喪失?
夜更け。
――アグリアス、ミザリア、ネコショウを引き連れて王城に帰還する。
ガーザックについてタチアナからも話を聞きたかった。なんせ、女神だ。彼女なら何か知ってるかもしれない。
そう思いひとまず自室に向かった。
部屋の扉を開けると――
「おにいちゃん!」
花柄の目隠しをした、アリスが飛び込んできた。
「もう、どこいってた? あたしをおいてくなー!」
アリスはブーブー怒っている。
「わりい、わりい」
軽くアリスの頭を撫でてやる。
ベッドに横たわるタチアナに目を向けると、頬が痩せこけて、虫の息だ。
「パン…骨付き肉…スープ…ケーキ…」
そういえば一日以上ほったらかしだったな。
てか、女神って餓死するのかな。
「おにいちゃん…?」
低く呟きながら、アグリアスがゴミを見るような目でこちらを見ている。
アグリアスには、タチアナの件は伝えてたけど、
アリスのことを知ってるのはエアリー陛下だけだった。
「それに、えらくスタイルのいい女の人も連れ込んでるのね。あなたの趣味にとやかく言うつもりはないけど、さすがに小さな子に目隠しさせるのは、倫理的にどうかと思うわよ…」
ミザリアさん、目隠しは人類の平和のためであって、俺の趣向ではない。
いや、目隠し自体は好きなんだ。
「リョウカ様……」
ネコショウ、せめてなにか言ってくれ。
リアルでやばいやつに見えるじゃん。
✡
皆に一通り経緯と事情を説明した。
もちろん転生者でラッキースケベのことも話した。
アグリアスには過去に伝えてたけど……。
ちなみに、タチアナを城に置く流れでエアリー陛下にも事情を説明済みだ。
「ラッキースケベってなんですの?」
ミザリアさんそれはごもっともな質問だ。
「まあ、なんというか、因果を捻じ曲げる力だ」
嘘は言ってない。
「女の子の痴態を見たり、
事故を意図的に引き起こして体に触れたり、
好意を寄せさせたり、
下着を覗いたり、
胸を揉んだり、尻を触ったり、唇を奪ったりできる能力です!
しかも、あくまで偶然や事故を装い、俺は悪くないんだとか、不可抗力なんだ、とか言い訳して女性の体を弄ぶ最低で卑劣で人外な者にこそ相応しいスキルなのです」
突然、タチアナが畳み掛けるようにラッキースケベの内容を説明しだした。
「あ、いや、その……」
実は、過去にアグリアスに説明した時も、因果を捻じ曲げるとか格好良く説明した手前、恥ずかしい。
そして、全て事実が故になにも弁明ができない。
女性陣の顔がみるみる青くなり、引き攣っていくのがわかる。
アグリアスとミザリアは無言でアリスの手を引っ張りネコショウと共に部屋から出ていった。
あれ、これからのこととかカサンドラのことを
話すんじゃなかったのか?
あれ、これ俺が悪いのか?
――いや、俺が悪いか。
これほどラッキースケベを呪った瞬間はなかった。
本当に転生した時の俺を殴りたいよ。
そして、部屋に残されたタチアナのキメ顔がうぜえ。
「タチアナ、しばらく飯抜きな!」
「そんな、リョウカ様…ご無体な!
私は女神としての説明義務を果たしただけで。
私から食事をとったら何が残るというのですか!」
タチアナ…こいつ、今までで一番感情的になってるな。どんだけ飯が大事なんだよ。
「なら、俺の言うことをなんでも聞くな?」
「はい、ご飯さえいただけるなら、なんなりと…」
「なら、俺に膝枕をして頭を撫でてくれ。
傷付いた心を癒してくれ!」
「きもっ…」
タチアナはバサッと切り捨てる。
「なら、タチアナ抜きでステーキでも食べに行こうかな」
「ちょっとリョウカ様、冗談じゃないですかぁ。
私も連れてってくださいよ〜」
もう、こいつのキャラどうなってんだよ。
タチアナは俺の頭を強引に掴み膝に乗せる。
そして、女神の慈愛を持って優しく撫でてくれた。
「ほらほら、私の膝でよければいくらでも貸しますよ。よし、よ〜し、辛かったね〜」
「うん。ぼくちん。今までツラかった。よちよちして……あっ」
扉の方に視線をやると、ネコショウが涙目で立っていた。
「私、なにか誤解なんじゃないかと、そう思って戻ってきましたのに。
リョウカ様はそんなお人じゃないと信じてたのに……失望しました」
ネコショウは声を殺し、泣きながら部屋を飛び出した。
ふと、タチアナを見上げると、ほくそ笑んでるのがわかる。
こいつ、わざとやりやがったな。
この日、俺は大切なものを失った。
今話は過去一で書いてて楽しいギャグ回だった。




