冷たい予感?
バルフォネア王国領土の中心部に位置するテウザ山を南側から迂回し、水晶の町、クリステラを目指す旅の途中。
木々の合間から月明かりが差し込み、虫の声を聞きながら野営をしていた。
「それにしてもあの二人が結婚ねぇ〜」
左隣に座るミザリアのいたずらっぽい笑みが心地いい。
一年前と比べてミザリアは髪が少し短くなっていた。赤黒い髪が、肩口で左右にハネている。
「ちょっと、なによ〜、リョウカ。人のことジロジロ見て。もしかして、私に見惚れてたの?」
「はは、悪い悪い。いや、綺麗になったなと思って……」
ミザリアの赤黒い瞳が微かに大きくなる。
「すみません。ちょっと隣失礼しますね!」
赤毛のメイド、ハルカが俺とミザリアの間に割り込むように座る。
「リョウカ様、シチューができました。どうぞお食べ下さい!」
ハルカはシチューをスプーンですくって強引に俺の口にねじ込む。
「熱っ! 熱いって!」
「リョウカ様、大丈夫ですか? お水をどうぞ!」
今度はネコショウが右隣に座って俺の口に木製のコップを当て、水を注ぎ込む。
「ごっ、ゴホッ、ゴホッ! ネコショウ、傾けすぎだって!」
「あんな奴のどこがそんなにイイのかしら……」
セピアはボソッと言葉をこぼす。
「まったくですわね……」
この瞬間、セピアとカサンドラの視線が交わり、二人は熱い握手を交わす。
「賑やかでいいですね~」
ジェーンは柔らかく微笑む。
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焚き火の火も燻り、夜が更ける。
ふと、視線を感じて目を覚ます。
闇夜に浮かぶ赤い目が俺を誘っていた。
俺は皆を起こさないようにゆっくりと木々の奥の赤い目に歩み寄る。
「お前、こんなとこでなにしてんの?」
「おやおや、少し驚かそうと思いましたのに。お久しぶりです。リョウカ殿……」
闇夜に赤毛で痩身の人狼が立っていた。
コイツはS級モンスターの捕食者だ――一年前、テウザ山でこいつに散々掻き乱されてきた。
「お前とは名前を呼び合うような仲じゃないだろ」
「いやはや手厳しいですな」
「それで、何の用だ?」
「ホホホ、話が早くて助かります」
捕食者は卑しい笑みを浮かべる。
「最近、血冠の徒がテウザ山の魔物を狩っていまして」
血冠の徒――俺はその言葉に反応する。
俺は手首の赤い腕輪を捕食者に見せる。
「ほほう……これはどうしてまた?」
捕食者はさして驚いてはいないようだ。
「ま、成り行きってやつさ」
「現在、彼らは、人や魔物、すべての生命を贄に捧げています。ここは一つ協力しませんか?」
「魔物のお前と協力? バカ言うな」
「ホホホ、賢い貴方なら血徒と我々、どちらが脅威かお分かりでしょう。そして、近々、クリステラで祭事があるとか。私の情報ではそこで集めた人々を血徒が一網打尽にするとの情報を得まして……」
「なるほど、クリステラが滅ぼされれば今度はテウザ山の魔物が本格的に山狩に合うと。利害の一致か……組む価値はあるな」
「ふふ、聡明な判断でございます。それではこれを……」
捕食者は犬笛を手渡す。
「これを吹いていただければ、すぐにでも駆け付けます。ただし、魔蟲がいる場所には我々も立ち入れませんので……」
「ならクリステラで笛を吹いても意味ないじゃん」
「ふふ、そうですね。吹かずに済むならそれでいいでしょう。――と」
捕食者は何かを察して闇夜に溶け込む。
「リョウカさん……誰と喋ってたんですか?」
ジェーンが眠そうに目を擦りながら、歩いてきた。
「うん? 遠い思い人に愛を叫んでたのさ」
「ふーん」
ジェーンは少し訝しげにこちらを見やり、再び寝床へと戻っていった。
確か、捕食者はジェーンのお祖父さんの仇。このことは内密にしてた方がいいな。
それに、使わないで済むかもしれないし。
そう、思えば思うほど冷たい予感が拭えなかった。




