決意?
隣に立つカサンドラ。
ローブの袖口から赤い腕輪が見え隠れしている。
「話し合いを選んだってことは、俺を殺そうとした理由を教えてくれるのか?」
「ええ…」
カサンドラは変わらない横顔で遠くを見ている。
彼女の顔からは感情を窺い知ることはできなかった。
しばらくして、決心したように口を開く。
「あなたを殺さないと、お姉様が死んでしまうの…」
「カサンドラがそう言い切るってことは、
何か確証があるんだよな?」
「血冠の徒については……ご存じですわね」
俺は返事の代わりに右手に装着した赤い腕輪を見せる。
ペアルックだな、と、冗談を言いかけたが、とてもそんな雰囲気ではなく止めた。
「えっ!? あなたも、血徒になったのですか?」
「そういうわけではないが……ま、不可抗力だ。
察してくれ……」
「まったく、貴方はいつも想像の斜め上を行きますのね」
「はは……」
正直、ダイダスやネリルを殺した奴らと、カサンドラが同類だなんて思いたくなかった。
「血冠の徒の総帥が未来視の能力を持っていますの」
「未来視?」
「言葉のままですわ。未来が視えますの……」
「俺が原因でアグリアスが死ぬ未来が予言されたと」
カサンドラがコクンと頷く。
カサンドラのことだ。
その総帥の予言を信用できるだけの根拠があるのだろう。
カサンドラの性格を考えると、アグリアスが死ぬ可能性があるなら俺を殺そうとする。その事には納得できる。
その覚悟が腕輪という形で表れている。
腕輪は装備者が敗北した瞬間、その命を奪う。
これはかなり重い制約だ。
「でも、わざわざカサンドラを懐柔してまで、俺を殺そうとするってことは、血徒側にも思惑があるんだろ?」
「ええ……、総帥の話によると、貴方は因果を歪めいずれ世界を破滅に導くと……」
突拍子もない話だが、笑い飛ばせる内容でもなかった。
「おおよその理由はわかった。……で、今回話してくれた理由は?」
「ええ、貴方にお願いがありますの……」
「お願い?」
カサンドラはこちらに向き直り口を開く。
「わたくしに大人しく殺されてください」
「嫌だ…と言ったら?」
「……決闘を申し込みます」
彼女の目は本気だ。腕輪の装備者同士の決闘。
これはすなわち、どちらかが死ぬということ。
カサンドラも俺と同様に命をかけるということ。
「日時は?」
「三日後、今夜と同じ日時で、場所は王都闘技場のコルデオで……その時までに決めておいてください」
「俺が来ない可能性は考えないのか?」
ふっ。
彼女は珍しく笑みをこぼし、口を開く。
「ええ、貴方は女性の誘いは断らないですもの」
「はは、そう言われたら行くしかないか」
「最後に一ついいか?」
「なんですの?」
「俺のこと……嫌いか?」
「……はい」
「そうか……」
「初めは嫌いでしたわ。でも、最近は邪魔にはならない程度には好きでした」
「カサンドラらしい返しだ」
それだけ話すと俺たちは互いに別々の方へ歩き出した。
こんな状況だというのに、
少しだけ心のモヤモヤが晴れた気がした。
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翌日、騎士庁舎に再び訪れた。
副団長セピアの様子を見るためだ。
――と、セピアの自室にアグリアスが入って行くのが見える。
何も悪いことをしていないのだが、なんとなく物陰に隠れてしまう。
二人の会話が微かに聞こえてくる。
「アグリアス団長……団員を二人も死なせてしまいました。申し訳ございません」
「セピア……逆だ。お前は三人も仲間を救ったのだ」
「いえ、私は救うどころか、ダイダスに救われました。彼がいなければ私も死んでいました……」
「ならダイダスは命を賭して副団長を守り抜いたのだな。立派な騎士だ……」
「やめてください! どれだけ、前向きな言葉をかけられても……私は、私はもう、騎士は続けられません。どうして私を副団長に選んだのですか。皆、私には荷が重いと陰で言われています」
――セピアもいろいろ抱えてたんだな。
「セピア…私はお前を引き止めに来たのではない。ただ、一つ言わせてもらうと、お前が騎士団を辞めれば、この先、死なずに済んだ仲間も死んでしまうかもしれない。死に際を見ずには済むが…お前はそれでいいのか?」
「………」
セピアからの返答は聞こえない。
「それと、私がセピアを副団長に任命した理由は、誰よりも守りたいという意志が強かったからだ。私がどれだけ指導をしても、意志まで鍛えることは困難だ。だから、今は休むといい。また、意志が戻ったらその時は力を貸してくれ!」
さすがアグリアスだ。
あんな慰め方は俺にはできない。
――と、アグリアスが部屋から出てくる。
「リョウカ……盗み聞きか?」
「なんだ、バレてたのか……」
俺たちは場所を移して話す。
「リョウカも声をかければよかったのに……」
「いや、今の俺が何を言っても焼け石に水だ……」
「リョウカは落ち込んではないのか?」
「落ち込んでるさ。英雄なんてだいそれた称号だよ……」
「でも、お前は立ち止まらないんだな」
「ああ、俺には守りたいものがはっきりしてるからな……」
それだけ、言葉を交わしてアグリアスに別れを告げる。
――どうするべきかは腹を括った。




