血?
風が撫でる夜の牧草地。野営の焚き火が仄めく。
「ガッハハハ! 英雄さん、若えのに大したもんだ!」
ダイダスは俺の背中をバシバシ叩く。
「いや~すごかったですよ。あの状況でよくそこまで冷静に判断できましたね!」
男性陣がベタ褒めなのに対して女性陣の目線がやや冷ややかだ。
「私はへなちょこって言われたの忘れてませんからね!」
「あぁ、あれは、ネリルの性格を踏まえて、わざと挑発したんだよ。いい魔法、持ってんじゃん!」
俺の言葉にネリルの顔が赤くなった気がした……。
焚き火に当てられただけかもしれないが。
「私ははっきりいって、あんたは嫌いよ!」
ここまで拒絶されると気持ちいいぐらいだ。
「なんでだい?」
「だってアナタ、どさくさに紛れて私の胸をさり気なく何回触ったと思ってるの? 気付いてないとでも思ったの?」
「えっ…、いつの間に触ったんだ!?」
それは、ホントに気付かなかった、なんて勿体ない事をしたんだ。
認識できていないラッキースケベなんて意味ないだろ。
「ガッハハハ! あの戦闘の最中にセクハラまでする余裕があったとは。それを聞いてますます株が上がった」
いや、ダイダスさん褒めるところおかしいから。
「ちょっと、おっさん飲みすぎよ!
副団長がいる前でよくそんな態度をとれるわね!」
任務中だってのに緩い騎士団だよ。
――ん? 今、おかしな会話の流れがあったぞ。
「あれ……副団長って誰だ?」
「私よ! なによ今更!」
セピアが自分を指さす。
「俺はてっきり、ダイダスが副団長と思ってた」
「いや~、無理はありませんよ。セピアさんって頼りな――ぐはっ!?」
ユーフォスが致命の一撃を取られてダウンする。
「セピアちゃん。暴力はよくないよ…」
「ちょっとネリル、あんたも副団長って呼びなさいよ!」
「落ち着けって、セピア。副団長ってのは肩書じゃなくて、姿勢で示すものだよ」
いや〜、俺、良いこと言うようになったな。
「うっせぇ!」
「ぐはっ!?」
セピアから不条理な腹パンが飛んでくる。
こいつアグリアス以上に暴力的だ。
あいつもこんな奴を副団長に指名してるなんて、
どうかしてる。
「はっはっは、若いってのはいいねぇ」
こうして、時間とダイダスの酒が進んでいった。
✡
翌日の夕方、ようやく目的地のフロージア村に到着した。
豊穣の地を夕日が照らす。
本来、人々の往来がある中心部では、生き物の気配がまるでしない。
「本当に人っ子一人いませんね」
ネリルが怯えながら肩を狭める。
「確か、ジェーンが先に現着してるはず…」
俺は周囲を嗅ぎ鼻を利かせる。
「ちょっと、アンタなにしてんのよ?」
「ああ、俺、女の子の匂いならある程度離れてても追えるんだよ」
「えっ…」
セピアの顔が青ざめる。
「へぇ~、すごいですね! ちなみにどんな匂いなんですか?」
ユーフォスは興味津々に尋ねる。
「ジェーンは柑橘系の匂いがする。ネリルが鰹節でセピアが肉の脂っぽい匂――ぐはっ!?」
再びセピアの腹パンが俺を襲う。
「ガッハハハ、それはさぞいい匂いなんだろうな」
「ちょっとおっさん! 完全にセクハラよ!」
「かつおぶしってなんですか〜、気になりますよ〜」
まったく、賑やかな奴らだよ。
「こっちだ!」
ジェーンの匂いを辿ると、村の外れに人影が見えた。
「あっ! あれじゃないですか?
ジェーンさ〜ん!」
ネリルが駆け出した。
灰色のローブに赤い腕輪。
――まずい!
「ネリル、血徒だっ!」
次の瞬間、血飛沫が舞う。
ネリルの血を浴びた灰色のローブが赤黒く汚れる。
「う、うわぁぁぁ!」
「よせ、ユーフォス!」
ユーフォスが制止を振りほどきショートソードを掲げ突っ込む。
ザシュッ!
赤い刀が閃きユーフォスも切り捨てられる。
次の瞬間、セピアの目の前に灰色のローブが立っていた。
「クソッ!」
ダイダスがセピアを庇うように割って入る。
赤い刀はダイダスの心臓を貫いていた。
あまりにも一瞬の出来事で、誰も反応が追いつかない。
このままじゃ、皆殺される!
クソッ!
「う、うわぁぁぁ!」
セピアがレイピアを抜く。
ダイダスの体を死角に、赤い刀が突き抜け、ダイダスの背後にいるセピアを狙う。
セピアは咄嗟に体を捻じるが横腹を刀がかすめる。
「やめろ!」
俺は灰色のローブに突っ込みタックルする。
ガンッ!
――鈍い音がする。
なんだ、こいつの体、硬い。
直後、赤い刀が俺の首を捉えるが、首を撫でるだけで刃は届かなかった。
「――っ!?」
反応と共に灰色のフードがとれる。
地面まで垂れている長い黒髪。
凛として整った顔立ちの少女。
赤い瞳からは一切の感情を窺えない。
「なるほど、あなたが英雄リョウカですか」
澄んだ女性の声。凛とした立ち姿。赤い刀。
「お前は何者だ?」
「私は血冠の徒・第二位・ウリアナ・ベルベルト…」
「第二位……」
かなり上のポジションなのか?
それよりも早くみんなを助けないと。
直後、赤い刀閃が舞う。
しかし、俺に斬撃は届かない。
回避してカウンターで拳を突き出す。
クソっ、なんて身のこなしだ。まったく、当たらない!
セピアを横目で見るが、体が震え、膝を着いている。
「――刀が届かない? ならば!」
ウリアナは俺に攻撃が効かないと踏むと、セピアの方に飛びかかる。
――まずい!
「リョウカさん。拳の角度が違いますよ!」
次の瞬間、ウリアナが吹き飛ばされてく。
「ジェーン!」
最強の格闘家が血徒の前に立ちはだかる。




