溶解vs軟海?
戦場の最前線にて、ゼリー状の不可思議な半魚人ウェルマーに対して、
――ジェーン、ミザリアが対峙していた。
「…ミザリアさん、こいつ、どうやって倒しましょう」
ジェーンの最初の頃の勢いはすっかり消沈していた。
「物理が効かないのはジェーンとは相性が悪いわね…。それに、私の魔法って単体向けの火力って低いのよね。かと言って全力を出すと仲間もろとも溶かしてしまうだろうし」
「さらっと恐ろしいこと言ってますよ」
苦笑いしながら、ジェーンがツッコむ。
幸いにも、状況は二対一だった。
戦場の雑兵はジェーンに脅えてこれ以上は近寄ろうとはしない。
「来ないなら…こちらから行く…」
突如、ウェルマーの体が液状化してジェーンに纏わりつく。
「う、うわっ! き、気持ち悪いです――ぐ、がばば――」
ウェルマーの身体は、ジェーンをすっぽり覆い、半透明のゼリーの中で苦しむ彼女の姿がミザリアの瞳に映る。
「ジェーン!!
――くっ、ジェーンがアイツの中にいたんじゃ魔法なんて……ん? もしかして、イケるかも」
「暁に瞬く昏くらき星―終焉、死滅、輪廻、旭日―」
ミザリアはジェーンが中にいるのにも関わらず、詠唱を始めた。
「まて…なにしてる…おでの中に…女…いるぞ…」
ウェルマーはカタコトで必死に自身の体内に捕らえたジェーンの存在をアピールする。
「大丈夫よ。ジェーンに熱が届く前にアナタが先に死ぬでしょ? 熱魔法・黒死球」
突如、平原上空に黒い太陽が出現した。
黒陽を浴びた者は、たちまち黒い炎に焼かれていく。それは炎というより、存在そのものを削る熱だった。
「ぐぎゃぁぁぁ…」
ウェルマーがたまらず悲鳴をあげる。
「この女…解放して…逃げる…仲間に…焼かれるがいい」
徐々に体が溶けながらも、ウェルマーは形を変え、体内のジェーンを開放して、黒い太陽から逃れようとする。
――が、しかし、
「なんで…動けな…まさか…この女…」
ウェルマーの体内に取り込まれた、ジェーンが内側から、ゼリー状の体を掴み、踏ん張り、ウェルマーの動きを抑制していた。
筋力で無理やり凝固させている。
「この女…なんて…馬鹿力…ぐ、ぐわぁぁぁぁ!」
既にウェルマーの体の主導権はジェーンにあった。
そのままミザリアは魔法の出力を維持し続けた。
そして、ジェーンに熱が届く前に魔法を中断する。
「はぁはぁはぁ…ミザリアさん…ホントに無茶をするんです…から…」
ようやく呼吸ができるようになったジェーンはウェルマーみたいな喋り方をしながら膝で息をする。
ジェーンの身体には、微かに薄ピンクのゼリー状のモノが残されていた。
それを一瞥してから、ミザリアが軽く肩をすくめる。
「ウェルマーの体が断熱性でよかったわね。どうせあのままだったら、窒息してたんだから一か八か試してもいいじゃない?」
ミザリアの悪気のない笑顔にジェーンの顔が引きつる。
「私、その内、アナタに殺されそうな気がします…」
二人が戦闘後の余韻に浸っていると残ったゼリー状の破片が集まり膨張していく。
「まさか、まだ死なないの!?」
ミザリアが反応した直後、ウェルマーが巨大な蛙のような姿へと変化する。
大きさはネコショウの化け猫モードと同じぐらいだ。
「まさか…これが本来の姿ですか?」
呆気に取られるジェーンを前にウェルマーがミザリアへ舌を伸ばし彼女の体を絡め取る。
「お前…食べれば…おでの…勝ち…」
ミザリアは一切の焦りも見せずに、長い舌に引っ張られウェルマーの体内に取り込まれる。
半透明の身体にミザリアの姿が透けて見える。
食べてしまえば勝ち。
それ以上の思考は、ウェルマーにはなかった。
「ミザリアさん! はぁぁぁぁ!」
ジェーンがミザリアを助けようとウェルマーの丸々肥った腹に拳を打ち込む。
――しかし、相変わらず威力は殺され、ウェルマーは微動だにしない。
「お前…馬鹿…頭…悪い」
ウェルマーはジェーンを見下し罵る。
「くそっ!」
ジェーンの腕はウェルマーの腹に引っ付いて離れなくなる。
「特別に…俺の中で…この女が死ぬとこ…見せてやる…そしたら…絶望する…お前も…食べてやる」
ウェルマーは卑しい笑みを浮かべジェーンを見やる。
「くそっ! くそぉぉぉぉ!」
ジェーンが涙をこぼし、歯を食いしばる中――、
「どちらかというと、バカはアナタよ?」
ウェルマーの体内からミザリアの声が聞こえた気がした。
「――熱魔法・熱叫」
ウェルマーの体内でミザリアが赤く瞬く。
「がぁぁぁぁ…体の中が…焼ける…は、吐き出さねば…」
「私の方が力が上なのですよね?」
ジェーンはウェルマーの腹に両手をつき、
腹の上で逆立ちする。
そして、器用に両足でウェルマーの口が開かないように挟む。
抵抗は、そこで終わった。
ウェルマーは、最後の一欠片まで内側から焼き尽くされた。




