墓穴?
ピチャ、ピチャ、ピチャ。
水が石を穿つ音で目覚める。
…ここは…洞窟?
いや、違う。周囲を見渡すと小さな小部屋にいた。
周囲の岩肌は磨かれており、明らかに人工物の気配を感じる。周囲は松明に照らされて灰色の輝きを放っている。
ふと、視線を落とすと、隣には包帯を巻かれたネコショウ(美少女モード)が静かな寝息を立てていた。
「良かった…ネコショウ…」
…そういえばカサンドラとあの女の子は?
それに他のみんなは?
――無事だといいんだが。
小部屋には薄い木の板が扉代わりに建てつけられており、簡素だが部屋としての体を成していた。
体を起こし部屋を出る。
左は石でできた階段が薄暗い上階へと伸びていた。
右は石でできた通路が仄暗い部屋へと続いていた。
どっちに行こうか…よし、クラピカ理論で右に進むか。
仄暗い部屋を目指し歩き出した。
暗い通路に自分の足音だけが反響する。
部屋の中に入ると一人の少女が棺に向かって手を組み祈るような姿勢をしている。
「もう、目覚めたのですね…」
お団子頭の少女は振り向くことなく話しかけてきた。
「こんなとこで何をしてるんだ?」
「ここは祖父の墓なんです。他の仲間の方々は全員無事に上の階で寝ていますよ」
そうか…みんな無事だったか。
ほっ、と安堵の溜息をつく。
アグリアスたちの顔を見に行きたかったが、起こさない方がいいだろう。
それと、一つ気になることが…。
「なんでこんなところに墓を作ってるんだ?」
「私たちの一族は過去に大罪を犯しました。バルフォネア王国は昔からこのテウザ山から溢れ出る強力な魔物たちから生活を脅かされてきました。そこでラインベルド3世が罪人の流刑地としてこの山を指定したのです」
「ふーん。先祖の罪を贖わないといけないなんて大変だな…」
次の瞬間、お団子の少女がキッとこちらを睨み、部屋の中を一瞬、威圧感が支配する。
「部外者から見ればそうですよね。
あの時はばたばたでお礼を言う間がなかったですね。方法はともかく…助けていただきありがとうございました」
「いえいえ、可憐な少女のためでしたら、いくらでも毒を吸い出してあげますとも!」
場を和ませようと軽口を叩いた瞬間、目の前の少女は頭を抱える。
「あなた…どこかで見たことがあるような…」
「奇遇だな。俺もどっかで会ったと思うんだけど…もしかして、これは運命?」
新手のナンパに彼女の体がビクッと震える。
「この本能的に受け付けない感じ…思い出しました。…あなたもしかして、バルフォネアの変態」
「その二つ名は誠に不本意だが…そうだよ」
「やっぱり…」
彼女の表情に明らかに恐怖と嫌悪感が滲んでいる。
「えっ…どっかで会ったことあるかな。俺が女の子の顔と匂いを忘れるなんて珍しいんだけど…」
雰囲気を和ませようと軽口を叩けば叩くほど彼女の表情は暗がりでも分かるほど青ざめていく。
「うっ…私はジェーンですよ。天頂トーナメントの決勝相手です…オエッ」
彼女は何故か嗚咽を漏らしている。
「あっ…俺のこと生理的に無理って言ってた人…」
「うっ…よりにもよって、あなたに首筋を吸われるなんて…こんなの毒で死んだほうがマシです…オエッ」
「いくら、嫌いな相手でもさすがに酷い言い草だな」
正直…ちょっと傷つく。
自分が思っている以上に、言葉は残るものだ。
「すみません。…うっ。首を洗ってきます。このままじゃお嫁にいけませんので…」
「いやいや、俺はキミの事を助けたくて必死だったんだ。確かに吸い付きながら抱きついたのは悪かったけど…」
あれはラッキースケベの加護を与えるためで、やましい気持ちなんて少ししか無かった。
「……理屈では助けてもらったって、分かってます。でも……無理なものは無理です!」
…しかし、遂にジェーンの口からキラキラの吐瀉物がマーライオンの如く吹き出した。
「うっ、…うわぁぁぁあん…」
彼女は泣きながら走り去っていった。
部屋に残る酸っぱい刺激臭と謎の喪失感が俺を支配した。




