喪失②?
ジェーンと血徒ウリアナが拳と刀を交える。
「リョウカさん!生存者を連れて逃げてください!」
くっ、悔しいが俺にできることはそれくらいしかない。
泣き言は後だ。今は一人でも多く助けないと。
ダイダスは既に事切れており、
魔術師ネリルは肩口から深々と断たれていた。
俺は心を殺し、唇を噛み締めた。
――ユーフォスはショートソードが折れてる。
良かった、剣が間に入ったことによって、致命傷は避けてるみたいだ。
俺はユーフォスの肩の傷口に布切れを当て、抱き抱える。
「セピア! 逃げるぞ!」
セピアは放心状態で俺の声などまるで聞こえてない。
「副団長!」
セピアはその言葉に反応して立ち上がる。
背後で粉塵が巻き起こる中、
ジェーンを置いて俺たちはその場を後にした。
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そこからは誰も口を利かなかった。
なんとか王都に戻り、セピアとユーフォスは王立医療にて治療を施される。
俺はその足でエアリー陛下へ報告に向かう。
エアリー陛下は微かに表情を曇らせたが、
立ち振る舞いは凛としていた。
「そうですか。大変でしたね…。
ともかくご無事で何よりです。
ご報告ありがとうございました。
念の為、ジェーンの援護に精鋭を向かわせます」
エアリー陛下からは淡々と事務的な言葉が返ってきた。
万が一、ジェーンが勝てない相手であれば、
現状、王都でウリアナに勝てる者は存在しなくなる。
夕暮れ時――。
俺は医療院に寄った。
この世界では回復魔法はかなり希少らしい。
本来のマナの運用とは異なるからだ。
そのため王立医療院で施されるのは最低限の治療だけ。
カサンドラがいた事で感覚が麻痺していたが、
彼女以外にまともな回復魔法を使用する者を俺は見たことがなかった。
若手のユーフォスは命に別状はないようだ。
「……リョウカ様。すみません、俺が不甲斐ないばかりに……」
「いや、二人の死は小隊長である、俺の責任だ……ユーフォスは何も悪くない」
「リョウカ様は……優しいですね……ぐっ、ズズッ……」
病床に横になるユーフォスの目尻から涙が流れる。
「俺……強くなりますから。みんなを守れるように……」
彼はそれだけ言うと静かに泣き続けた。
ユーフォス、彼は見た目以上に騎士だった。
俺なんかよりもずっと、覚悟を秘めていた。
軽症だったセピアは既に王立医療院を後にしたそうだ。
月が昇る中、俺は騎士庁舎へ向かった。
彼女はネリルと同室らしい。
基本的に若手の騎士は庁舎内の寮で生活している者が多いとのこと、
俺は呼吸を整えセピアとネリルの部屋をノックする。
「……」
返事は帰ってこなかった。
それでも人の気配がしたため、
「入るよ」とだけ告げて木扉を開けた。
八畳程の狭い部屋にベッドが両脇に並べられている。
その一つにセピアは腰掛けていた。
「女の子の部屋に勝手に入るなんて……」
そう言い放つ彼女の言葉に感情は感じられなかった。
「セピア――すま――」
そう言いかけたところで言葉を遮られた。
「ネリルは私と同期だったの。彼女は誰よりも私の力を信じてくれてた……。なのに、私は救えなかった。ダイダスも私のせいで死んだ……」
「……」
「あんたに副団長って叫ばれたとき、はっ、としたわ。私が、私が救わなきゃいけなかった。
あんたに張り合わず、常に状況把握に努めなきゃいけなかった!」
薄いレースの寝巻きの袖を彼女は血が出るまで握りしめていた。
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その後、何も言えずに俺は部屋を後にした。
正直、責めてくれたらどれだけ楽だったか。
そして、報告の時もエアリー陛下からの慰めと叱責を期待した。
これは、責任感から来るものではない。
自分自身の感情を納得させるためのものだ。
――こんなんじゃ、また仲間を失ってしまう。
仲間からの慰めや叱責を期待するな。
血徒は明確に止めなければいけない相手だ。
もっと強くならないと。強く――。
喪失の夜に、俺は「強くなる」という言葉の意味を、初めて正面から考え始めた。




