夜伽?
町の喧騒が静まり返った頃、俺とアグリアスは一つの問題に向き合っていた。
そう──寝床問題だ。
アグリアスのベッドは諸事情によりネコショウの胃袋へ吸い込まれ、現在この家に寝具という文明は存在しない。
ここで初めて、今日の緊張が現実的な問題に変わった。
「アグリアスさん、どこで寝ましょう?」
「な、なによその言い方……まるで一緒に寝るみたいじゃない」
「そ、そういう意味じゃないって!?」
軽く混乱したまま、リビングで丸くなって寝ているネコショウを寝室へ運ぶ。
「ふぎゃっ!」
俺は寝室の床に横になり、ネコショウを枕代わりにした。
アグリアスは少しだけ距離を置き、壁際に腰を下ろす。
窓から漏れる月明かりが、彼女の姿を淡く照らしていた。
昼間とは違う、静かな時間が流れ始める。
アグリアスの視線が、ひどく真剣にこちらを捉えている。
「リョウカ……お前は何者なんだ?」
「今さらその質問? じゃあ自分語りでもします?」
「違う。ただ……お前の“特殊な才能”が、気になって」
……やっぱり気づいてる? ラッキースケベに?
核心に触れられそうで、背中が強張る。
「特殊な才能…」
「ああ。お前は変態で気持ち悪くて、その……変態だが」
——なんで二回言った?
「けど……なぜか人を避けているように見える。理由を知りたかっただけだ」
その声音には、ほんの少しだけ寂しさが混じっていた。
責めているわけではない。
むしろ、置いていかれることを恐れているように聞こえた。
「どう言えばいいか……」
ここで下手に話せば、チートスキルの話題に直通する。
前世、転生、ラッキースケベ……全部アウト。
俺がラッキースケベを望んで授かったとしれば彼女は幻滅するだろう。
ここにきて、一人になることへの恐怖が再び襲ってきた。
思考が巡っていると――
「……私が信用ならんか?」
ぽつりと落ちたアグリアスの言葉が胸に刺さる。
これは、踏み込まれたくない話だ。
「いえ、違うよ。ただ……」
言葉を選ぶ。
「……俺と関わると、碌なことにならない」
「それは……なにかの比喩か?」
「いえ、文字通りの意味で」
「私は、理由も分からず距離を取られるのが苦手なんだ」
アグリアスはふいに立ち上がり、俺の隣に移動して正座した。
「ちょ、どうしたんだよ急に」
困惑する俺の右手を、
アグリアスは両手で包み込むように握った。
温かい。
その温もりに、胸が少しだけ締めつけられる。
避けてきた距離が、強制的に縮まった。
「……ほら。触れたぞ」
月明かりに照らされる横顔は、
どこか優しく、どこか頼もしい。
普段のツンとは違う、柔らかな気配があった。
まずい……ラッキースケベが発動する……!
──発動しない。
あれ?
むしろ、これがラッキースケベ扱いなのか?
……いや、自分でも分からない。
ルールが、少しだけ揺らいだ。
✡
翌朝、
ぼんやりと目を開ける。
目を開けた瞬間、
アグリアスとの近すぎる距離に息を呑んだ。
えっ、何があった?
これ、どういう状況?
記憶と現状が、噛み合っていない。
状況把握に思考を割かれていたその瞬間。
アグリアスの青い瞳が静かに開いた。
「あ……起き──」
「なっ……貴様ァァァァ! 何をしている!!」
アグリアスは一瞬で戦闘態勢に入り、
顔を真っ赤にして飛び起きた。
「ち、違う……俺は、何もしてない」
「そんな言葉、誰が信じるものか!
……やはり、貴様は救いようのない変態だな!」
右ストレートが唸りをあげ、
俺の頬に深く突き刺さった。
「ぐはぁっ!!」
結局、説明する前に結論は出ていた。
──なぜだラッキースケベよ。
アグリアスの攻撃だけ、なぜ回避判定がない!




