それぞれの空?
第二部 居場所を奪われた者たちのと戦いの物語
一年後の世界になります。どうぞお楽しみください!
――僭王歴二百六年。
一年後、バルフォネア平原での戦争は日常に埋もれ、過去と成りつつあった。
俺はエアリー陛下により近衛兵に任命された。
今日も城の中をパトロールしているが、
実質は肩書だけで、城をブラブラ、ゴロゴロしているようなものだ。
彼女のご厚意により、城に俺専用の部屋もある。
「あっ! リョウカ! ここにいらしたのですね」
城の廊下を歩いているとエアリー陛下が駆け寄ってきた。
「これは、これは陛下…本日はご機嫌麗しゅう」
俺は左手を腹の前に、右手を腰に当て、貴族礼の作法を守り軽く頭を下げる。
「ふふ、そんなに堅苦しくしなくていいんですよ。私とリョウカの仲じゃない!」
エアリーが女王に即位して、早くも半年が経つ。
彼女は物怖じしない性格になった。
――それに、少しだけ大きくなり大人びた気がする。
…どことは言わないが。
「いえいえ、俺だけ無作法ってのも他の者に示しがつきませんから…」
「あら、そんなことでしたの? それなら早く王配になっていただけたら済む話ですよ!」
エアリー陛下は嬉々として俺の腕に手を絡ませてくる。
「ちょっと、陛下、おやめください…」
「あら、冷たいのね。昔は私のドレス姿を見てはぁはぁしていたのに…」
「ちょっと! 誤解を生みますから…」
そう、俺は完全に手玉に取られている。
まるで、熟年カップルが相手から結婚を迫られるような圧を感じる。
「コホン…陛下。そろそろお暇しませんと会合に間に合いませんよ」
エアリー陛下の後ろで高齢の白髪男性が咳払いをする。
髪型はバッハみたいで、一見、気弱そうに見えるが、エアリー女王が治世をつつがなく行えているのも、このバッハ…いや、サルベリアの手腕によるところが大きい。
「それではリョウカ様…失礼致します」
「ちょっと、サルベリア…まだ話の途中なのに」
半ば強引にエアリー陛下は連れられていった。
ふぅー、どことなく城の中が息苦しく感じる。
いや、お金も貰えて、こんな豪勢な環境に住めているんだ。文句は言えない。
「あの…リョウカ様…これ、よろしければ…。
あの、私、一生懸命作ったんです!」
赤毛のメイドが頬を赤らめながら、俺にバスケットを手渡してくる。
どうやら中身はサンドイッチのようだ。
「うん。ありがとう。あとでいただくよ!」
「きゃ! ありがとうございます!」
メイドは今にもスキップしそうな勢いで去っていった。
最近ちょくちょくこういう事がある。
近衛兵と英雄という肩書。
それに身なりまで整えれば、そりゃ目も向けられる。
最近になって、ようやく気が付いた。
これが大人になるということなのだろうか?
でも、本当の俺はそんなに大層な人間ではない。
そう、皮肉が頭を過ぎりつつも知ってほしいと思う自分がどこかにいるのも事実。
「あら? リョウカさんじゃありませんか。相変わらずモテモテですねぇ」
背後から強かな声が凛と張る。
「よう、アグリアス騎士団長殿。その気色の悪い話し方はなんだ?」
「いえいえ、私も品性を身につけようと思いまして…」
アグリアスは一年前と違い、後ろで髪を結い編み込むようになった。彼女も一段と実り、少しは落ち着いた雰囲気になってきた…気がする。
「その話し方を聞いてるとカサンドラを彷彿とさせるな」
俺は言った後、しまったと思った。
「カサンドラは…」
急にアグリアスは言い淀む。
そうだった……こいつの前でカサンドラの話は禁句だったな。
アグリアスは俯き視線を逸らす。
「わりぃ、空気を悪くしたな。
――お詫びに今晩、飯でも食べに行かないか?」
「ほう、リョウカも随分、女慣れしてきたものだな。これはさぞお城でランデブーしているに違いない」
「なんだよランデブーって。どこでそんな言葉覚えたんだ」
「…リョウカは私が初めに見つけたのに…」
アグリアスがぼそっと何かを呟く。
「…ん? なんて言ったんだ」
「ふん。なんでもない。今夜は見回りをせねばならないからこれで失礼する!」
アグリアスはそう言って去っていった。
こころなしか鎧の擦れる音が大きく聞こえた気がした。
「なに怒ってんだ? 変なやつ…」
再び見回りを続けているとメイドたちが妙な噂話をしているのが耳に入る。
「ねぇねぇ、私も聞いてしまったんだけど…」
ヒソヒソ話をするように二人のメイドの会話が耳に入る。
「聞いてしまって、なんの話?」
「あの、夜な夜な城の中で女の子の笑い声が聞こえるってやつ」
「えっ、あんたも聞いたの? ホントに怖くて夜中は出歩けないわよ」
――女の子の笑い声?
少し引っかかるな。どうせ、アイツのせいで夜はあまり寝付けないから今晩あたり見回りをしてみるか。
ここにいる理由を、俺はまだ自分でうまくは説明できない。
窓から見える夕日を眺め、少しだけ溜息をつく。




