血徒?
バルフォネア王都から北東に位置するアルバ深林へアグリアスと向かう。
ネコショウを探して、退魔の剣をどうしてカサンドラが持っていたのか訊かなければならない。
半日ほど歩いたところで目的地に着いた。
アルバ深林、かつて魔女が住んでいたとされる地。
生い茂る木々が光を遮る。
「どうしたリョウカ? ニヤニヤして」
「顔に出てたか……なんだか懐かしいなと思って。
屋敷を買ってすぐに料理対決をしたの覚えてるか?」
「ああっ、そんなこともあったな!」
「その時、ミザリアとアルバ深林に食材を取りに入ったんだ」
「そうだったのか。確かにここは緑の宝庫だからな。だが、二人の料理って……いや思い出すのは止めよう……」
どうやらミザリアの鍋料理はアグリアスにかなりのトラウマを与えていたようだ。
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「なんだ、あれは!?」
アグリアスから緊迫した声が飛ぶ。
目を凝らすとアルバ深林奥地で赤黒い火の手が上がっている。
練り上げられた炎は城壁のように連なり、俺たちの行く手を阻んでいる。
――いや、これはむしろ、行く手を阻むより何者かを囲っているのか?
「なんだか嫌な予感がするな……」
「もしかしたら、血徒の奴らか?」
「けっと?」
「ああ、暴君ガーザックを信奉する集団だ。彼の者の王政を復活させようと目論んでいる」
「王政復活って、そんなことできるのか?」
「さあな、事実はどうあれ信者たちは本気だぞ。あの炎の壁はかつて暴君が大規模な魔女狩りをしたときに使用していた魔法に似ている」
「ともかく、急ごう。ミザリアたちがいるかもしれねえんだろ?」
「そうだな!」
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赤黒い炎の壁。
間近で見るとその巨大さがわかる。
「これ、王都の城壁よりも高いな」
「ああ、この炎は標的を中心として、どんどん縮小していく。裏を返せば、この炎は“生きた獲物”しか閉じ込められない」
「なら、さっさと助けよう。アグリアスお前はここで待っていてくれ、俺が中に入って――」
そこまで言いかけたところで、アグリアスが俺の唇に人差し指をあてる。
「その後、どうやって中の者を連れ出す?」
「そ、それは…」
確かに、先のことは何にも考えてなかった。
俺だけ通り抜けられても、中の標的を助けられなければ意味がない。
「それに、お前は私を舐めすぎだ」
「えっ…?」
そう言葉を漏らした瞬間、アグリアスが聖剣クラリウスを構える。
「覇光斬・邪気退散!」
アグリアスが剣を振るうと赤黒い炎の壁に穴が空き通路が拓ける。
「私も、この一年で成長したのだぞ!」
「頼もしい限りだよ」
俺とアグリアスはすぐさま炎の通路に飛び込む。
「この壁、かなり分厚いな」
軽く二十メートルはありそうな厚みだ。
しばらく走ると、大きな化け猫が見える。
明らかに何者かと戦闘している。
「ネコショウ!」
「リョウカ、急ぐぞ!」
近付くとミザリアもいる。
灰色のローブを被った魔術師と戦闘している。
あの煤けたローブ…カサンドラが着てたやつと同じだ。
「ミザリア!」
アグリアスが魔術師へと距離を詰める。
「ちっ、どうやって壁を…炎魔法・火鞭!」
魔術師が持つ杖から炎の鞭が放たれる。
「はっ!」
アグリアスは聖剣クラリウスでいなす。
「覇光斬・邪気退散!」
アグリアスが剣を軽く振るうと炎の鞭が掻き消えた。
「な!? 反魔か!」
アグリアスはそのまま動揺する魔術師を殴り倒した。
「すごいな、アグリアス。魔法というか、マナそのものを打ち消すのか…一年前と比べて強くなったな」
あれ、もしかしてあの技って俺のラッキースケベも打ち消すんじゃ…。
「この技は、退魔の剣から着想を得てな、
対リョウカ用に編み出したんだ!」
「なんで、味方の対策をしてんだよ!
俺を斬る気、満々じゃねえか」
…と、そんな事をしてる場合じゃない。
ネコショウも助けないと。
ネコショウはチョロチョロ動き回るローブの奴と戦っていた。
敵の両手には小太刀ほどの長さの赤い爪が輝いていた。
「うにぁん!」
ネコショウの渾身のネコパンチは躱される。
「ネコショウから離れろ!」
俺の声に反応した。灰ローブの敵がこちらへ詰めてきた。
「俺だって成長したんだぜ!」
赤い爪が不自然に逸れ俺の目の前で空振る。
ラッキースケベとの合わせ技だ!
態勢を崩した敵の顎にジェーン直伝のアッパーを見舞う。
「ぐっ……」
灰ローブの敵の体が軽く浮き地面に倒れた。
アグリアスが魔術師を既に無力化してるな。
そんで、ミザリアが珍しく、声を荒げて詰め寄っている。
…さて、俺もこいつを抑えとくか―!?
――次の瞬間、破裂音と共に赤に染まる。




