輪?
アルバ深林奥地。
――濃い緑の湿った臭いに混じって、灰が舞っている。
ミザリアが制圧した魔術師に何か問い詰めている。
灰色のフードが落ち、黒髪にそばかすが目立つ女が、ミザリアに気圧されている。
「あの炎の壁、マナの感じからしてあんたの魔法よね? なんで二種類の魔法を同時に唱えられるのよ!」
赤黒い炎の壁と火の鞭。それが本当なら確かに彼女は二種類の魔法を唱えていることになる。
女が笑った。
「ふふっ……あの黒い炎はガーザック様のお力。我が魔法など足元にも及ばない……」
なんか微妙に話が噛み合ってないな。
ボンッ!
直後、俺の前で何かが爆ぜた。鉄臭い匂いと生温い液体が顔にかかる。
視界を正面に向けると、倒したはずの灰ローブの敵が肉塊になっていた。
「あああああ…! ガーザック様、おやめください! 私はまだ負けておりませぬ。戦う意思も――」
ボンッ!
向こうで女の魔術師も体が弾けた。
周囲に散らばった肉片、臓物、血、骨が突如蠢きだした。
排水口に吸われるように、赤い腕輪の中に消えていった。
吐き気を覚える暇もなかった。
「なんだ……なにが、どうなって……」
俺は赤い腕輪を持ち上げる。金属質の腕輪が赤く鈍色の輝きを放っている。
この紋様…冠か?
紋様を見ていた瞬間手が滑り、腕輪が落ちかける。
「っと!」
慌てて掴んだ瞬間――カチッ。
小気味のいい音と共に俺の右手にはまる。
……あ。
「リョウカ! 赤い腕輪が落ちてるだろ!? それには触るなよ!」
アグリアスさんもう遅いです。
「リョウカ様! 助かりました……あっ……」
美少女モードに戻ったネコショウがこちらに駆けてくる。
……そして、俺の右腕に輝く赤い腕輪を認める。
「アグリアスさん……」
恐る恐る振り返り、アグリアスとミザリアに右手首が見えるように腕を掲げる。
「あっ……!」「ああっ!?」
二人して大声を上げる。
「あんた、何やってんのよ!」
ミザリアが慌てて詰め寄る。
「はまっちゃった……てへっ!」
「てへっ! じゃない、貴様、事の重大さが分かっているのか?」
アグリアスも物凄い剣幕でこちらに詰め寄る。
正直、あんまり分かってない。
「いい、リョウカさん!
その腕輪を着けると言うことは暴君ガーザックの眷属になるということなのよ!」
「正直、暴君のことも、どれだけヤバいかもよくわからん」
「先ほどの血徒の末路を見ただろ。その腕輪は契約みたいなものだ。暴君ガーザックのスキルを得られる代わりに、敗北したら死ぬのだぞ!」
アグリアスは俺の胸ぐらを掴む。
「アグリアス……くるじいって……」
「アグリアスさん……それくらいにして下さい。こうなった以上はどうしようもありません」
ネコショウが間に入って留めてくれた。
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女魔術師の死と共に赤黒い炎の壁は消え去っていた。
とりあえずはネコショウとミザリアに、ここに来た経緯を伝えた。
「まさか、カサンドラさんがリョウカさんを狙うなんて……」
ミザリアも驚きが隠せない様子だ。
「しかも、その血徒とかいうメンバーの可能性が高いんですよね?」
ネコショウの血の気が引いている。
「ネコショウ、退魔の剣はカサンドラに渡したのか?」
「は……はい。三カ月ほど前にどうしても貸してほしいと尋ねて来ました。
それで、まさかリョウカ様を殺そうとするとは……申し訳ございません……」
ネコショウはポロポロと泣き出した。
ネコショウの頭を軽く撫でる。
「ネコショウを泣かせやがって。これで、ますます、カサンドラにお説教しなきゃいけなくなったな」
「ふっ、そうだな! 理由がどうであれ、私に何も相談せぬとは、折檻が必要だ!」
アグリアスもいつもの調子だ。
ほんの少しだけ、折檻の内容が気になったけど…。
「ま、あなたたち二人がいいなら、決定に従うわよ。付き合いが一番長いのも、殺されかけたのもあなたたちなんだから」
ミザリアはどうでもよさそうに、両手を広げる。
「いや、ネコショウを泣かせたんだから、ネコショウも被害者だ! ここだけは譲れん」
「もう、わかったってば……」
ミザリアは面倒くさそうに顔を背ける。
「ふふっ、なんだかこの感じ懐かしいですね」
ネコショウのこぼれるような笑みにアグリアスもつられる。
「そうだな。仲間の問題でもあるし、久々に皆で集まろう!」
アグリアスの想いに呼応するように、皆で頷く。
最悪な状況が、仲間を繋ぎ合わせていることが、少し不思議だった。




