旧友?
最悪の光景を見て、
エアリー陛下の目に涙が浮かぶ。
「リョウカ…やっぱり幼い子が好きなんですか。
だから、最近、私に対してそっけなかったのね。
もう、貴方から見たら私は年増…っ」
なんか、斜め上の勘違いをされているけど。
エアリー陛下は声を殺して、泣きながら走り去っていった。
さて、どう誤解を解いたものか…。
「なんです。朝から騒々しい」
タチアナが口に詰められたタオルを、ぷっと吐き出す。
「それで、リョウカ様…これはどういう状況ですか?」
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…かくかくしかじかで一通り状況を説明する。
「それで私にどうしろというのです? 魔王軍幹部なら今すぐ殺しますか?」
「ひっ…!?」
アリスは低い悲鳴をあげ、俺の背後に隠れる。
「おい、タチアナ!」
「ま、冗談です。女神が異世界に干渉することは理を乱すとして、本来は禁じられてますから」
「顔が真顔すぎて冗談を言ってるように見えねえよ」
女神タチアナは俺の因果なスキルのせいで、こちらの世界に連れてきてしまった。
しかも彼女の話では来る方法は知っているが、戻る方法は知らないとのこと。
「お兄ちゃん…私これからどうしよう。行くところもないし…あてもないし」
「仕方ない。アリス、少し待ってろ!」
居場所が無い辛さは俺が一番よく知っている。
どうとでもなれ。
「リョウカ様、お待ち下さい!」
やっぱりタチアナは全てお見通しか。
「ついでに朝ごはんを用意して下さい。至急!!」
「なんだ、そんな要件か…」
まったく、ニート生活が続くと、態度がでかくなるから厄介だ。
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その後、エアリー陛下に事情を説明して誤解を解いた。
幸いにも彼女も一度、アリスと対峙していたため、五時間ほどで誤解は解けた。
「おい、アリスここに住んでいいぞ」
「え? いいのか?」
「まったく、貴方は…器が大きいのと、無謀なのは違いますからね。リザリーの件があったのにまだ懲りてないんですか?」
タチアナが大量パンを頬張りながら釘を刺す。
相変わらず凄い食欲だ。
朝の分を食べ逃したと言い訳しながら、四十個目のパンを口に運ぶ。
女神は異世界の歴史を情報として得られるらしい。
俺の苦い失態も彼女には筒抜けだ。
「懲りてないよ。俺のスタンスは変わらない。居場所が無いやつは俺が居場所になる。それだけだ」
「お兄ちゃん…」
アリスは声を潤ませる。
「言っていることは立派ですが、その後のことはちゃんと考えているんですか?
万が一、彼女が被害を及ぼしたらとか、死人を出してしまったらとか?」
いちいちごもっともだな。
「その時は全力で止めるし、お説教してやる。
アリスはもう悪いことはしないよな?」
アリスは激しく首を縦に振る。
去年、俺に植え付けられた恐怖を覚えているようだ。
「まあ、貴方の選択に口を出すつもりはありませんが」
充分、口出ししてる気もするが…。
そう言ってタチアナは五十個目のパンを平らげた。
「とりあえずアリス、これをつけてろ」
アリスに花柄の布地を手渡す。
「兄ちゃん。みてもいい?」
「ああ」
アリスは俺たちに配慮して窓際を向き目を開く。
「うわぁ! キレイ!」
花柄の布地をじっくりと観察する。
「ほら、着けてやるよ」
アリスから布地を受け取り彼女の目を覆う。
「ありがとう、兄ちゃん!」
アリスが振り向き様に抱きついてきた。
「ロリコン…」
タチアナがボソッと悪態をつく。
「おい、聞こえてるぞ!」
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午後からは哨戒任務で、王都周辺を見回りしていた。
これは俺が進んでエアリー陛下にお願いしてやらせてもらっている。
さすがに、何もせずにお金だけ貰うのは気が引けるからな。
近衛兵といってもエアリー陛下には既に手練れの護衛がいる。俺なんかよりも頼もしいやつだから安心だ。
人気のない街道をしばらく歩いていると、灰色のローブを深く被った冒険者が目の前から歩いてきた。
顔がよく見えないが、体格的に女性か?
すれ違いざまに俺の鼻があることに気付く。
振り向いた瞬間にローブ姿の女が剣を抜き俺の首を捉える。
俺は間一髪のところで飛び退き、かわす。
彼女が持つ剣に見覚えがあった。
「おい…それ、退魔の剣じゃないか! それにその匂い!」
ちっ…!
ローブの女は舌打ちだけ残し走り去っていった。
間違いない。俺が仲間の匂いを間違う筈なんてない。苦楽を共にした仲間の匂い。
どうして…お前が…。
彼女は確実に俺を殺す気だった。
俺の中で日常が崩れ去る予感がした。




