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せっかく授かったラッキースケベが思ってたのと違う〜授かった瞬間に裏切られた〜  作者: 那須 儒一
四章 テウザ山編

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お化け?

「S級モンスター・漆喰シャドーガイストの生息地がここから近いです。まずはそいつを討伐しましょう!」


ジェーンの案内で、朝霧のかかった谷あいの渓谷を目指す。

彼女の話では、ここの川の水は魔物の血で汚染されておらず、給水ポイントにもなるらしい。


ネコショウは万全とは言わないが支障なく動けるまで回復していた。

復帰したばかりだというのに、

「荷物を持ちましょうか?」とか

「おんぶしましょうか?」など、やたらと俺に気を遣ってくる。


助けた事に対するお礼だとは思うが、今は無理をしないでほしい。

ま、いつも以上に尻尾が元気よく動いてるからそこまで心配しなくてもいいか。



渓谷に近づくにつれ、次第に霧が濃くなる。

空気は冷たく、生き物の呼吸を感じなくなる。

それなのに――なぜか、自分たち以外の吐息だけが、霧の奥で揺れていた。


「死臭がするね…」

隣を歩くデュナンが不穏な言葉を漏らす。


「きゃっ!」

直後、ステラが悲鳴を上げる。


悲鳴の先、霧が薄くなっている。

鼓動なき魔物の死骸が無数に地べたに転がっている。どれも、逃げる途中で力尽きたような姿勢のまま――倒れた順番すら、揃っていた。


ミザリアが死骸に近付きしゃがんで見る。

「外傷も出血も無く、ただただ衰弱して死んでいるわね」


「そう言えば、漆喰シャドーガイストって、相手を取り殺すって言ってたっけ」

ステラが周囲を警戒しながら反応する。


「うわっ!」

突如、肩に何者かの手が乗せられてビクッと震える。


驚いて振り向くと、アグリアスが震えながら俺の肩に手を置いている。

「お、おい…アグリアスどうした?」


「いや、り、り、リョウカが、こここ、怖いだろうと思ってな…」

体の芯から震えていて、まともに言葉を話せていない。

まったく、怖いなら素直に言えばいいのに。

これはこれで可愛いけど。


ん…?

ミザリアが小悪魔的な笑みを浮かべてアグリアスの背後から忍び寄る。


「わっ!!」

ミザリアがアグリアスの耳元で声を上げる。


「ぎゃあああぁ!」

叫び声を上げアグリアスが俺に飛びついてきた。


「いだっ!」

痛いからやめてくれ…せめて、抱きつく時は鎧を外してくれ。


「はっ!」

苦しむ俺を見てステラの表情に天啓が宿る。


「きゃっ! 私もこわーい!」

明らかな棒読みでステラはデュナンに飛びつく。


「僕もこわーい!」

しかし、アホ二人の思惑が重なり、

デュナンが俺に飛びついてきた事で、盛大な空振りダイブをしたステラが川に飛び込む。


「きゃあ!! だ、誰か…助けて…泳げない」

川中で座ったままジタバタするステラに冷めた言葉が飛ぶ。


「その川、浅いですよ」

ジェーンは溜息をつきながらステラを見下ろしている。


「わ、私だって…行けるはず…きゃあ…こわーいです」

ネコショウもあからさまに便乗して俺に抱きつく。


「まったく、緊張感の欠片もありませんわね!」


カサンドラが頬を膨らませているが、これはこれで俺たちらしいだろ。


軽く笑みがこぼれたところで、視界に黒いもやが映る。


――くらい影が霧中を揺蕩う。

影の縁が、乾いた白で縁取られている。


晦い影の“視線”が、

魔力の濃い者ではなく――

一番無防備な、俺に向けられているのが分かった。


「みんな、気をつけろ!」


「リョウカまで、その手には乗らんぞ!」


これまでの流れのせいでアグリアスは冗談だと思っている。


相手はS級…油断できる相手じゃない。


「斬空・大牙たいが!」

デュナンが剣を振るうと高密度の風の太刀が一直線に晦い影を捉える。


しかし、直前で影は霧散し、突如デュナンに迫る!


「危ない!」

ジェーンがデュナンを後ろに引っ張り後退させる。

「みなさん…あれに触れないようにして下さい。たちまち取り憑かれますよ!」



「霧だけでも晴らすわ! 熱魔法・快晴クリアスカイズ

ミザリアが真紅の杖を振るうと、暖かい光と共に霧が晴れる。


晦い影が晴れた視界に浮き彫りになる。


「覇光斬・十字軍!」

アグリアスが聖剣クラリウスを前方に突き出すと無数の光の剣が放たれる。


数多あまたもの光の十字剣を影はひらりと躱しアグリアスに詰め寄る。


「お姉様っ! 闇よ退け! 祓魔光エクソシズム!」


カサンドラの指先から眩い光が放たれ、影が距離を取る。

「いくら魔法が効いても、これだけ回避能力が高かったら魔法を当てるのは至難の技ですわ!」


「私の熱魔法なら焼けるかも知れないけど皆を巻き込んじゃうし…」

ミザリアの溜息をステラがかき消す。


「デュナン! 閉じ込めるわよ!」

「ああ!」


「「風の檻よ! 閉ざせ!」」

デュナンとステラは二人で同じ詠唱を重ねる。


「「感染隔離アイソレーション!!」」


正方形の風のケージが影を閉じ込める。


「今です! ミザリアさん!」

デュナンの叫び声でミザリアが深紅の杖を振ふる。


「暁に瞬くくらき星―終焉、死滅、輪廻、旭日きょくじつ…熱魔法・黒死球ブラックサン!」


風のケージの中に歪な輝きを放つ黒い炎球が出現した。

「きゃゃゃゃゃゃ!」

晦い影は耳鳴りに近いつんざくような悲鳴を上げる黒い焔に焼かれる。


ケージの内側だけ空気が歪み、地面がガラスみたいに焼けていく。


「だめ…持たない…」

ステラの掲げる手が震え出す。


「ミザリアさん…魔法を中断して!」


「くっ……」


風のケージが熱に耐えきれずに瓦解する。

直前でミザリアが魔法を中断し、何とか味方への被害は免れた。


影の動きが若干鈍くなる。


「そんな…途中で中断したとはいえ、私の最大魔法よ。しかも…再演奏リバースチャントじゃない、完全詠唱なのに…」


ミザリアの表情に絶望が浮かぶ。


「でも、動きは鈍ってる。弱って――!」

ジェーンの言葉が終わるよりも速く影は地面に横たわる魔物の死骸に取り憑いた。


死骸は晦い影に取り込まれた。

骨の擦れる音が、霧の中でゆっくりと組み替わる。

影は“元の形”を思い出したかのように、再び動き出した。


「まさか…回復したんですか…」

ネコショウの表情にも絶望が映る。


「くそっ、こんなのチートじゃねぇか…」


影が手を伸ばす。

それは掴む動きではなく――

“中に入ってくる”ような仕草だった。


これまでの“幸運”は、

すべて物理的な不運をねじ曲げてきただけだ。

呪いは――“偶然”で避けられるものなのか?

もし通じなかったら――俺はただの餌だ。


「リョウカ様っ!」

ネコショウが退魔の剣を尻尾で掴み、庇うように俺の前に出る。


「ネコショウ危な――えっ!?」


突如、背中に何者かの掌の感触が伝わる。


「リョウカさん…ごめんね!」

振り向くとミザリアのイタズラな笑みが視界に入った。しかし、その時には俺は前に勢いよく押し出され、ネコショウを押しのけて晦い影にダイブした。



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