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せっかく授かったラッキースケベが思ってたのと違う〜授かった瞬間に裏切られた〜  作者: 那須 儒一
一章 王都編

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天頂トーナメント?

町民が忙しなく働く往来の中、アグリアスに先導され、俺は王城横の広場へ向かっていた。


朝から王都はやけに騒がしい。

この街に来てまだ日が浅い俺でも、胸がざわつく。

嫌な予感がするときほど、この街はよく動く。


ネコショウも「置いてくよ」と言わんばかりに尻尾を揺らしながら後をついてきている。


「おーい、アグリアスさーん。どこ行くんだ?」

返ってきたのは、

返事の代わりに鳴る鎧の軋む音だけ。


今朝の一件、まだ怒ってるのか…?


やがて彼女が、感情の読めない低めの声で告げる。


「今日は天頂トーナメントが王都で開催される。リョウカ、お前も参加せよとのお達しだ」


「天頂トーナメント?」


「最強を決める模擬戦と言っても差し支えないだろう」


「最強? 模擬戦? なんで俺?」


「何を言う。貴様はバルフォネアの英雄なのだろう」


「最強とか興味ないんだけど…」


目立つのは嫌いだ。

そもそも俺は安心できる居場所があればそれでいいのに。


「ふっ」

アグリアスが、ほんのわずか口元を緩めた。


「どうしたんだ?」


「そういうところが……リョウカの良いところなのだろうな」

……? よく分からんが、機嫌が直ったなら良しとするか。



王城の影に足を踏み入れた瞬間、空気が切り替わった。ここから先は、王都の表舞台だ。


王城横の広場に、白を基調とした長方形の建物が見えてきた。


中央の石畳をぐるりと囲むように観客席がせり上がっている。


広さはテニスコートほどだろう。

「へぇ〜、こんな場所があったんだ」


「ここはコルデオ。王都の闘技場で、天頂トーナメントや罪人の公開処刑に使われる」


「落差すごいな…」


祭りと処刑が同じ場所で行われる。

この国では、それが特別でも異常でもない。


視線を向けた瞬間、胸の奥がゾワッとした。

観客席の向こう、

歓声の中で、たった一人だけこちらを――見ている。


……目が合った。黄緑の瞳。カサンドラだ。

なんか、えぐいほど睨んでるんだが?


アグリアスとの件は、あくまで事故だ。

それでも、ラッキースケベに憧れていた過去の自分を呪いたくなる。

このスキルは、人間関係を壊す最悪の代物だ。


「なあ、アグリアスとカサンドラって姉妹なのか?」


「どうした、突然?」


「いや。昨日のこともあってさ、気になって」


「……ふぅ」

アグリアスは深くため息をついた。


踏み込むべき話題じゃなかったか、と一瞬だけ思う。

「……いや、無理に話さなくていいよ」


だが彼女は軽く首を振り、ゆっくりと口を開く。


「私たちは戦争孤児だった。血は繋がっていないが、小さな頃からずっと一緒だった。

途中、剣の才があると見出され、騎士養成学校に放り込まれ……そこからは訓練と任務の日々だ」


アグリアスの視線が遠くを見ている。


英雄や騎士になる前に、彼女たちは生き残るために剣を握らされた子供だった。


返す言葉を見つけられなかった。


「うにゃあん」

空気を察したのか、ネコショウがアグリアスの足に頬ずりをする。


アグリアスはネコショウの頭を撫で、柔らかい笑みを浮かべた。


「すまない、暗くなったな。……ほら、そろそろ始まるぞ」


一瞬の笑み。 

すぐに、いつもの騎士の顔に戻る。


彼女の視線の先、観客席の最上段には王様と王女様の姿。


王族が直に観戦する試合は珍しい。

この大会が、どれほど重要視されているかが分かる。


石畳の中央には、長いブロンドのウェーブを揺らす――バニーガール。

あれ、酒場のアップルパイの子じゃないか。


「さあさあ皆さん、五年に一度の天頂トーナメントの時期がやってまいりましたー!」


重かった空気が、歓声で一気に塗り替えられる。


声量どうなってるの?ってくらいに響き渡り、歓声が爆発する。


「進行は私、酒場の看板娘にして、結界術のエキスパート──メアリー・リリーが務めさせていただきます!」

結界術? あの子、ただのバニーじゃないのか。


「ルールは簡単。相手を降伏させるか気絶させれば勝ち。殺しは厳禁、それ以外はなんでもありです!」

観客が沸く中、メアリーが声を張る。


「それでは最初の対戦カード!

千年間誰も倒せなかった魔王軍七幹部の一人。鉄血のバルバトスを仕留めた、今回の優勝候補──西の英雄、デュナン・レオンハート!」


「きゃあああああ!!」


歓声の質が違う。 

期待と憧れが、遠慮なくぶつけられている。


黄色い声援が揺れる。

深緑の髪、アマイマスク、左目の泣きぼくろ。生意気なくらい整った顔立ちだ。


並び立つ資格がないと、はっきり思った。


「そしてもう一人は……先日、魔王軍七幹部の一人、災禍のリザリーを撃退したバルフォネアの英雄……えー……変態野郎です」

英雄って、

もっとマシな呼ばれ方をする生き物じゃなかったのか。


会場がざわつく。

笑いと困惑が入り混じった、居心地の悪いざわめき。


あっ、そうか。王女様のスカートめくり騒動で名前名乗ってなかったわ。

とはいえ悪意ありすぎるだろ王様。


「ぷっ……貴様にピッタリの名前だな」

隣のアグリアスが吹き出した。


「ほら、前に出ろ」

ため息をつきつつ、重い足を引きずり試合会場へと向かう。


逃げ場はない。

観客の視線が、背中に突き刺さる。

――どうやってこの場を切り抜けよう…。

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