臨時パーティー?
「リョウカさん。フロージア村の件、耳に入っていますね。すみませんが、先に調査に向かったジェーンと合流して共に調査をお願いします。
あと、オルトロス騎士団の副団長ら数名を同行させますね」
エアリー陛下は淡々と王としての役目を果たす。
俺は「御意に」とだけ返事をして、騎士団庁舎へ向かった。
実はジェーンも俺と同様にエアリー陛下の近衛兵となったのだ。彼女は元騎士団長アーサーと渡り合える唯一の人間。
彼女をエアリー陛下の護衛として城内で遊ばせておくのは勿体ないとの、陛下の意向もあり、基本的には遠征任務を任されることが多い。
かくいう俺も、既に王国を回す歯車の一部として組み込まれていた。
これも一つの居場所の形なのだとは思う。
南門の城壁に沿って建てられている木造ベースの騎士団の庁舎。
年季が入っており、木材にはエールの匂いが染み付いていた。
俺は腕輪が見えてないか、長い袖口を確認する。
無用な混乱は避けねばならない。
「よう、英雄様!」
庁舎に近付くと髭面の大柄の男が快活な笑顔で手を振る。
「あなたが?」
「あぁ、ダイダスだ。後ろの若人たちは右からネリル、ユーフォス、セピアだ。少しの間だが、よろしく頼みます」
ダイダスは深々と頭を下げる。
ネリルは気の弱そうな赤髪で痩身の女の子。ルビーの指輪を付けているから魔術師だろう。
ユーフォスはショートソードを腰に掛けた金髪の青年。俺が目新しいのか目を輝かせている。
セピアは黒髪で姫カットの女性だ。
レイピアにピチピチで軽装の鎧。
速攻型の剣士で、体つきは細身。サイズはDか…。
鋭い切れ目。英雄という肩書きそのものが気に食わない――そんな目だ。
「俺はリョウカです。今回の小隊のリーダーになります。命に関わりますので指示には従ってください」
「「はい!」」
ダイダスが俺を値踏みするような視線を向けてくるのが、少し気になった。
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俺たちは南門から出て南西のフロージア村を目指す。ここから丸二日も歩けば到着するだろう。
「リョウカ様。村人の失踪を発見したのは行商人です。既にいなくなってから数日は経過してるものと思われます」
無精髭を撫でながらダイダスが報告する。
「なるほど。ダイダスさんはこの件どう思います?」
「そうだなあ、人攫いの線はないか、老人なんて要らんだろうし。魔物の仕業か、はたまた別の思惑が働いてるか…今のところはなんとも言えません」
「ありがとう。参考になったよ」
「ね、ね、ね、リョウカ様って何人もの魔王軍幹部を撃退したのって本当ですか?」
突如、俺とダイダスに金髪の青年、ユーフォスが割って入る。
「いや、俺は何もしてないよ。全て仲間のお陰さ」
「ふーん。謙遜するのね」
セピアからの視線が痛い。なんか、少し昔のカサンドラに似てるな。
「ネリルさん、あまり顔色が良くないね」
冷や汗とこの匂い、低血糖かな?
「これを食べるといい」
俺はポッケに入ってたチョコレートをネリルに手渡す。
「あ…ありがとうございます」
ネリルはオドオドと頭を下げ、チョコレートをかじる。
「ふーん」
セピアがまた声を漏らす。ダイダスもそうだが、さっきから俺への視線が気になる。
なんか、やりづらいな。
――!? なんだ、微かに地面が揺れてる。
俺は慌てて背後にいたセピアの腕を引っ張る。
「きゃっ!?」
直後、巨大な蜥蜴の口が地面から飛び出し、セピアのいた場所に噛み付く。
「ちっ――砂蜥蜴か!」
ダイダスがメイスを腰から抜き、構える。
「おい、待て!」
セピアが俺の腕を振りほどき、砂蜥蜴の頭にレイピアを突き立てる。
ガキンッ!
しかし、鈍い音と共に砂色の硬い鱗に弾かれた。
砂蜥蜴はセピアに噛み付こうと口を開ける。
俺は咄嗟にセピアのマントを掴み引っ張る。
砂蜥蜴の口が空をきる。
「あわわわ…」
ユーフォスはショートソードを構えたまま後ずさる。
一方で、ネリルもテンパって援護どころではない。
彼女はたぶん炎魔法の使い手だ。
砂蜥蜴との相性はあまり良くなさそうだ。
けど、あの硬い鱗に物理攻撃は通らなさそうだ。
現状彼女の魔法が一番効果的だ。
「ユーフォスとセピアはネリルの詠唱の援護に入って。ネリルは完全詠唱で威力重視の魔法を放って。俺が囮になるから気にせず唱えろ!
ダイダスはユーフォスとセピアの隙をカバーしろ!」
俺は砂蜥蜴に詰め寄る。
砂蜥蜴が俺に噛み付く。
――ふっ、お前の攻撃なんて甘噛程度だ。
「ネリル今だ唱えろ!」
「で、でも…巻き込んでしまいますよぉ」
「大丈夫だ。お前のへなちょこ魔術なんて俺に効かない!」
「なっ、誰がへなちょこですか!
わ、わかりましたよ、どうなっても知りませんよ!
――炎炎燻り灰と化せ! 炎渦撃」
炎の渦が俺ごと砂蜥蜴を焼く。
「グギャァァァオ」
砂蜥蜴は俺を解放して地面へ潜る。
砂蜥蜴は地中を高速で移動し、
次の瞬間、ユーフォスの足元から爪が飛び出す。
「ダイダス!」
「あいよ!」
ダイダスはメイスを振るい爪の軌道を逸らす。
ユーフォスは間一髪、回避する。
砂蜥蜴は、そのまま地面へと潜った。
俺は慌てて、セピアに駆け寄る。
「へなちょこ、セピアの位置に魔法を撃て!」
「だから、へなちょこじゃないですって!」
ネリルの完全詠唱の炎の渦がセピア目掛けて放たれる。
「えっ、ちょっと、私に撃たないでよ!」
セピアは慌ててたじろぐ。
俺は即座にセピアをお姫様抱っこする。
「ちょっと、あんた、どさくさに紛れて何を!」
その瞬間、俺の足元から砂蜥蜴が口を開けて飛び出す。
俺はセピアを抱えたまま器用に砂蜥蜴の歯を足場にし、噛みつきを回避しつつ上空へ飛ぶ。
砂蜥蜴の勢いもあって、俺とセピアは上空に打ち上げられた。
砂蜥蜴が飛び出した位置に、事前に放っていた炎の渦がドンピシャで直撃する。
「ギャァァァオ!」
砂蜥蜴が怯む。
「セピア! 目を狙え!」
セピアは俺の意図を察して落下態勢からそのまま下にいる砂蜥蜴の右目にレイピアを突き立てる。
砂蜥蜴が右目の痛みと共に暴れ出す。
「ネリル! トドメ!」
「奔れ熱線、航路を焼き切れ! 翔炎」
炎のレーザーが走り、砂蜥蜴の頭部を消し飛ばす。
こうして臨時小隊、初めての戦闘は勝利に終わった。




