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せっかく授かったラッキースケベが思ってたのと違う〜授かった瞬間に裏切られた〜  作者: 那須 儒一
一章 王都編

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西の英雄?

試合会場に降りると、すでに西の英雄デュナンは剣を抜いてこちらを睨んでいた。


観客の歓声を背に、彼は完全に戦闘モードだ。

どう見ても、肩慣らしの域を超えている。


やる気が溢れすぎて、もう勝手に第二ラウンド突入みたいな顔をしている。


「なに? きみ、丸腰なの?」

デュナンが眉をひそめる。


「変態野郎って、あなたのことだったのね…」

メアリーまで睨んでくる……なんでだ。


どうやら、酒場でのラッキースケベと、さっきの紹介が致命的だったらしい。

第一印象って大事だな。


「俺、武器使わないんで……」


「ふざけた態度だ! 

僕など、武器を使うまでもないと言うことか!」

なんで怒ってんのコイツ。


英雄のプライドに、思い切り火をつけてしまったらしい。

弁解する隙もない。


メアリーがぱんっと手を叩く。

「はーい、観客席は私の結界で守ってますから思う存分に戦って下さい! ……では、始め!」


逃げ道は、完全に塞がれた。


「斬空・かまいたち」

剣がうなり、大気がミキサーみたいに掻き回された。


次の瞬間、斬撃はなぜか互いに反射し合い、

結界を叩き、服だけを吹き飛ばした。


俺は、本当に何もしていない。


「きゃっ!」「うわっ!」

メアリーとデュナンの服が一瞬で吹き飛ぶ。


観客席から黄色い声援と、むさ苦しい歓声が同時に巻き起こった。


「ちょ、デュナンさん!?」

メアリーがドン引きした声を上げる。


「ち、違うんだメアリーさん! 

こ、こいつが魔法で跳ね返したんだ!

見てくれ、僕も裸同然じゃないか!」

メアリーの視線が俺に刺さる。


「いやいや、俺はやってない!」


完全に“やった側”の扱いだ。

前科があると、こうも信用されないのか。


「中距離が効かないなら——直接、斬り伏せる!」

デュナンが風を纏い、一瞬で距離を詰めてくる。


冷静な判断だ。

……相手が俺じゃなければ。


「やばっ!」

仰け反った拍子に足がもつれ、デュナンの剣が空を切る。


体勢が崩れ、気づけば床ドン。

視線が合った瞬間、デュナンは真っ赤になる。


緑色の瞳がこちらを見つめ、顔同士の距離が異常に近い。


「な、なんだ…そんな目で僕を見るな……」

頬を赤らめるな。どういう反応だよ。


「…や、やめてくれ…見ないでくれ……」

俺は、何もしていない。

だが、事態はもう説明を聞いてくれる段階をとうに超えている。


デュナンの顔が更に真っ赤になり――気絶した。


……俺、本当に何もしていないよな?


「……こ、これは変態野郎の勝利です!」

メアリーの判定と共に、ブーイングと歓声が混じり合う。



試合終了後——会場の熱気が一気に引いていく。


次の戦いへと空気が切り替わった。


観客席に戻ると、アグリアスが苦笑して迎えた。


「相変わらずだが、勝ちは勝ちだ」


「続いての戦いは、バルフォネア王国騎士団、副団長!

聖剣クラリウスの使い手――

アグリアス・ライオット・ホーン!」

アグリアスって副団長だったのか。


「次は私の番だな!」

アグリアスは自信満々に立つ。


「頑張れ!」


「任せておけ」

輝くような笑顔を返して会場へ向かう。


さっきまでの重たい表情が嘘みたいだ。


「対するは…南の湿原に棲む熱波の魔女、ミザリア・ダークアイ!

彼女は湿原に迫る魔王軍を追い払った英雄です」


赤黒い髪をカールさせ、赤いラバー素材の服に黒のショートパンツ。

真紅の杖を携え、妖艶に浮遊する女魔術師。


一目で分かる。

近接戦向きの相手じゃない。


「まさか……あなたと戦えるなんて」

アグリアスの声に緊張が混じる。


「こちらこそ。

副団長に敗北を刻むのは心苦しいけれど……よろしくね」


言葉は丁寧だが、視線は獲物を見るそれだ。


なんかこの二人、会話が普通に聞こえる。


「メアリーさん。観客席の結界、上は開いてるのよね?」

ミザリアが軽い調子で尋ねる。


「え、ええ。空気がこもるのと臨場感を伝えたいので、音は拡張して周囲に響くようにしてます」


「ありがとう」

ミザリアの笑みに悪寒が走る。

準備が整った笑顔だ。


「そ、それでは二回戦始め!」


「はぁぁぁ! 覇光斬!」

初手、いきなりアグリアスの光の斬撃が結界内に乱反射する。


まるで光の迷宮だ。

  

容赦がない。

騎士としての全力だ。


「相変わらず桁違いの威力ね」

ミザリアは余裕の笑みでふわりと浮かび回避する。

その笑みには、勝利を疑っていない余裕があった。


熱魔法ねつまほう熱保管ヒートテック

結界内の空気が歪む——熱そのものが、攻撃だ。


「きゃあ、熱い!」

メアリーが結界外へ飛び出す。


アグリアスは汗を滝のように流しながら攻撃を続けるが、ミザリアには一向に当たらない。


剣を振るたび、呼吸が乱れ、足取りが確実に鈍っていく。


「早くギブアップした方がいいわよ。

このまま温度は上がり続ける。

あなたのような、美人を焼くのは心苦しいわ」

ミザリアが煽るように言う。


「まだだ! 騎士として退けぬ!」

 

その姿勢が、痛いほど伝わってくる。


しかし、ついにアグリアスは熱に耐え切れず、崩れ落ちた。


「ひゃっ…あつっ!」

メアリーがすぐさま飛び込み、アグリアスの脈を確認する。


「大丈夫、生きてますね〜!

二回戦はミザリアの勝利です!」


くそっ……!

胸の奥が、嫌な音を立てた。


気づけば俺は人ごみを掻き分け、会場へ走り出していた。


石畳から伝わる熱が凄まじい。


アグリアスを抱え、焼けた鎧を急いで外す。

大きな火傷はないが、体は石のように熱い。


胸が締め付けられる。

――嫌だ。


理由は分からない。

だが、この感覚だけは無視できなかった。


ミザリアを睨んだ。

「おお〜怖っ」

手を広げて茶化すものの、怯む様子はまったくない。


「お姉様!」

カサンドラが駆け寄り、アグリアスを抱えようとするが――よろけた。


「危ない、俺も持つよ」

二人でアグリアスを支える。


「……羨ましいわねぇ」

その声は、嫉妬か、哀愁か。

はっきりとは分からない。

背後から、ミザリアの声がぼそりと落ちた気がした。

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