寄す処
落ちてくる赤い星に真っ先に気付いたデュナンが剣を空に掲げる。
「ぜあぁぁぁぁ!」
彼の叫び声と共に剣先から巨大な竜巻が放たれる。
膨大なマナと共に赤い星を僅かに押し返す。
「はっ!」
続いてジェーンが赤い星めがけて飛び上がる。
鋭い拳で赤い星を砕く。
巨大な星は砕け散り、小さな破片となって町に降り注ぐ。
赤い流星群は、枝々に渡された回廊と水晶を砕く。
足場が崩されたことにより、町の民や数名の仲間たちが次々に落下する。
「はぁぁぁ!」
デュナンは更に手をかざし、落下する町の人々に風を纏わせ、落下の衝撃を和らげる。
ガンッ!
――次の瞬間、デュナンが吹き飛ばされ、大木に叩きつけられる。
「デュナン!」
ステラが駆け寄ろうとするが、
――ガンッ!
ステラも何者かに吹き飛ばされる。
「デュナン! ステラ!」
なんだアイツ。
大柄な男が赤黒い金棒を振るっていた。
「ガハハハハハ! いいね。やっぱり人間はよく飛ぶねー!」
「はぁ!」
セピアが大柄な男に突っ込みレイピアを突き立てるが――大柄な男は金棒で受け止める。
そして、セピアを吹き飛ばす。
「ガハハハ! 威勢の良い奴は好きだぜ! 俺は血冠の徒、第十二位、赤鬼のハンメルトだ。さあ、死にてえ奴からかかってきな!」
「セピア!」
カサンドラはすぐにセピアを抱き抱える。
「お前……血徒の第五位、血の再生者、カサンドラか?」
「もう、血徒は抜けましたわ!」
カサンドラは退魔の剣を抜き構える。
しかし、柄を握る手には力が入っていない。
「俺はよう! 裏切り者は大嫌いなんだよな!」
ハンメルトの体がみるみると赤く染まり、角が生える。
筋肉も盛り上がり、口からはみ出た牙は鬼そのものを体現している。
「カサンドラ、俺も戦うよ」
カサンドラの横に並び立つ。
「なんだ? 裏切り者の肩を持つのか?」
ハンメルトは鼻息荒く立ち塞がる。
「私だって姉さんに良いところ見せるんだから!」
セピアも隣に並び立つ。
「セピア、無理をなさらないで!」
カサンドラはセピアに回復魔法をかける。
「ありがとうございます!」
俺はすかざすハンメルトへ間合いを詰める。
彼が振り下ろした金棒は俺から逸れ足場を叩き割る。
「っと、危ねえ!」
俺は回避した流れで、ハンメルトにジェーン直伝の正拳突きを太腿に見舞う。
ガンッ!
「ぐわぁ!?」
ハンメルトではなく俺の拳が悲鳴を上げた。
「なんだお前……? バカなのか」
ハンメルトが呆れているとセピアの突きが放たれる。
レイピアは周囲のマナを巻き込み刺突によりハンメルトが吹き飛ばされていった。
「ハハハ。餓鬼共、舐めていたよ」
ハンメルトは笑いながら体勢を立て直す。
……駄目だ。まるで効いていない。
ミザリアやネコショウも下に落ちたみたいだ。
援軍は望めないか。
「セピア、俺が惹きつけるから、手数で攻めよう」
小声でセピアに耳打ちする。
直後に二人で突撃する。俺が躱してセピアが決める。この戦法さえ、繰り返せばいつかは――
俺の安易な考えは最悪の形で砕け散った。
ハンメルトは俺狙いと見せかけて、セピアに金棒を振るう。
セピアは防御したが衝撃を殺しきれず、レイピアは折れ、彼女の腹部が吹き飛んだ。
「そんな、セピアさんっ!」
カサンドラは吹き飛ばされたセピアを追い、木々の合間を走る。
「っくそ!」
俺は時間を稼ぐべくハンメルトに向き直る。
「お前、バルフォネアの英雄だろ? もうネタは割れてんだよ。お前さえ無視してれば、作戦になんら支障はねえよ」
ハンメルトは俺を無視して、下に飛び降りた。
くそっ、完全に役立たずじゃねえか。
俺は頭を振り、急いでセピアの元へ駆け寄る。
水晶の民家の中にセピアがいた。
「セピアさん……。セピアさん……」
カサンドラが必死に回復魔法をかけるが、
セピアのお腹が……吹き飛んでいる。
セピアは辛うじて息はしているが、
明らかに致命傷だ。
「そんな……」
またしても、救えなかった。
拳を握る手に力が入る。
「ふぅー、仕方ありませんわね」
カサンドラは退魔の剣の刃先を人差し指で撫でる。
そのまま退魔の剣を投げ捨てた。
「待て、カサンドラ! その力、やばいんだろ?」
「ええ、でも使わなければセピアさんが死んでしまいますわ」
俺の制止を待たずにカサンドラは指先を伝う血液をセピアの吹き飛んだ体組織に垂らす。
血管のように蠢く赤い靄が纏わりつき、セピアの欠損した内臓を修復していく。
赤い靄は次第に霧散し、セピアのお腹は綺麗な肌色を取り戻していた。
息もしている。脈もある。
息を吹き返したセピアとは対照的にカサンドラの顔が青白くなる。
周囲の戦いの音が、遠のいた。
「カサンドラ……カサンドラ……」
倒れるカサンドラを慌てて抱き抱える。
彼女の体には既に力は残されていなかった。
「どうして……どうして……」
「リョウカさん。自分のことを……嫌っている相手のために……よく、泣けますわね……」
彼女は辛うじて言葉を紡いでいる。
こんなにも自分の無力を呪ったことはない。
俺さえ強かったら。
そう思えば思うほど涙が止まらなかった。
「カサンドラ! どんなにお前が俺のことを嫌ってても、俺はお前のことが大好きだ! お前ほど仲間思いの奴はいない。もっと俺を罵ってもいいから死なないでくれ!」
「リョウカさん……耳を貸してくださいまし……」
耳を近づけると彼女の冷たい手が俺の頬に触れる。
首を曲げられると彼女の唇がそっと触れた。
「え……」
キスの後、カサンドラは消え入りそうな声で口を開く。
「あなたのこと……
もしかしたら、少しだけ、
好きだったのかもしれません」
「お姉様。
これくらいは、許してくれますよね……」
それっきりカサンドラは目を閉じた。
唇に残った熱だけが、
彼女が確かに生きていた時間を告げていた。




