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せっかく授かったラッキースケベが思ってたのと違う〜授かった瞬間に裏切られた〜  作者: 那須 儒一
六章 分岐編

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決闘?

――三日後の夜、王城横にある闘技場コルデオへ向かう。


ここは基本的に立ち入りが制限されておらず、

行事ごとがない日は騎士たちの演習場にもなっている。


この三日間はいつも通りに過ごした。

仲間との交流、哨戒任務、見回り。

何一つ普段と違う行動はしなかった。


「来ましたわね――」

既にカサンドラはコルデオで待ち構えていた。


「よっ!」

できる限りいつも通りに振る舞おうと努める。


「余裕ですわね。私など相手にならないと……さ、やるならさっさと始めましょう」


「やる気満々なところ悪いんだけど決闘はしないぜ」


「は?」


「カサンドラ、お前に殺されてやるって言ってるんだよ」


「……何かたくらんでますの?」


「……別に何も企んじゃいないさ」


心の整理なんて三日間じゃつかないけど、

俺には自分の命以上にアグリアスとカサンドラのことが大事だった。


少なくとも、その時の俺にはそれだけだった。

 

「……わかりました。せめて苦しまないようにして差し上げますわ」


「はっ、お前から今までかけられた言葉のなかで、一番優しさを感じるよ」


カサンドラは退魔の剣を腰から抜き構える。


先日、不意打ちで襲われた時もそうだったが、彼女の剣先は震えていた。


もし、あの時、カサンドラに迷いが無ければ、俺は避けられずに斬られていただろう。


「カサンドラ。今までありがとう――」


カサンドラの瞳に光が過る。


殺されてやるんだ。

お前の心に俺を残すぐらいは許してくれ。


覚悟なんて決まってなかった。

前世も合わせて既に二回死んでいる。

ただ、死ぬことに慣れただけだった。


カッコつけた割に膝が震えているが、それは御愛嬌ってところだ。


カサンドラは呼吸を整え、剣を握る手に力を込める。


俺は静かに目を閉じた。


ガシャン!

次の瞬間、目の前に飛び散ったのは、年季の入った鎧の破片だった。


金木犀の香りで目を開けると、俺を庇うように、二人の間に入ったアグリアスの胸を――退魔の剣が貫く。


――俺がいるとアグリアスが死ぬ。

ここにきて、最悪の形で血冠けっかんの徒の総帥の予言が現実のモノとなる。


「姉様っ! ぁあ、いやぁぁ……」

カサンドラはパニックになり地面に倒れるアグリアスを抱き抱える。


「馬鹿者……」

アグリアスはそれだけ言うと事切れた。


「アグリアス、なんで……」

訳がわからなかった。


彼女のために人を殺すと決めたカサンドラ。

彼女のために殺されることを選んだ俺。

どちらの覚悟も無残に打ち砕かれた。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

駄目だ息ができない……、苦しい……。


「お姉様! お姉様!」


カサンドラは狼狽えながらも地面に落ちている退魔の刃を撫でる。

彼女の指先に血が伝う。


指先からこぼれる血液をアグリアスの胸に垂らす。


「……なにを」


次の瞬間、アグリアスの胸に血管のように蠢く赤い靄が纏わりつき、欠損した心部を修復していく。


「……私のブラッドスキルです。でも……」


胸の傷は綺麗に塞がったが、アグリアスの体に熱が戻ることはなかった。


カサンドラから表情が消えた。

彼女は退魔の剣を拾い、自身の首筋に剣を向ける。


「やめろ!」

俺はカサンドラを押し倒した。


退魔の剣が滑るように転がる。


「離してくださいまし! お姉様のいない世界で私は生きていくつもりはありません!」


「駄目だ、カサンドラ……アグリアスの想いを無駄にする気か!」


「お願い、離して! ……お姉様を救うつもりが、わたくしが殺してしまった。わたくしはなんて愚か者なの! お願い…離して…離してよ…もう死なせて…」


カサンドラの言葉は乱れ、懇願するように俺を見る。


正直、自分でもどうすればいいかわからなかった。


「人間とはかくも因果な生き物ですね」


強弱のない淡々とした声が隣に立つ。

「タチアナ……」


女神タチアナはこの惨事を見て大きな溜息をつく。


「一度きりですよ……」

彼女はそう呟くと左手を掲げた。


直後、アグリアスの胸に再び鼓動が戻る。


代わりにタチアナの左手が黒い靄に蝕まれていった。

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