
サタリナは連発して、デュナンに赤い星を叩き込む。
しかし、デュナンを纏う風が一瞬で星々を塵にする。
デュナンの目が緑色の発光を放っている。
「な、なによあんた…まさか、加護持ち?」
サタリナがジリジリと後ずさりする。
「デュナン、待って!」
ステラがデュナンを止めようとするが、
暴風で近寄れない。
「よくも、この民を……! よくも、ステラを!」
デュナンは怒りで我を失っている。
「いや、いや、いや、サタリナは可哀想な子なの! 親に見捨てられて、盗人って虐められて! 可哀想でしょ? だから助けて下さい!」
「知るか……死ね!」
サタリナに歩み寄るデュナンの背後から、ステラが彼を抱きしめる。
「デュナン、お願い! 抑えて! 目的を見失わないで!」
「サタリナ……」
次第にデュナンの目の輝きが戻る。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
サタリナは既に放心状態だ。
デュナンが剣を収めた次の瞬間。
――サタリナの体が爆ぜた。
赤い腕輪は敗北を許さない。
その血肉は腕輪へと吸い込まれていった。
✡
カサンドラを看取ったリョウカ。
既に、カサンドラの亡骸さえ赤い腕輪に食われていた。
リョウカは退魔の剣を拾い腰にかける。
「セピア……少しだけ待っててくれ。仇はとる」
気絶しているセピアの頬を撫で、虚ろな目をしている青年が歩き出す。




