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せっかく授かったラッキースケベが思ってたのと違う〜授かった瞬間に裏切られた〜  作者: 那須 儒一
五章 奪還編

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決戦前夜③?

宿の前にジェーンが立っていた。


「あれ…こんなところでなにをしてんだ?」


ジェーンに近寄ると、「う、うっぷ…」

突然、えづきだした。


「え、ちょ、ちょっと…大丈夫か?」


「ごめんなさい…それ以上は近寄らないで下さい…」

彼女は吐き気をこらえながら手を前にだす。


「もしかして…いつもの生理現象か?」


「リョウカさんは悪くないんです。どうしても近寄られると気分が悪くなるんです」

生理的嫌悪感。正直、その反応が変に罵られるより一番傷付く。


天頂トーナメントもこれで、俺の優勝が決まったんだ。


「もしかして、俺ってジェーンの唯一の天敵なんじゃないのか?」


「ふふ…確かにそうかも…知れませんね」

彼女は口元を拭いながら、なんとか笑ってみせる。


「明日はよろしくな!」


「はい! 皆さんの恩義には死んでも報います!」


ジェーンの言う「死」は重すぎる。彼女はこれまで誰よりも経験してきた言葉だ。


「ジェーン、お前も俺たちの仲間だ。だから、明日はみんなで生きよう。そんで最後には笑おう」


自分でもフラグ臭いセリフだとは思うが、今はこれで良いのかもしれない。


「そうですね。今からまだ見ぬ強敵と戦えると思うとワクワクして眠れませんね」


彼女は生粋の戦闘狂だったようだ。

頼もしい限りだよ。


ジェーンに軽く手を振って宿に入った。



宿屋のエントランスでは、湯上がりのアグリアスがソファーに腰掛け涼んでいた。


金木犀の香りが鼻を掠める。


「よう!」


「なんだ…リョウカか…」


「俺で悪かったな…」


「…結局、お前のその不思議な力はなんなのだ?」

俺を見上げるアグリアスの表情は真剣そのものだ。


「確か初めてアグリアスの家に泊まった時も似たようなこと言われたっけ?」


「結局、はぐらかすのか? やはり私はまだ信用されてないんだな」


やはり、という言葉が俺の胸を深く抉った。


「そ、そんな事はないんだ…」

ラッキースケベの事、馬鹿な行いで前世で死んだこと。知られるのが、恥ずかしい。ただ、それだけだ。


「私はリョウカのことを仲間だと思ってるのだがな…」

彼女の言葉は何よりも重かった。


気付けば俺は全てをアグリアスにぶち撒けていた。

前世のこと。死んだこと。女神のこと。ラッキースケベのこと。今の居場所がどれだけ大事なのかということ。初めて誰かに話した。


いつからかはわからない。俺の目からは涙が溢れ、今まで溜め込んだものが堰を切ったように、全て吐き出していた。


途中からはなにを言ってるかもわからなくなっていた。


ふ、と俺の手が引っ張られる。

そのまま脱力するようにアグリアスの胸に顔を埋めた。


「大丈夫だリョウカ。ツラかったな。でも、今は私がついてる。みんなもいる。だからもっと仲間を頼ってくれ!」

彼女は優しく俺を抱きしめ、頭を撫でる。

でも、その言葉は力強かった。


しばらくして、怪訝そうな目で宿の中に入るジェーンが視界に入り、慌てて体を起こした。


「アグリアス、わりい、みっともないとこ見せたな」


「なに、気にするな。もとからお前はみっともないだろう」

彼女に悪気はない…悪気はないのだが、

それはフォローにはなってないだろ。


「明日はみんなで勝とう!」

「ああ! そうだな!」


アグリアスの返答を背中に受け、二階に上がった。



ふと、二階のテラスの窓から夜風が入り込んでいることに気付く。


もしかして。テラスに出ると予想通りネコショウが月夜をみながら尻尾を揺らしていた。


「よ、ネコショウ!」

彼女の背中を軽く叩く。


「ひゃっ!」

ネコショウはビクッと反応して振り返る。


「リョウカ様! び、びっくりしました…」


「完全に自分の世界にはいってたもんな」


「す、すみません…」

ネコショウは何故か申し訳なさそうに目を伏せる。


そう言えば最近、めっきりラッキースケベが発動しなくなったな。いや、正確にいえば戦闘面では発動してるのに、特に仲間との間ではあまり発動しなくなった気がする。


もしかして、相手との関係性にも左右されるのか?

未だ解明できない加護にどうしても、やきもきしてしまう。


「リョウカ様…また考え事ですか?」


「あ、ああ、わりい…」

顔に出てたか。


「リョウカ様は時々、遠い目をしてますよね」


「ホントにネコショウは俺のことをよく見てるな」


「そ、そんなことはありません…」

彼女は頰を赤らめ顔を伏せる。

「リョウカ様…」


ネコショウはそこまで言いかけて言葉を飲み込んだ。


「ん? どうしたんだ?」


「い、いえ…なんでもありません!」


「なんだよ、そこまで言いかけたなら言ってくれよ。言わないならくすぐりの刑に処すぞ」

指を細かく動かしてくすぐるような動作をして見せる。


「わ、わかりました。言いますから!」


「それでいい、話し給え」


「リョウカ様はいつまで私をおそばに置いてくれますか?」


「いつまでってずっとだろ?」

どうしてそんなことを今更、訊くのか俺には分からなかった。


「リザリー様も離れ、魔族は私だけになりました」

ネコショウの言わんとすることは何となくはわかる。


「そんな些細なこと誰も気にしてねえよ」


「いえ、そうではなくてっ…」

彼女の瞳が潤んできた。


「ネコショウ…安心しろ! リザリーは俺が連れ戻してやる! みんなでまた焼き魚を食べよう」


「――はい、そうですね」


あれ? 反応が微妙だな。いまいち女心、いやネコ心は難しい。


「リョウカ様、これ以上は明日に響きます。先に休んでて下さい! 私はもう少し、夜空を見ています」


ほんの少し、拒絶された気がした。

ネコショウのこと、もっと知りたいんだけど、今日は止めておこう。


「ネコショウもほどほどにな。明日は早いから」

そう言って俺は宿の中に戻っていった。


「………です」


ネコショウが何か言っていた気もしたが、夜風に紛れてよく聞こえなかったし、気のせいだったかもしれない。


ネコショウの尻尾が夜風になびいていた。

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